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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
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61 標的

 エージェント・大谷の力で、質量ともに新人離れした乗り馬を集めた雅。多くのテレビ局や新聞社が追いかける中、華々しいデビューを果たした。


 中山競馬場で18鞍に騎乗した雅は、1着2回、2着2回、3着2回の成績を残した。1番人気7鞍、2番人気3鞍という圧倒的な騎乗馬の質を考えると物足りない結果ではあったが、マスコミはこぞって彼女を持ち上げるのだった。

“ミヤビン快挙!女性騎手初のデビュー週2勝”

“関係者も絶賛!馬券に絡むこと実に6回”

 客を呼べるスター騎手の誕生を、競馬会は長らく渇望している。大谷の根回しもあり、ミヤビンの愛称とともに雅をアイドル騎手として売り出すべく、着々とレールは引かれつつあった。


(優センパイの1か月分の勝ち星を、たった1週間で上げてしまった……。いい馬に乗ればあたしだって勝てる。やっぱりあたしのやり方は、間違っていなかったんだ。)

 雅とは対照的に、ローカルの小倉で騎乗した優は、11鞍に乗って2着2回、3着1回の未勝利に終わっていた。

 天才型の陽介、努力型の優とは違う第3の道を選んだ雅。以前のように一緒に進んで行けないのが心苦しくなり、自分から2人と距離を置いた彼女であったが、もはやその決断に一片の悔いもなかった。



「もしもし、大谷さんですか。おかげさまで先週は2つも勝つことが出来ました。本当にありがとうございました。」

 エージェントからの電話に喜びと感謝を伝える雅。しかし、大谷の返しは意外にも厳しいものであった。

「相川さん。先週の成績なんですが、正直なところあれでは厳しいです。回ってくれば勝てるような、抜けた馬での2勝だけでしたから。このデビュー直後のご祝儀期間の間にもう少し勝てる印象を与えないと、今後の馬集めにも影響が出てしまうでしょう。」

「ちょ、ちょっと待って下さい、大谷さん。あたしが未熟なのはあなたが一番よく知っているはずじゃないですか。あたしでも勝てる馬を用意してくれるのが、あなたの仕事でしょう?」

「もちろんそれは承知しています。ですが、関係者だって慈善事業でやっているわけではなくて、当然生活が懸かっているんです。今はデビュー直後ということでプッシュしてもらっていますが、期待に遠く及ばない結果しか残せないと、遅かれ早かれNGが出るのは避けられないません。基本的にあなたに回す騎乗馬は中田と田崎のおこぼれ、バーターなのですから、もっとプラスアルファが必要なのです。」


 2勝した上にマスコミにもてはやされて有頂天だった雅は、その結果が落第とみなされていたことに驚き、狼狽した。

「そんなことを言われても、あたしの力では、馬の足を引っ張ることはあっても、足りない馬を勝たせることなんて出来ません。……無理です。」

 

 そんな雅の弱気な返事を聞いた大谷は、少しの沈黙を経て、言うのだった。

「騎乗馬を集めるのが難しいなら────奪うしかありませんね。」

「奪う?どこから奪うと言うんですか?」

「決まっているじゃないですか。あなたと同じ、女性騎手として馬を集めている存在からですよ。あなたの先輩にして中央競馬唯一の女性騎手、藤平 優さんです。」


 そう言うと大谷は電話を切り、関係者との調整を始めた。その後、雅の今週の予定は急遽変更となり、優と同じローカルの中京競馬場で騎乗することが決まった。

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