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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
206/222

206 オークス

 競馬の祭典・日本ダービーを翌週に控えた東京競馬場。日曜日のメインレースは同場5週連続GⅠの第3弾、オークスである。


 3歳牝馬によって芝2400メートルで争われるこのレース、かつては桜花賞で好走した人気馬が沈んでの波乱が目立っていた。これは、この時期の牝馬には著しくタフな距離であることと、牝馬クラシック路線がマイルを中心にプログラムされていることが大きな要因であった。

 しかし、現在に至る芝コースの改修は、結果として要求されるスタミナや底力のハードルを著しく下げることとなり、実績馬がそのまま上位を占めることが当たり前になりつつある。



第2回東京競馬10日 第11レース 優駿牝馬(オークス)

(GⅠ 3歳牝馬オープン 馬齢重量55キロ 芝2400メートル 馬場状態:良)


1枠1番 レヴェランス    田崎    


1枠2番 ルックフォーラック 神谷 


2枠3番 アラマイヤシルフィ 御子柴


2枠4番 チェイスアロウ   平山


3枠5番 トーキョーブギウギ 蟹田


3枠6番 オテンバムスメ   島田義


4枠7番 アカネサスソラ   山田 


4枠8番 ロンリーアクトレス 屯田


5枠9番 サドノヴィーナス  川越


5枠10番 ティンカーベル   ロベール


6枠11番 サニーサイダー   仁村


6枠12番 アンビシャスガール ウィルソン


7枠13番 ピュアクリムゾン  ジョバンニ


7枠14番 メランコリックアイ 杉山


7枠15番 セイショウカレン  菅田


8枠16番 マーマレードジャム 中田


8枠17番 クレオパトラ    三田村


8枠18番 シルエットバレエ  藤平


 単勝オッズ1.4倍の断然人気を集めたのは、桜花賞で女傑ニンリルと接戦を演じたピュアクリムゾン。先行して折り合える上に、速い上がり勝負にも対応出来る瞬発力の持ち主で、「テン良し、中良し、終い良し」という競走馬の理想形を体現したような馬である。血統的にも距離延長に不安はなく、死角らしい死角は見当たらない。


 離れた2番人気が、フラワーカップ→フローラステークスと連勝中のティンカーベル。野路菊ステークス1着、京都2歳ステークス3着と牡馬相手でも好走。追い込み一手の脚質ながら長くいい脚を使って確実に伸びて来るレースぶりから、陣営は長距離向けとジャッジしてこのオークス一本に目標を絞って来た。GⅠを使って来た実績馬との対戦は初めてながら、力量上位なのは間違いない。


 3番人気は、桜花賞3着馬レヴェランス。その前はアルテミスステークス、阪神ジュベナイルフィリーズ、チューリップ賞と全てニンリルの2着に甘んじて来たが、その勝ち馬がダービーに矛先を向けて不在のここは、戴冠の大きなチャンスである。強敵相手でも崩れない安定感は、確かな地力を示している。


 以下、桜花賞4着アンビシャスガール、桜花賞5着ルックフォーラック、東京コース得意のトーキョーブギウギ辺りが上位人気を形成している。


 

 レースは桜花賞同様、優が騎乗するシルエットバレエの逃げで始まった。


 今回、優が陣営から受けた指示は先行策。出来れば人気のピュアクリムゾンより前に付けて、他が行かなければハナを切っても構わないという内容であった。

 あっさりと潰されてしまった前走と同じ戦法に不安はあるものの、末脚も確かなピュアクリムゾンをマークしても交わすのは無理筋だし、後方待機からの一発に賭けてもティンカーベルらの豪脚に対抗出来るほどの切れはない。地力で見劣りする以上、紛れを起こすにはやはり自分でレースを作るしか道はないのだ。


 前回と違うのは、本質的に短距離馬のアカネサスソラが折り合いに専念して後方からの競馬を選択したため、ピュアクリムゾンが番手に付けたことだ。シルエットバレエを風除けにするかのように、ぴったりと背後に張り付いている。

 この形になってしまうともう蛇に睨まれた蛙のようなもので、この大本命馬を出し抜くのは至難の業である。それでも、あまり早めに先頭に立ちたくはないであろう騎手心理を支えに、淡々とラップを刻んで行く。


 最初の1000メートル通過は1分2秒3と、どスローの展開。3歳牝馬には不安の方が大きい2400メートルという距離もあって、各馬予想されたポジションで折り合いに専念しているのだ。そのため密集気味の馬群を維持したまま、各馬目立った動きもなく向こう正面を駆け抜けて行く。


 桜花賞では、動こうとした4コーナーで陽介のルックフォーラックの強襲に沈んでしまった、その二の舞は踏むまいと、他馬がまだ息を入れている3コーナー手前から、優は少しずつペースを上げた。ピュアクリムゾンとの差をじわりと広げると、3馬身ほどマージンを取って先頭のまま直線に入って来た。

(もう少し付いて来るかと思ったけど、ガン無視?これなら、もしかするかも)

 大番狂わせの期待に一瞬胸を躍らせる優だったが、それはほんの一瞬であった。


(⁉)

 それは、まるで瞬間移動のように。思わず右を向いた彼女がゾクッと戦慄を覚えるほど、音もなく外から忍び寄って来たのは、ピュアクリムゾン。持ったままで先頭に並び掛け、残り400メートル付近で鞍上のジョバンニが軽く促すと、瞬く間にシルエットバレエを置き去りにしてしまった。


 そこからのシルエットバレエと優は、一介の傍観者となってしまった。ルックフォーラック、レヴェランス、アンビシャスガール……。GⅠレースという大舞台の覇を競う有資格者たちが、ピュアクリムゾンを追うべく次々と抜き去って行く。

 しかし、この面々ですら、抜け出したピュアクリムゾンとの差を詰めることは出来なかった。桜花賞で早仕掛けをあっさりと跳ね返されたこれらの人気馬は、今回は優とは逆に、長い直線での失速を期待して追い掛ける形を選んだ。だがしかし、この遅いペースを2番手でぴったり折り合われてはなす術もない。


 このスローペースの展開に、末脚自慢の後方集団は当然の如く焦れていた。

 真っ先に反応したのはトーキョーブギウギの蟹田で、3コーナーで優がギアを上げたのに合わせて大外を一気にまくり上げた。直線入り口ではピュアクリムゾンに並ぶシーンもあったものの、広がった馬群の外を回したロスは大きく、直線は逆に突き放されて終戦となった。


 外を回してはノーチャンスと見たセイショウカレンの菅田は、思い切って馬群に突っ込んだ。十二分に脚を溜めたことで勢いはあったものの、密集した馬群を捌くのに手間取り、争覇圏まで突き抜けることは出来なかった。


 そんな中、後ろからただ一頭差し込んで来たのは、2番人気のティンカーベルであった。馬群を割るのは困難と見たロベールは、4コーナーまで内ラチ沿いを進むと、距離ロス承知で遠心力に任せて一気に大外に持ち出した。後は遮る者のない直線を、メンバー最速の上がり3ハロン33秒フラットの末脚で走り抜けた。


 それでも、番手追走の本命馬に、上がり3ハロンをメンバー中2位の33秒3でまとめられてはどうしようもない。2分24秒6の走破タイムで、2着ティンカーベルに実に5馬身もの差を付ける圧巻のフィニッシュ。圧倒的支持に圧勝で応えたピュアクリムゾンが、今年のオークス馬の座に就いた。

 以下、レヴェランス、ルックフォーラック、セイショウカレンと入線。高速馬場で最有力馬が好位でロスなく走って勝つという、いかにも現代競馬という決着に終わった。


 この先頭争いを遥か後方で眺めていた優は、GⅠ級の馬との圧倒的なポテンシャルの違いを目の当たりにして、ただただ嘆息するのみであった。そんな中、最後の直線を先頭で迎えたシルエットバレエに向けられた大歓声が、彼女には忘れられなかった。

(鳥肌が立つくらい、気持ち良かったな……。来週の同じ舞台でもっと長く、出来ればゴールまであの歓声を独り占め出来たら、最高の気分だろうな)

 来週の日本ダービー、愛馬ストロングソーマでのトップゴールに思いを馳せる優であった。


 ちなみにオークスのシルエットバレエは、直線までノーマークで泳がせてもらった展開利もあり、12番人気ながら8着と着順的には善戦を見せた。少なくない出走奨励金をゲットしたこともあり、陣営は皆上機嫌であったという。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] その二の舞は踏むまいと、他馬がまだ息を入れている3コーナー手前から、優は少しずつペースを上げた。 『二の足を踏む』と『二の舞を演じる』を混ざっているのでは?
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