表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
21/222

21 急坂

 中山の芝1200メートルで行われる勝浦特別に、優はピンポンダッシュとのコンビ継続で臨むことになった。


 登録馬を確認した上でレース展開のシミュレーションを頭の中で行っていた優だったが、レース前日に確定したピンポンダッシュの枠順は、大外8枠16番。最悪の枠であった。


 中山の芝1200メートルは、直線の短い小回りコースだが、イメージほど前に行く馬では決まらない。それは、最後の直線の半ばにそびえる急坂によるところが大きい。先行有利なコース条件を意識した各馬の先行争いが激しくなった結果、ゴール前の急坂で脚が鈍り、捕まってしまうパターンが多いのだ。


 ピンポンダッシュは、他馬を行かせると追いかけてしまうので、引っ掛かって折り合いをつけられずに失速してしまう。その気性から、是が非でも逃げたいところであったが、この大外枠では、先頭に立つまでにかなり脚を使ってしまい、終いに脚を残すのが難しい。加えて、逃げると想定されているもう一頭の馬ムーンライトが、3枠6番と内目の好枠を引いている。優には、先頭ゴールの算段が全く見えて来なかった。


 悩んだ末に優は、調整ルームに入る前に、師匠の太陽に打開策を求めた。逃げたいけど逃げたくない。そんな虫のいい話はないと思いつつ。

「あるぜ。逃げなくても逃げる方法なら。」

 太陽の答えは意外なものだった。



 そしてレース当日。勝浦特別の発走時刻が迫って来た。

 1番人気は、ジョバンニが騎乗するサンダーブレーク。鋭い差し脚を武器とする4歳牡馬だ。

 2番人気は、ロベール騎乗の3歳牝馬ムーンライト。一本調子の面はあるが、自分のリズムで走るとしぶとい逃げ馬である。

 GIデーで遠征して来ている両外国人騎手の騎乗馬が人気を集める中、優のピンポンダッシュは5番人気。前走勝ち上がってのクラス上げ初戦だったが、これまでのレース内容から潜在能力を評価され、上位人気に推されていた。


 ゲートが開き、内からムーンライトが飛び出す。大外ピンポンダッシュも負けじと好スタートを切る。

当然先頭争いを意識して、ロベールが左をチラリと見て出方をうかがう。

 しかし、ピンポンダッシュは内へと馬体を寄せずに、なんと大外からそのまま直進して行く。内外大きく離れてのハナ争いは、内枠を生かしてロベールが先手を取る。


 中山の芝1200メートルは、スタートから緩いカーブを描いて最終4コーナーを目指すおむすび型の形状になっている。内から離して走らせることで、ピンポンダッシュから逃げ馬の意識を消して落ち着かせた優は、そこで小さく手綱を右に引く。大外から直線的に4コーナーの出口に向かうことで、コースロスを最小限にとどめるコーナーリングを図ったのである。


 こうして2番手で折り合うことに成功した優は、直線に入ってムーンライトめがけてスパートした。

 楽に単騎で逃げた分余力充分のムーンライトであったが、ピンポンダッシュの地力はロベールの予想を超えていた。残り200メートルを切ったところで2頭が並ぶ。そして追う者の強みでピンポンダッシュが頭一つ前に出た。


 しかしここで高低差2メートル以上の急坂が待ち構える。先頭争いの2頭がわずかに失速したところに、ジョバンニのサンダーブレークが大外一気に詰め寄って来る。3頭固まっての接戦のゴール!1着フィニッシュは、ピンポンダッシュであった。

 勝ちタイムは1分8秒7、上がり3ハロンは35秒1。


 

 優はこれが中山競馬場での初勝利。同じ馬で連勝するのも、もちろん初めてであった。

「素晴らしい騎乗だったぞ、優。一流騎手も顔負けじゃないか。」

「太陽先生の助言通りに回って来ただけです。こんなに上手くいくなんて、自分でもびっくりですけど。」

 優は花村調教師とがっちり握手を交わして、喜びを分かち合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ