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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
222/222

222 長い夢

 ゴールドプラチナムが制した日本ダービーは、後日「黄金のダービー」と呼ばれるようになった。これは勝ち馬の名前が由来なのは当然であるが、もう一つ、その他の出走馬が輝かしい活躍を見せたということもある。そしてその輝きを彩った中に、優とストロングソーマの名も含まれていることは言うまでもない。


 そしてこの年の夏、日本競馬界を揺るがす訃報が流れた。数々の名馬を輩出して来た大種牡馬サタデーフィーバーが、病に倒れてこの世を去ったのである。これからはゴールドプラチナムを始め綺羅星のように存在する後継者たちが、その血を後世に残すべく奮闘して行くこととなる。



 関係者にとって競馬とは、一つの長い夢を見ているようなものである。年が変わる度に新しい世代がデビューし、また新たな栄光を目指す。自らが競馬の世界を去るその時まで、ホースマンたちはより多く、より大きな勝利を目指して日々を重ねて行く。



 時は流れて、翌春。

 鮮やかに咲き誇った桜が散り始め、風に舞う4月上旬。絶好の晴天に恵まれたここ阪神競馬場では本日、3歳牝馬によるクラシックレース第一弾、GⅠ・桜花賞が行われる。


 選ばれし18頭の出走馬たちが、パドック周回を終えて次々と地下馬道へと消えて行く。


 その先頭を行くのは1枠1番、サルビアネモローサ。

 管理するのは古畑 耕三調教師で、騎手は相川 雅。ともに初のGⅠレース出走がこの桜花賞となる。

 トライアルのアネモネステークスを2着に逃げ粘っての参戦で、単勝13番人気にとどまり勝ち負けは厳しいと見られているが、高いアイドル人気を誇る雅の参戦は、多くのマスコミを賑わせることとなった。

 

 しかし、今日の主役はこの人馬ではない。


 2枠4番、GⅡフィリーズレビューを勝っての参戦となるスピードオブライトは、あの快速馬マッハマンの全妹。単勝4番人気に推されている。

 兄同様スピードが勝ち過ぎているタイプで、マイルはやや長いのか昨年暮れのGⅠ・阪神ジュベナイルフィリーズでは失速して4着に沈んでいる。距離克服のためには楽に先行したいところであり、同型馬との兼ね合いが鍵となる。兄に引き続いて主戦を務める名手・菅田の手綱捌きに期待が懸かる。


 しかし、この人馬も今日の主役ではない。


 4枠7番、陽介が手綱を取るスネグーラチカ。2年前の菊花賞など多くのタイトルを手にしているダイヤモンドダストの全妹である。

 通算6戦3勝で、阪神ジュベナイルフィリーズ3着を経て前走のGⅡチューリップ賞で重賞初制覇を飾っており、3番人気の支持を集めている。同じ芦毛でも真っ白な兄とは違い、まだまだ黒さの残る馬体は成長の余地を窺わせるものの、ここに来ての上昇度は大きく本番でも好走が期待される。


 しかし、この人馬も今日の主役ではない。


 6枠12番は昨年の2歳牝馬チャンピオン、フォアザモーメント。全兄にヴイマックス、エナジーフローの2頭のGⅠ馬がいる血統は、サタデーフィーバー産駒が半数に当たる9頭を占める今年の出走馬の中でも屈指の良血と言える。

 極上の切れ味を武器に、無傷の3連勝で阪神ジュベナイルフィリーズを制したが、若干の余裕残しで臨んだ今年初戦のチューリップ賞では、前出のスネグーラチカの後塵を拝している。関東馬故に、関西への長距離輸送が繊細な3歳牝馬には大きな負担となることから、前走後は栗東に滞在することを選択。その甲斐あってか落ち着きを保ったまま順調な調整を積めており、デビュー以来最高の出来でこの大一番に臨んでいる。鞍上はもちろん、ミッシェル・ロベール。


 しかし、実績ナンバーワンと目されるこの馬も、2番人気にとどまっている。


 今年の桜花賞の栄えある1番人気の座に就いたのは、大外8枠18番、藤平 優とコンビを組むエレガントソーマ。

 ソーマナンバーワン、ストロングソーマという神谷厩舎の屋台骨を支える2頭の活躍馬を兄に持つ同馬は、父にサタデーフィーバーを配合されたことで、この血統の課題であった瞬発力を手にすることが出来た。

 新馬戦こそフォアザモーメントの2着に惜敗したものの、その後は3連勝。前走のGⅢ・クイーンカップで重賞勝利も果たしている。出走した全レースで最速の上がり3ハロンをマークしており、前走ではレースの上がりを1秒上回る32秒9の鬼脚を披露している。

 今回の人気は、女性騎手初の快挙を期待する過剰人気の面も否定は出来ないが、確かな末脚を評価されているのは疑いようがない。


 ギリギリまで攻めての究極仕上げのため、一歩間違えれば暴発しそうなほどの気合いを見せているエレガントソーマ。

「大丈夫だよ、エッちゃん。落ち着いて行こう」

 愛馬の緊張をほぐすべく、優はその首筋を撫でながら優しく声を掛ける。


 出走18頭の大トリ、最後尾。ピンクの帽子を被った優とエレガントソーマは、厩務員の綾に曳かれながら地下馬道出口のスロープをゆっくりと歩んで、歓声渦巻く光の中へと消えて行った。


                                             <完>

 これで終わりです。

 特に前半は正直書き直したいくらいグダグダでしたし、諸事情で更新も遅くなりましたが、この完結の時点で99人もの多くの方にブックマークして頂いたことに、心から感謝しております。


 拙い作品だったと思いますが、長らくのご愛読ありがとうございました。

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