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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
4/222

4 チャンス

 きりがいい所で話を切っているので、各話の文章量は少なめでバラバラになっています。物足りないと思われるかも知れませんが、どうぞご了承下さい。

 優が湯川厩舎に着くと、大仲では、初老で白髪のダンディーな男性が座っていた。


「お待たせしました、湯川先生。太陽先生から聞いて、呼ばれて参りました。」

「おう、よく来たな、優。まあ座れ。」

 挨拶を交わした後、湯川が切り出した。

「実はな、来週福島で使うチョコレートケーキ、お前に乗って欲しいと思ってな。追い切りとセットで頼む。受けてくれるか?」

 

 優は驚いた。チョコレートケーキは3歳の牝馬。父はリーディングサイアーの輸入馬サタデーフィーバー、母はかつて湯川厩舎に所属しGIの桜花賞で4着に健闘したショコラトレビアンという、厩舎ゆかりの良血馬だ。デビュー戦の新馬戦で5着の後、未勝利戦で4着、3着と使うたびに内容が良くなり、次戦は勝ち負けと目されている馬だ。そんな期待馬に、未だに勝ってない新人、それも女性騎手を乗せようなんて、普通はあり得ない。

「もしかして、太陽先生に頼まれたんですか?勝てない私を見かねて、太陽先生が…。」

 優は単刀直入に聞いた。



 現在の競馬界では、エージェントと呼ばれる代理人が、騎手への騎乗依頼を取りまとめるのが当たり前となっている。そしてそれは、騎手のネームバリューとエージェントの人脈次第で、有力馬の騎乗依頼が一部の騎手に集中してしまうことを意味している。

 当然、今年デビューした新人騎手たちも、ほとんどエージェントと契約している中、優の騎乗依頼は全て、師匠の太陽が管理している。これは太陽の意向であり、優も同意している。

 太陽も時代の流れは承知しており、エージェント自体を否定するつもりはないが、まだ未熟な新人に不相応な有力馬を集めても不幸な結果を生むだけだという、昔ながらの職人気質な考え方を持っていた。

 そのため、優はほとんど自厩舎の馬に乗ることになるが、残念ながら有力な厩舎とは言い難い神谷厩舎の馬では、惨敗続きもやむを得ない状況だった。その結果に、太陽は少なからず責任を感じていたのだ。



 優の直球の質問に対して、湯川はわずかに表情を崩してこう言った。

「頼まれたのは確かだ。でもそれだけで乗せるわけないよ。チョコはかなり繊細な所があって、斤量に敏感なんだ。その点、優なら女の新人だから、かなりの得になるだろ。それにやっぱり女の子は馬への当たりが柔らかいしな。」

 

 斤量とは、レースにおいて競争馬が負担する重量のことである。そして中央競馬では、若手騎手の騎乗機会を確保する目的で、所定の大きなレース以外は減量特典が設けられている。すなわち、新人騎手は3キロ減からスタートするのだが、根強い女性差別を是正するため、女性騎手にはさらに1キロ減が与えられるようになった。減量は実績を積むか一定の年数の経過で消えていく仕組みになっているが、まだ未勝利の優は、定量の馬に対し実に4キロものアドバンテージを得られるのである。


 湯川の答えを聞いて、優は一瞬躊躇した。有力馬の依頼はありがたいし、渇望していた初勝利の大チャンスだ。しかし、もし人気馬で結果を出せなければ、見切られるのが早い現代の新人騎手にとって、一発で騎手失格の烙印を押されることになりかねない。──────しかし。


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 自分は勝つために騎手になったのだ。負けん気だけがとりえなのに、目の前のチャンスにビビッてどうする!自らを奮い立たせた優は、この情と打算に満ちた騎乗依頼を、二つ返事で快諾した。

 

 競馬というジャンルの性質上、専門用語が頻繫に出て来ます。自分なりに気をつけてはいますが、全てを説明的に書くと冗長になってしまうので、ある程度割り切って使っています。分かりにくい所もあるかと思いますが、ご容赦下さい。

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