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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
219/222

219 少女ところによりジョッキー ~ジャパンダートダービー編~(1)

6回大井3日目 ジャパンダートダービー(jpnⅠ)

(3歳オープン 2000メートル 重)


1枠1番 クラップハンズ   牡 56キロ 波止場


2枠2番 アカウンタビリティ 牡 56キロ ロベール


3枠3番 トーソンジョニー  牡 56キロ 真下


4枠4番 テムジン      牡 56キロ 神谷


4枠5番 カモンピープル   牡 56キロ 坂川


5枠6番 バルムンク     牡 56キロ 石橋


5枠7番 ストロングソーマ  牡 56キロ 藤平


6枠8番 ゲッカビジン    牝 54キロ 田崎


6枠9番 マッハマン     牡 56キロ 菅田


7枠10番 ロハノクレッグ   牡 56キロ 木林


7枠11番 ソーシンバナザード 牡 56キロ 神本


8枠12番 ウッディポコ    牡 56キロ 中田


8枠13番 エイテンパワード  牡 56キロ ジョバンニ


 1番人気に支持されたのはやはり4枠4番、断然の実績を誇るテムジン。スピード豊かなタイプでベストはマイル近辺であろうが、抜群のレースセンスから2000メートルは充分守備範囲と見られている。これまで数々の名手を配して来たが、このレースの鞍上は陽介。最強馬には最高の騎手をというベスト・トゥ・ベストの選択自体は特段珍しくもないが、今回外国人騎手でなく陽介が起用された事実は、彼が今や日本騎手界の頂点に位置していることを如実に物語っていた。


 2番人気は6枠9番、稀代の快速馬マッハマン。短距離路線からクラシック王道路線のど真ん中を走り抜け、重賞4勝を挙げているものの、GⅠタイトルには4回挑戦して未だ手が届いていない。陣営は初ダートよりも距離を心配しており、皐月賞と日本ダービーで気分良く先行させた後だけに折り合いが鍵となる。乗り慣れた菅田に手が戻るのは好材料であろう。


 3番人気は2枠2番、ユニコーンステークスの覇者アカウンタビリティ。軽快に先行して上がりもまとめる典型的なダート馬である。高速決着に強いタイプで、同じ東京マイルのヒヤシンスステークスも制した一方、より力の要る中山コースの伏竜ステークスは3着に敗れており、この大井2000の適性には若干疑問符が付く。鞍上はロベール。


 4番人気は5枠7番、優騎乗のストロングソーマ。クラシック路線での健闘に加えて元々ダート適性が高いと見られており、初ダートでも関係者やファンの評価は高い。


 5番人気は6枠8番、関東オークス1着の紅一点ゲッカビジン。レベル的にこの路線からの参戦は苦戦するケースが目立つが、地方の馬場と距離を克服しているのは強みである。鞍上はかつて南関東をホームとしており乗り慣れている田崎。


 6番人気は大外8枠13番、兵庫チャンピオンシップを勝ったエイテンパワード。交流重賞向けの先行力は備えているものの、対戦したメンバーのレベルや走破時計を勘案するとここでは厳しいか。鞍上はジョバンニ。


 以下、南関東のクラシックである羽田盃、東京ダービーをそれぞれ制したクラップハンズ、ソーシンバナザードが続くが、中央の実績馬との力差は大きいと見られている。


 さて、大井競馬場に乗り込んだ優を待ち構えていたのは、首から記者証を提げた男女二人組。お馴染みのコンビ、冴と内藤である。

「地方競馬だから紙面には載ってないけど、今日は優ちゃんに◎打ったから頑張ってね。あの馬、ダート戦に出て来たら狙うって決めてたのよ」

 的中連発で売り出し中の女記者・冴だが、大レースで優の騎乗馬を本命視するのはこれが初めてだ。

「俺もストロングソーマ本命だぜ。また嬢ちゃんから流してんだから、今日こそ勝ってくれよ。ダービーでしこたま負けたから、取り返したいしな」

 穴予想の内藤記者はちょくちょく優の騎乗馬から狙って来るものの、残念ながらそれが的中したことは未だにない。そんな二人の本命が被るのは、果たして吉兆か凶兆か。


 パドックで停止の号令が掛かり、整列から散って行った騎手たちが各騎乗馬に跨る。

「みんないい仕上がりみたいだね。中でも怖いのは、やっぱり陽介君のテムジンかな」

 ライバルたちを見渡した厩務員の綾が囁く。テムジンはストロングソーマと同じくこれが春シーズン4戦目、マッハマンに至っては実に5戦目という強行軍だが、調教の動きは実にキビキビとした様子。どちらも厳しいクラシックを戦った反動を感じさせないものであった。


 しかし体調面に関しては、ストロングソーマも負けてはいない。日本ダービーの後は流石に一息入れたものの、馬体を緩めることなく順調に乗り込んでおり、実質的な本追い切りとなった先週木曜日には、ウッドチップコースで残り5ハロンから一杯に追われ、62.2―35.9―11.7の猛タイムを叩き出した。元々叩き良化型の馬ではあるが、ピークに仕上がったと思われた前走以上の動きを見せている。新馬戦時の490キロから大きくボリュームアップした512キロの馬体はまさに筋骨隆々、充実一途の輝きを放っていた。


 そのパドックの周回中、ふと陽介と目が合った。それは恋人に向けた甘いものなどではなく、獲物を見定めるかのような鋭い視線。向こうもこのストロングソーマをかなり警戒している様子だ。私生活でどんなに仲が良くても競馬場では敵同士というこの距離感が、優にはたまらなく嬉しかった。ましてや誰よりもその実力を認めているあの陽介が自分をライバルとして認めてくれているのだから、尚更である。


 出走馬13頭はパドック周回を終え、続々と地下馬道へ潜って行く。その出口には、ナイターのカクテル光線と鮮やかなイルミネーションに照らされた本馬場が待っている。

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