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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
44/222

44 一年の計は金杯に有り(1)

 年が明けて、優の騎手人生の2年目がスタートした。


 ……とは言っても、年末の競馬が終わってから1週間と少々。ほとんどオフらしいオフもなく、また次の競馬が始まる。このせわしないサイクルが、競馬関係者とファンにとっては当たり前の日常なのである。


 さて、中央競馬の新年開幕を飾るのは、恒例の東西金杯。中山の芝2000メートルと、京都の芝1600メートルで行われるこのレースは、格付けこそGⅢであるが、お正月気分と競馬再開の高揚感もあり、毎年GⅠにも負けない盛り上がりを見せている。

 また、『一年の計は金杯に有り』の格言?もあり、関係者はレースの勝利で、ファンは馬券の的中で、それぞれ幸先のいいスタートを切りたいと願っているものである。



 この金杯デー、太陽と優は、新年のスタートダッシュを狙って中山に乗り込んで来た。中でも力が入るのが、新馬戦とカーバンクルステークス、そして中山金杯の3鞍だ。


 まずは新馬戦。芝2000メートルにフルゲート16頭が集まった。このレースで優が騎乗するのは、3歳牡馬のソーマナンバーワン。

 この馬のオーナーは、神谷厩舎を贔屓にする相馬 誠。相馬はこのレースが、記念すべき所有馬の初出走となった。元々は年末の出走を予定していたが、この時期はクラシックを目指す期待馬のデビューが重なるため、除外ラッシュに巻き込まれてここまで延びていた。

 血統的には決して良血とは言い難い同馬だが、調教で騎乗した優は、結構走る馬という感触を得ていた。これまで味わった最高の背中であるヴイマックスの乗り味には及ばないが、伝わって来る推進力と力強さは、オープンクラスでもやれそうなほどレベルの高いものだった。


 皐月賞と同じコースで行われるこの新馬戦は、クラシック出走に間に合わせるにはギリギリの時期ということもあり、良血の期待馬が多く顔を揃えた。


 1番人気は、ゴッドブレスユー。父は不動のリーディングサイアーのサタデーフィーバーで、母はドイツオークスを勝ったグーテンモルゲン。大社グループが誇る最高峰の一口馬主クラブであるサタデーレーシングの募集馬であり、調教で見せる素軽い動きも評判となっている。騎手は、短期免許で来日しているドイツ人騎手のディートリヒ・シュミット。


 2番人気は、ダイヤモンドダスト。父はサタデーフィーバーの代表産駒の1頭でもあるダービー馬ゴールデンウィークで、母は重賞3勝を上げたラヴファントム。同じく大社グループの一口馬主クラブであるラディッシュファームの募集馬。名門・伊沢厩舎の管理馬で、鞍上は所属騎手の神谷 陽介。


 優のソーマナンバーワンは、血統、調教とも地味なため注目度は低く、8番人気の低評価だった。しかし優は密かに自信を持っていた。

「相馬さん。稽古で乗った感じだと、この馬は荒れ馬場を苦にしないパワーを持っています。他の馬が脚を取られるようなら、一発あってもいいと思いますよ。」

 パドックで優は、相馬オーナーに不敵にささやいた。中山の馬場は、年末から連続開催の2か月目で、見た目にもかなり荒れて来ていた。大社グループの良血馬たちの多くは、近年の高速馬場にマッチした軽さとスピードを持ち味としており、このような馬場では苦戦する傾向が見られる。優はそれを知っていた。


 レースは、陽介のダイヤモンドダストがハナを切った。2番手に人気のゴッドブレスユーがつけ、ソーマナンバーワンは5番手からレースを進める。

 

 前半1000メートルを1分3秒1で通過したダイヤモンドダストを追って、シュミットがゴッドブレスユーを促して差を詰めようとする。しかし下の馬場を気にしているのか、ゴッドブレスユーの手応えが怪しい。3コーナーでシュミットのムチが何発も入る厳しい状況だ。


 ソーマナンバーワンはこれを楽にパスして2番手に浮上する。しかし鞍上の優は、ダイヤモンドダストの陽介が全く手綱を動かしてないのに驚愕する。

(こっちも伸びてるのに、差が開いちゃう!陽介の馬がこんなに強いなんて……。)


 結局ダイヤモンドダストは、持ったままで後続に5馬身差をつける楽勝。勝ちタイムは2分2秒0。

 ソーマナンバーワンは2着を死守したものの、完敗に終わった。


「クラシックに間に合えば、面白い存在になると思います。」

 勝利インタビューでダイヤモンドダストへの期待を語る陽介。

 一方、期待馬の敗戦に肩を落とす優だったが、相馬オーナーは満足気にこう言った。

「人気はなかったけど、藤平さんの言った通りよく走りましたね。今日は相手が強過ぎたけど、次もよろしくお願いします。」


 その言葉に、次走こそはオーナーに初勝利をプレゼントしたいと燃える優だった。────このソーマナンバーワンという馬は、のちに優にとって忘れられない存在となるのだが、この時はまだ誰もそれを知る由もなかった。




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