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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
48/222

48 距離と脚質

 土曜日の京都競馬場。メインレースは4歳以上オープンの万葉ステークス。良馬場の芝3000メートルで行われる。このレースの出走馬は6頭。長距離路線の空洞化に加えて、GⅠシーズンの谷間に当たるこの時期は、オープンクラスの馬の多くが休養に充てるため、頭数が揃いにくく手薄になることが多い。


 正月の京都は、1か月の阪神開催を挟んでいるとはいえ、冬場で芝の生育が期待出来ないこともあり、その馬場状態は前年の11月の開催時の状況に負うところが大きい。去年の秋の京都は天候に恵まれたため、今の京都は超がつく高速馬場となっていた。

 

 高速馬場では、前が飛ばしてもそう簡単には止まらない。特に上がり勝負になりがちな長距離戦では、その傾向が強くなる。そういった展開面から1番人気に推されているのが、3枠3番、オリオンステークスにも出走していた5歳牡馬バーニングサン。逃げ差し自在の馬だが、他に逃げ馬のいないメンバー構成から、単騎逃げが期待されている。前走騎乗したロベールが新年のバカンスで不在のため、今回の鞍上はトンカツこと屯田 勝男。


 2番人気は1枠1番、名手・菅田が駆る6歳牡馬ハードデイズナイト。坂を苦手とする面があり、直線平坦な京都競馬場でのレースを求めての出走である。ただ2000メートル前後の中距離戦が主戦場の馬で、本当は京都金杯に使いたかったが、除外となったためここにスライドした経緯があり、3000メートルは少し長いと見られている。


 そして5枠5番、優のレオパルドンは最低人気となっていた。前走準オープンのオリオンステークスで最下位惨敗からの格上挑戦に加えて、後方待機には厳しいこの日の馬場状態から、納得の低評価と言えた。



 レースが始まると、距離に不安のあるハードデイズナイトが、後方に下がって行く。菅田も前有利は承知の上で、スタミナ温存のために待機策に打って出たか。

 一方先頭は、赤い帽子の本命馬バーニングサンが、大方の予想通りに行く────と思いきや、外から軽く押して交わして行く黄色い帽子。何と優のレオパルドンがハナを切る。


 レオパルドンは差し馬だ。しかし優は、前回の騎乗経験から予想していた。それはいつもスタートダッシュの鈍さから置かれてしまうだけで、決して後ろからしか競馬出来ない馬ではない、と。その先行策を可能にするのが、超長距離戦特有のテンの遅さであった。

 スタートダッシュで脚を使わせてまでも優がハナにこだわったのは、レオパルドンの性質を考えてのことであった。じっくり脚を溜めないと伸びないレオパルドンだが、この馬場で普通に差し切れるほどの切れ味はなく、チェンジオブペースに対応してストップアンドゴーで動かせるほどの器用さもない。かと言って充分に脚が溜まらないうちに、先頭を意識して早めに動き過ぎると、前回のようにガス欠を起こしてしまう。つまり後方待機では着狙いがせいぜいで、勝利を狙うには詰んでいるのだ。

 その点ハナを切れば、ラップを落としてじっくりと脚を溜め、長くいい脚を使う特長を引き出せる条件を整えた上で、極端な切れ味勝負にしないよう早めに動き出せば、ワンチャンスあるかも知れない。優は、それに賭けていた。


13.0 - 12.2 - 11.8 - 12.5 - 12.3 - 12.5 - 12.6 - 12.5 - 12.7 - 13.0


 最初の1000メートルを1分1秒8、そして次の1000メートルを1分3秒3。高速馬場を考えると、息の入ったスローの逃げになっている。この楽なペースに乗っかる形で、各馬はじっくりと流れに乗っており、6頭はほぼ一団となっている。逃げている格下のレオパルドンよりも、2番手のバーニングサンと後方のハードデイズナイトを意識しているのか、馬群に動きはない。

 

 そして、残り1000を切ったところで、優が手綱を徐々に動かし始める。この200メートルを 12.3 と加速し、2番手以降と3馬身ほど差が開く。

 後ろのハードデイズナイトを意識していたバーニングサンの屯田は、ここでようやく逃げ残りに危機感を覚え、レオパルドンを追いかけ始めた。


 しかし、逃げるレオパルドンは余力充分。11.8 - 11.5 - 11.6 と、決して凄い脚ではないが11秒台のラップを刻む。必死に追うバーニングサンだが、なかなか並びかけるところまで行かず、スタンドがどよめく。


(まだ手応えは残ってる、これなら……。)

 優が勝利を意識したその瞬間、大歓声が上がった。外から1頭、鋭い末脚で飛んで来た。菅田のハードデイズナイトだ!


 道中インベタの最後方にいたハードデイズナイトは、優の動きに合わせて徐々に進出して行き、直線入り口では最内を突いていた。京都外回りの4コーナーで他馬が遠心力で振られたそのインを掬う、菅田の得意技だ。そして馬群を縫うように先行馬をパスし、ついに前を捉えたのである。


 ロスなく乗られたハードデイズナイトは、上がり33秒5の末脚で直線一気の差し切り。2着に1馬身差をつけての勝利で、勝ち時計は3分4秒0であった。


 狙い通りの逃げを打った優だったが、最後はトンカツのバーニングサンにも鼻差交わされての3着に終わった。馬の地力の差もあり、結局穴を開けることは出来なかった。それでも優は、ポンポンとレオパルドンの首筋を叩いて、激走をねぎらった。





 



 

 

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