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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
32/222

32 騎手力(1)

 激戦となった浜松ステークスを制して引き揚げて来た優とエルブランコを、関係者の温かい拍手が包んだ。


 それは恐らく、単純な勝者への祝福だけではなかった。判官びいきにも似た番狂わせへの喝采、蔓延する外国人至上主義へのうっぷん晴らし…。その裏には閉塞感に満ちた現状への不満があったのかも知れない。

 レース前上機嫌だったピンポンダッシュのオーナーは、居心地が悪そうにどこかへと姿を隠してしまった。


「今のレースはよく馬を動かせていたと思う。まずはおめでとう、優。」

 太陽は優の健闘を称えつつ、釘を刺すことも忘れない。

「ピンポンダッシュに勝てたのは、当たりの強いジョーンズが馬に合ってなかったのも大きい。あの馬は、恐らくフワッと乗るタイプの騎手の方が合ってる。実際お前が乗って連勝しているしな。決してお前がジョーンズを追う力で上回ったわけじゃない。自分が追える騎手だなどと過信しては駄目だぞ。」

 優は師匠の言葉に気を引き締めて、大勢のファンが待つウイナーズサークルへと向かった。


 

 週が明けての美浦トレセン。今週は阪神競馬場で、2歳牝馬のGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズが行われる。

 優は今週も師匠の太陽の教えを受けるために厩舎に来ていた。

「この一年よく頑張ったな、優。お前の基本技術自体は、スタートからフィニッシュまで、デビュー当時とは比べ物にならないくらい向上している。それはお前自身も実感していると思う。」

 

 優が深くうなずくと、太陽は続けた。

「だが今のお前はまだそれを生かしきれていない。覚えているだろう、お前が目指すべき騎手像のことを。臨機応変に判断し、馬にとっての最善の騎乗を実現する騎手になるためには、これまで教わり磨いてきた技術を総合的に発揮しなければならない。今はまだその技術を点でしか使えていない段階だ。レース全体でそれを線にしないと、この先トップ騎手には通用しない。」


 確かに、これまでは見えてきた課題を一つ一つクリアすべく奮闘して来たが、それが全て勝利に直結したとは言い難かった。

「先生は、私に何が足りないとお思いですか?」

 優の質問に、太陽は意外な答えを返した。

「それはな、俺がお前の乗るレースを限定して来たことも一因なんだ。お前の技術向上を優先して、短中距離の逃げ先行馬を中心に回してきた。だがもうそろそろ次の段階に進む頃合いだと思う。今後は長い距離のレースを増やして行く。お前の長所であるヘッドワークの良さと、この一年磨いてきた馬を動かすための技術を融合させて、より乗れる騎手を目指すんだ。」


 そう言うと太陽は、あえてここまで伝えてなかった、今週の騎乗予定を伝える。

「今週の日曜は、阪神でオリオンステークスがある。上位騎手が集まるなかでの、2400メートルの長丁場だ。ここにうちのレオパルドンを使うから、好きなように乗ってみろ。甘くはないが、一流の駆け引きを勉強するいい機会になるだろう。」


 2000メートルを超える距離のレースは、これが初めての経験となる。優は、トップ騎手相手に今の自分がどこまで通用するかを測る好機を与えられたことに、心を昂らせるのであった。








 

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