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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
41/222

41 ゆく年くる年(1)

 今年の中央競馬の開催も、残すところあと1日。浮き沈みの激しかった優の騎手1年目が、間もなく終わろうとしていた。


 中央競馬では長らく有馬記念の日が1年の締めくくりとされて来たが、現在は変更されており、12月28日、2歳GⅠのホープフルステークスが行われる日が最終日となっている。


「終わり良ければ総て良し、と言うしな。最後に勝って、気分良く年越し出来るよう、頑張って来い。」

 師匠の太陽の激励を受け、優が乗り込むのは阪神競馬場。GⅠレースの裏に騎乗機会を求めての遠征であった。

 優はここまで通算8勝。新人の女性騎手としては決して悪い数字ではないが、新陳代謝が活発な騎手界では、この辺りの成績の騎手はすぐに代わりが利く。来年度には後輩たちも新人騎手として参戦して来る中、少しでも勝ち星を増やして埋没を避けたいところだ。


 騎乗予定のレースの中で期待が大きいのが、第9レースの春待月賞。3歳以上1000万円以下条件のダート1400メートルで行われるこのレースでの優のパートナーは、10月に自身が騎乗して勝利に導いた、関西馬チョトツモウシンである。


 チョトツモウシンの持ち味は、王道とも言える好位からの抜け出し。ただ1200メートルがベストと見られており、今回は少し距離が長いと見られている。前回の騎乗から、優も同じ感触を持っていた。

「先生は、距離が微妙な馬に乗る時は、何を意識して乗っていたんですか?」

 優は、太陽に元騎手としての視点を求めた。


「出走レースの選択肢が限られている中、決してベストとは言えない条件で出走させることも多い競馬では、永遠のテーマの一つだな、それは。」

 現在のようにレース体系が整備されていなかった時代に活躍した、元レジェンド騎手の言葉には重みがある。

「今回のチョトツモウシンのように短距離馬が距離を延ばすのは、上手くいかないパターンが多いんだ。単純にその馬の持っているスタミナの上限が低いから、同じような競馬をさせるとその分ガス欠を起こして止まっちまう。」


「じゃあやっぱり、脚を溜められるだけ溜めて、スタミナを温存した方がいいんですか?」

 優の問いに、太陽は軽くうなずきながら答える。

「もちろん手段としては有りだ。実際芝のレースなんかじゃよく見られる策だ。ただ今回はダートの短距離戦だからな。圧倒的に前を行く馬が有利な条件で脚を溜めるのはリスクが高い。まして先行抜け出しを武器としているチョトツモウシンで極端に控えた時、そのスピードを末脚に乗せられるかは未知数だしな。」

 そう言われてしばし考え込んだ後、優は顔を上げてつぶやいた。

「じゃあ、逆に前、ですか?」

「ほう、だいぶ競馬が分かって来たじゃないか、優。そうだ。あえてスピードを前面に出して行かせることで、後続に脚を使わせて追撃を封じる。現役時代の俺がよくやった手だ。今回も俺ならそうする。」


 そう言って太陽は一旦自分の意見を提示した上で、優に作戦を委ねた。

「だが結局のところ、最後はお前の感覚次第だ。もしかしたら、最後方から進めれば破壊的な豪脚を引き出せるかも知れない。逆に後先考えずにぶっ飛ばした結果、止まるどころか後続を引き離して圧勝する馬だっている。この1年で身につけた技術、経験、馬とのを総動員して、自分の答えを導き出すしかない。」


 太陽は我が子を送り出す父親のように優しく微笑んで、こう結んだ。

「この1年のお前の成長を示して来い、優。それが出来ればこのレースの結果だけじゃなく、自分の未来も切り拓いて行けるさ。」


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