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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
24/222

24 恐怖

 秋競馬が始まってから、優は好調を維持していた。


 10月の終わりにはローカル開催の新潟にて、3歳以上500万円以下条件・ダート1200メートルの若手騎手限定戦を、2番人気のチョトツモウシンで勝利。通算6勝目を上げた。この馬は栗東の(はやし) 雄一郎(ゆういちろう)厩舎の所属馬。優にとっては初めての、関西馬での勝利であった。


 林厩舎はダートの短距離で活躍する管理馬が多く、このチョトツモウシンもその一頭で、先行抜け出しを持ち味とする3歳牡馬。今回は新潟で騎乗する若手騎手の中から、スタートと位置取りに秀でていると評判を上げて来た優をチョイスしたのである。優はその期待に応え好スタートを決めると、先行争いが厳しくなると見るやポジションを少し下げ、ハイペースに巻き込まれずに脚を溜めて差し切って見せた。


 優の騎手としての長所が認識されるにつれて、騎乗依頼をくれる厩舎のバリエーションも増えて来ていた。勝ち星のペースも上がって来ており、今後の飛躍が期待される新人の一人という立ち位置を固めつつあった。


 だが、好事魔多しである。



 11月に入ってすぐの福島、3歳以上500万円以下条件・ダート1700メートルの若手騎手限定戦。優は、湯川厩舎の4歳牝馬タオヤカタオに騎乗していた。

 

1番人気の支持を受けたタオヤカタオは、3番手のインで流れに乗る。手応えも良くそのまま3コーナーから4コーナーに差し掛かった。その時優は、手綱から微かな違和感を感じ取っていた。

 おやっと思いつつ4コーナーを回って直線に入ったその刹那、バキッという大きな破壊音とともにタオヤカタオは前のめりに崩れ、優はダートコースに放り出されてしまった。


 辛うじて受け身を取って前方に転がった優だったが、静止した目と鼻の先の地面を、後続の馬の右前脚がドスンと踏み抜いていった。500キロ近い競走馬が時速60キロ以上で顔面をかすめて駆け抜けるという恐怖を味わい、優は激しい動悸がしばらく止まらなかった。


 馬群が走り去ると、そこにはうずくまる優と、前足を骨折してもがきよろめくタオヤカタオが残された。

 タオヤカタオは予後不良と診断され、その場で安楽死の処置が取られた。


 騎手になってから初めての落馬事故、そして騎乗馬の死という悲しみに沈む間もなく、この日のメインレース、3歳以上1000万円以下条件の芝1200メートル戦、河北新報杯が行われた。

 フルゲート16頭が揃ったこのレースで優が騎乗するのは、花村厩舎の5歳牡馬スタンドアローン。このクラスで勝ち切れないものの上位争いを続ける安定勢力で、単勝3番人気に推されていた。


 ゲートが開くと、1枠1番から出たスタンドアローンは馬なりで5番手の内ラチ沿いを追走する。そして馬群はひとかたまりのまま、最後の直線を迎える。

 内枠がアダとなり身動きが取れないでいたスタンドアローンであったが、直線半ばで前に1頭分のスペースが開いた。ジッとしていたので脚も溜まっており、優は充分抜け出せる感覚を持っていた。


(よし、行ける!)

 さあスパートというその時だった。優の意志とは裏腹に、手綱を握る両腕が動くことを拒んだ。仕掛けが一瞬遅れ、開いたスペースは閉じてしまった。進路を失った優は慌てて手綱を引いて、ブレーキを掛ける。


 馬群を捌くことが出来ずに後退したスタンドアローンは11着に敗れ、人気を裏切ってしまった。



 

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