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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
5/222

5 リベンジ

 そして翌週。優は、チョコレートケーキただ1頭に騎乗するために、福島競馬場にやって来た。

 この日は中山でGIレースの皐月賞が行われるため、有力騎手たちの多くはそちらに参戦しており、福島の騎手のラインナップは比較的手薄となっていた。


 レースに騎乗する騎手は、公正を確保するために原則として、前日にその競馬場の調整ルームにカンヅメにされる。新人の優はいつものように先輩騎手に挨拶の言葉を掛けていたが、その中にデビュー戦で絡んだあのローカルの帝王・古畑の姿もあった。


「こんばんは!中京では大変失礼いたしました。明日はよろしくお願いします!」

 勝ち気が取りえの優は、全く気後れせず元気に挨拶する。

「ああ、嬢ちゃんも明日は福島か。まあ頑張れや。」

「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしないよう、頑張ります!」

 優は、大勢の前で面子を潰されたことで恨まれていないか心配していたが、サバサバと応じる古畑を見て一安心し、自室へと帰って行った。

 ところが古畑は、遠ざかるその後ろ姿を一瞥して、ボソリと呟いた。

「あのガキ、見てろよクソが…。」

 しっかりと根に持たれていた。


 そして、チョコレートケーキの出走する3歳未勝利戦がやって来た。レースは芝の1800メートル、フルゲート16頭が出走する。

 福島競馬場は、その小回りの形態に加え、芝コースでも最後の直線が300メートル足らずと短く、基本的には前に行く逃げ先行馬に有利なコースである。

 しかし、この日はそんな単純なコースコンディションではなかった。先週の土日が大雨の中で開催されたため、コースの内側が掘れてしまっていた。そのため、コースロスを嫌って荒れたインを通ってしまうと、馬場状態のいい外を回した馬に伸び負ける可能性がある。展開次第では差し追い込み馬にもチャンスがある状況であった。


 パドックに出走各馬が出て来て、周回を始めた。4枠7番のチョコレートケーキは堂々の1番人気に推されていた。厩務員をグイグイと引っ張るほどの気合で、状態の良さを示している。

「逃げられれば一番だけど、ハナにはこだわるな。打ち合わせ通り、位置取りは出たなりでな。」

 チョコレートケーキに跨った優に、湯川調教師が声を掛ける。厩舎サイドから聞いているのは、基本テン(スタートダッシュ)が速いから、自然と前目のレースになる点と、気のいい馬だから、スタート一息の時に無理に押して行くと、抑えが利かなくなる点。優自身も、レース映像を掛けてチェックして同じ感想を抱いていた。

「ホントは古畑さん辺りに乗ってほしかったんだけどな…。チャンスなんだし、頼むよマジで。」

 若い厩務員は、優の起用にあまり納得してない様子だ。担当馬の活躍に生活が懸かっている立場だし、むしろ当然かも知れない。しかし、騎手としてこの先やって行くためには、ここで結果を出して見返したい、認めてもらいたい。優は、改めて勝ちたい気持ちを強くした。


 その後ろを歩いているのが、4枠8番のスネークバイト。8番人気の伏兵だが、鞍上は古畑 耕三。虎視眈々と優を見つめる帝王は、どうやら何かを企んでいるようだ。


 全馬ゲートインが完了し、レースがスタートした。チョコレートケーキも無事ゲートを出たと思ったその刹那、外隣のスネークバイトが体半分ほどヨレ、激しく接触した。優のチョコレートケーキはダッシュを殺され、出遅れて後方からのレース運びを余儀なくされた。


 本命馬のアクシデントに、スタンドからは大きな悲鳴とため息が上がった。

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