45 一年の計は金杯に有り(2)
新馬戦を勝利することは出来なかった優だが、今年の初勝利を狙って、準メインレースのカーバンクルステークスに挑戦した。
芝1200メートルにフルゲート16頭を集めて行われるこのオープン戦、優のパートナーは自厩舎のエルブランコ。ピンポンダッシュに競り勝った浜松ステークスに引き続いての騎乗となる。ここを勝って賞金を積むことが出来れば、短距離の重賞への参戦機会も増えるかも知れない。主戦の蟹田に戻さず、自分に再びチャンスをくれた太陽に恩返しをしたい。優は燃えていた。
1枠2番のエルブランコは、前走の内容が高評価を受けての1番人気。そのライバルと目されているのが、同じコースのGⅢオーシャンステークスで重賞勝ちを収めている6歳牡馬キングオブハートだ。脚質的にも似たタイプの2頭だが、実績のあるキングオブハートが賞金別定で3キロ重い58キロを背負う分、エルブランコ有利と見る向きが多かった。
レースが始まると、スタートを決めたエルブランコが躊躇なく先頭を奪う。キングオブハートがその直後でがっちりマークする。エルブランコがライバルのピンポンダッシュをマークした浜松ステークスとは、逆の形となった。
エルブランコは最初の3ハロンを33秒3で通過。現在の荒れた馬場を考えると、少々厳しいペースだ。しかし、前走でもこの馬の手綱を取った優は、自信を持っていた。その浜松ステークスでは、あれだけの激しい競り合いを繰り広げながら、レース後のエルブランコはケロッとしており、息も乱れていなかった。この高い心肺能力を生かすには、飛ばし過ぎと思えるくらい積極的に行かせるレースをした方がいい、と考えていたのである。
隊列が変わらないまま、第4コーナーを回って最後の直線に入って来た。逃げるエルブランコを、キングオブハートが捕まえにかかる。
しかし、エルブランコの勢いは衰えない。キングオブハートは差を詰めるどころか、逆に突き放されてしまう。
結局、最後まで主導権を握り続けたエルブランコが、2着に3馬身差を付けて完勝。3連勝を飾った。勝ち時計1分7秒8、上がり3ハロン34秒5は、荒れた馬場を考えると優秀だ。
優自身はこれで通算10勝目。目指すGⅠの舞台への参加、そしてダービーに挑むためにも、今年は勝ち星を積み重ねたいところであり、開催初日の嬉しい初勝利となった。
そしてメインは中山金杯。ここはフルゲートに満たない14頭の出走となった。
実はこのレース、有馬記念でのジョバンニの騎乗停止の影響で、大社グループの有力馬を中心に騎手の玉突き移動が発生。その結果、急遽空いた馬が優に回って来たのである。
その優の騎乗馬は、オトシダマ。正月開催にぴったりの名前だ。単勝9番人気の人気薄だが、超軽ハンデの48キロ。それを生かしての逃げで一発を習っていた。
自身2回目の重賞挑戦で、心が昂る。あるいはそんな平常心を欠いた状態が馬に伝わってしまったのか、オトシダマはゲート内で落ち着かずに暴れる素振りを見せる。
ガシャッ!……ああああぁぁぁっ!
ゲートが開くと同時に、スタンドから大きな悲鳴が上がる。
最初の一完歩目で大きくつまづいたオトシダマは、つんのめるような体勢になって、優を勢いよく前方へと振り落とした。優の中山金杯はスタートして1秒で終わってしまった。
幸先よく初勝利を上げられたものの、金杯ではまさかの落馬。今年の優も相変わらずの波瀾万丈が待ち受けていることを予感させる、新年の幕開けであった。




