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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
39/222

39 有馬記念ウイーク

 中央競馬も年の瀬を迎え、今週はいよいよ、年末恒例のグランプリ・GⅠ有馬記念が行われる。


 その有馬記念の話題で盛り上がる一方、先週のGⅠを振り返る声もトレセン内では多く聞かれた。

「朝日杯のヴイマックス、強かったな~。」


 中京競馬場で奮闘する優たちをよそに、阪神競馬場で行われた2歳のGⅠ朝日杯フューチュリティステークス。一番人気に推されたのは、優がデビュー戦の手綱を取ったあのヴイマックスであった。

 2歳戦を戦って来た実績馬が多く参戦する中でも、ヴイマックスのスピードは抜けていた。リーディングジョッキーのロベールを背に中団に付けると、直線であっさりと抜け出し、ムチを入れることもなく後続に3馬身の差をつける楽勝だった。勝ちタイムは1分32秒9の2歳コースレコード。いともたやすく初のGⅠタイトルを獲得して見せた。

「来年のダービーも、あの馬で決まりじゃないか。」

 そんな気の早い声も上がるほどのパフォーマンスであった。


(思ってた通りの強さだった。あれがGⅠ馬の、特別な馬の背中……。)

 このレースをモニターで見ていた優は、新馬戦で跨ったヴイマックスの、大地が弾むような乗り味を思い出していた。

(おめでとう、ヴイマックス。いつかは私も、あんな背中の馬を任されて、ダービーを目指したい。……いや、勝ちたい!)

 世話になっている花村厩舎のGⅠ制覇を祝福するとともに、まだ見ぬ夢舞台に思いを馳せる優であった。



 水曜日。有馬記念に出走を予定する馬たちが、一斉に追い切られた。


 今年のダービー馬プレタポルテ、宝塚記念を制したバーニャカウダ、昨年のオークス馬フリルワンピースらの有力馬が、順調な仕上がりを誇示するように、軽快な動きを見せる。そんな中、美浦トレセン南馬場のウッドチップコースに、陽介を背にしたジェットマンが現れた。


 記念すべき重賞初制覇をプレゼントしてくれたパートナーで挑む初のグランプリ。GⅠに騎乗する機会も増えつつあった陽介だが、やはり有馬記念という大舞台は格別。人気薄の伏兵扱いとはいえ、これまでにない緊張感に包まれていた。


 先行馬を追いかけて、直線仕掛けて交わす。そんなオーソドックスな指示を受けて追い切りに臨んだ陽介だったが、いざ追い切って見ると、期待以上の反応であっさりと交わし去ってしまった。

(おや、勝った小倉記念の時もいい動きだったけど、今回は超抜だ!上手く立ち回れれば、いいとこあるかも知れないな。)


「この馬の力を出し切れるよう、ベストを尽くすだけです。応援よろしくお願いします。」

 追い切り後の共同会見では何の面白味もないコメントをする陽介だったが、内心、一発を目論んでいた。

ローカルのハンデ重賞を1つ勝っただけのジェットマンは、恐らく下から数えた方が早い人気だ。しかし、軽ハンデながらコースレコードで重賞を勝ったほどの馬だし、スピード勝負なら通用する下地はあるはず。

非力な馬ではないが、良馬場での開催を願う陽介であった。


 木曜日の枠順抽選会。ネット中継もされる中、陽介が引き当てたのは、白い帽子の1枠1番。この枠を最大限に生かしたロスのない競馬が出来れば、上位進出も可能ではなかろうか。陽介は自分の脳内で、レース本番のシミュレーションを何度も繰り返していた。


 金曜日。土曜日に騎乗する阪神競馬場の調整ルームに入る直前の陽介に、優からのメールが届いた。

【 有馬記念頑張ってね。クリスマスパーティーの代わりに、ささやかな祝勝会or残念会を開いてあげるから。 】


 週明けに予定していたクリスマスパーティーは鈴木の負傷でお流れとなったが、ここでバッチリ決めていい所を見せたい。燃えている陽介は、やっぱり男の子であった。


 



 

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