表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
50/222

50 帰省

 成田特別は、ゴール前で複数の馬の進路が狭くなったため、審議となった。その対象はもちろん、1位入線した優であった。


 被害馬の騎手に続いて採決室に呼ばれた優は、正直に事の経緯を説明した。そして審議の結果、斜行自体は馬の癖によるところが大きいが、注意義務を欠いたとして、優は来週の土日まで実効2日分の騎乗停止処分を受けた。


 不利を与えてしまった馬の騎手たちにただただ平謝りの優であったが、彼女を責める者は皆無と言って良かった。いわくつきの癖馬であることは皆知っていたし、何より全身汗びっしょりで疲労困憊の優を見れば、非難よりも同情する気持ちでいっぱいになってしまったのだ。


 こうして優は、今年の2勝目と引き換えに、貴重な騎乗機会を2日分失うこととなった。



 レースに乗れないとはいえ、調教や厩舎の手伝いなど、優の仕事には変わりはない。いつも通りに過ごす気満々の優であったが、太陽にストップを掛けられた。

「優、お前正月も実家に帰ってなかっただろう。お母さんのお墓参りもあるだろうし、今週くらいはのんびり休んで来い。仕事の方はこっちで回せるから、気を遣わなくてもいい。」


 それでも遠慮しようとした優だったが、半ば強制的に帰省させられることとなった。

「それじゃあ先生、お言葉に甘えてゆっくりしてきます。」

 優が美浦トレセンを離れるのは、夏競馬の新潟滞在以来のことであった。


 その帰路の途中、優は太陽の言葉を思い出して、少しばかり引っ掛かるところがあった。

(あれ?私、先生にお母さんの命日の話なんかしてたっけ?)

 この週中、1月23日は、優の母・節子の亡くなった日だ。微かな疑問を抱いた優だったが、きっとどこかで話したのを忘れただけだろうと、深くは考えずに電車の窓を流れる風景を眺めていた。


「ただいま、お父さん。」

「お帰り、優。神谷先生とはうまくやれてるかい?」

 優の父・寿也(としや)は、神奈川県の山の中の段々畑で農業を営んでいる。ほぼ1年ぶりに見る一人娘の元気な姿に、一安心の様子である。

「うん、とてもよくしてもらってるよ。現役時代は凄い騎手だったから、全てを見通してるような指導をしてくれるの。憧れの先生の下で経験を積めるなんて、ホント恵まれてる。」

 優は、母に連れられて見たダービーでの太陽の雄姿を思い出して、感慨にふけっていた。


 1月23日。雲一つない晴天の下、優は母の墓前で手を合わせていた。

(お母さん。私は今、太陽先生の下で騎手修業をしてるよ。一人前の騎手になって、いつかここで、ダービーを勝ちましたと報告出来るよう頑張るから、見ててね。)

 決意表明とともに墓参りを終え、家路につく途中、優はふと思った。

(そういえば、あのダービーの時、何でお母さんはあんなに泣いていたんだろ。先生の熱狂的なファンだったのかな。)

 当時を思い出し不思議に思ったが、あまり深く考えることもなかった。

 

「それじゃあね、お父さん。次はいつ帰って来れるか分からないけど、体には気をつけてね。」

「ああ、分かってる。これからも悔いを残さないよう、精一杯頑張りなさい、優。」

 短い帰省を終え、優は故郷を後にした。


 

 美浦トレセンに戻った優は、神谷厩舎で来週の騎乗馬の確認をしていた。土曜日は中京で、期待の3歳馬ソーマナンバーワンの未勝利戦、日曜日は京都で、連勝中のお手馬エルブランコのGⅢシルクロードステークス挑戦と、楽しみな鞍が続く。騎乗停止が2日で済んだため、予定通りこの馬たちに乗れることに、心から安堵する優であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ