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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
6/222

6 選択

 完全に後手を踏んでしまったチョコレートケーキ。

 「やられた!」

 鞍上の優は思わず唇を噛んだ。


 古畑の体当たりが故意か偶然かは分からない。ただ通常、スタート時の接触でペナルティーを科されることはまずない。競走馬がゲートをまっすぐに出るとは限らず、騎手によるコントロールの範疇の外にあると考えられているからである。だがそれでも、古畑ほどの経験と技術があれば、斜めに出てしまったふりをして馬体を寄せるくらいの芸当は可能だろうと思えた。


 馬の隊列が決まるスタート後の数秒、ここで優は大きな選択を迫られる。出遅れをカバーするために押し上げていくか、馬のリズムを重視して後方の位置をキープするか。

 チョコレートケーキは過去3戦、逃げか好位での競馬しかしていない。馬が走り慣れている前目に付ければ、大きな火傷はしないのではないだろうか。

 しかし、優は手綱をがっしり引いて馬を落ち着かせた。湯川が懸念していた通り、ここで押して行くと抑え切れず持っていかれる感覚があった。行きたがる馬をなだめる技術が、今の優にはまだまだ足りない。ならば馬との折り合いに専念した方がいいと、即決した。


 思えば、結果大惨敗に終わった騎手デビュー戦でも、持ち前の負けん気だけで古畑に突っ張ったわけではなかった。ハナ(先頭)を譲ってしまったら馬がレースを諦めてしまうのを手綱から感じ取り、番手に控える選択肢はないと決断したからである。この、レースにおける瞬時の感覚と冷静な判断力は、技術的にはまだまだ未熟な優の、最大の武器と言えた。


 馬が経験したことのない後方待機は大バクチであったが、幸いチョコレートケーキは戸惑うこともなく、リラックスして走っていた。各馬が先行有利を意識したか、1000メートルの通過は59秒ジャスト。少し荒れた芝を鑑みると、前にはやや厳しいペースだ。

 ただフルゲート16頭の馬群は密集しており、大外を回しては恐らく届かない、と優は判断した。勝負の第4コーナー。馬群の中に突っ込み、割って出るしか道はない。


 その時、視界に古畑のスネークバイトを捉えた。過去のレース映像をまめに研究している優は、スネークバイトがコーナリングで外に膨らむ癖があるのを知っており、その直後につける賭けに出た。

 果たして、スネークバイトは、古畑の懸命の修正にも関わらず、じわりと外にヨレて行く。そこに出来たわずかな隙間に馬の首を捻じ込み、最後の直線を迎えた。

 すると、優の目の前には、古畑が抜けて行くつもりだったであろう進路が、ぽっかりと開いていた。さすがは帝王・古畑のコース取りである。


 優は、出来上がったビクトリーロードを無我夢中で追った。スタート失敗で終わったと思われた本命馬の巻き返しに、スタンドが大きく沸く。

「お願い、届いて!」

 優は祈るような気持ちで馬を追い続ける。一完歩、また一完歩と差が詰まる。そして…。


 中団から抜け出した先頭の馬に、首差まで迫ったところが、ゴールだった。


  

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