54 雌伏
暦の上では早くも1月が過ぎ、2月を迎えた。GⅠレースの前哨戦や3歳クラシック路線の重賞が続き、年明けの中央競馬も徐々に熱気を帯び始めた。
そんな中、優は今週もローカルの中京競馬に参戦する。目指すGⅠ騎乗のために必要な通算30勝はまだ遠い。より馬が集まりやすい裏開催を中心に騎乗する現状に変化はなく、今は我慢の時である。
今週のラインナップの中での勝負駆けは、日曜の2鞍。4歳以上500万円以下条件戦のフレイムセイヴァーと、伊良湖特別のウィンドブレーカーだ。前者は同期の清原が初勝利を上げたレースで1番人気4着に敗れた馬であり、後者は前走、同じく同期の鈴木が落馬で重賞を負ったあのレースで勝ち上がった馬だ。
どちらのレースも良馬場のダートで行われる。
フレイムセイヴァーが出走するレースは、ダート1800メートルの平場のレースで、14頭が集まった。
ここでの1番人気は、ローカルの帝王・古畑の駆るカットビキング。優の騎手デビュー戦、11月の福島に続く3度目の対決だが、休み明けを叩かれて絶好の出来に仕上がっており、単勝1.8倍の一本かぶりの人気を集めていた。
対するフレイムセイヴァーは、単勝4.0倍の2番人気。福島ではカットビキングに先着しているものの、前走の敗戦で人気を落としていた。
果たしてレースは、すんなり逃げたカットビキングが8馬身差の圧勝。優のフレイムセイヴァーは、今回はすんなりゲートを出て2番手を追走したものの、直線は離される一方。完敗の2着に終わった。
「悪いな、お嬢。今回は勝たせてもらったぜ。」
三度目の正直でついに勝利した古畑は、してやったりと満面の笑顔だった。
「未勝利を勝ち上がった後は、決め手不足な感じのレースが続いているな。ちょっと作戦を考えた方がいいかも知れんな……。」
管理する太陽は渋い表情を浮かべて、思案していた。
続いて、ウィンドブレーカーの出走する伊良湖特別の時間がやって来た。ダート1400メートルで行われるこの1000万円以下条件戦には、11頭の出走馬が集まった。
8枠11番、優のウィンドブレーカーが、ここでは単勝2.5倍の1番人気に推されていた。頭数も揃わず手薄なメンバー構成で、前走の勝ちっぷりから昇級でも通用すると見られていた。
対抗の2番人気は、2枠2番のカンタロウ。ウィンドブレーカーと同じノースウィンド産駒だが、こちらは先行力を武器とする正統派のスピード馬だ。このライバル馬の鞍上は、またしても古畑であった。
レースは、カンタロウがハナを切り、ウィンドブレーカーは後方で待機する予想通りの展開で進んだ。競り合う馬もなく、前半600メートルは35秒5のスローペースで流れた。
そして最後の直線。中京競馬場のダートのは400メートル近い充分な距離があるものの、前も簡単には止まらない傾向がある。カンタロウも依然として軽快に逃げている。
しかし、直線大外から伸びて来たウィンドブレーカーは、予想以上のキレる脚を使って一気に馬群を飲み込んだ。余裕たっぷりに2馬身突き抜けて快勝した。勝ちタイムは1分25秒0、レースの上がり3ハロンは36秒8。ウィンドブレーカーはレースの上がりを1秒以上上回る35秒5の鬼脚を使っての大外一気であった。
「ここはやられたぜ、お嬢。あれだけの脚を使われたら、お手上げだわ。」
古畑が白旗を上げる。
「私もこんなにキレるとは思ってませんでした。前半じっくり行かせれば必ずいい脚を使いますね、この子。ペース不問の追い込み馬ですし、上でも通用しそうですよ。」
先ほどのリベンジを果たした優は、にっこり微笑んで感想を伝えた。
優は約1か月半で今年3勝目、通算12勝となった。依然として順調なペースで勝ち星を伸ばしている。




