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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
204/222

204 NHKマイルカップ

 日曜日の東京メインレースは、NHKマイルカップ。3歳限定のマイルGⅠであり、3週後の日本ダービーに向けての事実上最後のステップレースとなる。


第2回東京競馬6日 第11レース NHKマイルカップ 

(GⅠ 3歳オープン 定量 牡馬57キロ 牝馬55キロ 芝1600メートル 馬場状態:良)


1枠1番 ジャックフロスト  牡 57キロ ロベール      


1枠2番 スペースハリアー  牡 57キロ 小野 


2枠3番 ワイネルアートマン 牡 57キロ 増岡


2枠4番 レフティモンスター 牡 57キロ 蟹田


3枠5番 マッハマン     牡 57キロ 菅田


3枠6番 ツブツブミカン   牝 55キロ 仁村


4枠7番 ブルーバード    牡 57キロ ウィルソン 


4枠8番 グラスホッパー   牡 57キロ 仲本


5枠9番 キャプテンダイモス 牡 57キロ 神谷


5枠10番 セイショウヤマモモ 牝 55キロ 杉山


6枠11番 ファイナルラップ  牡 57キロ 屯田


6枠12番 ハーバービュー   牝 55キロ 福山


7枠13番 セイショウハナブサ 牡 57キロ 川越


7枠14番 ワイネルワイズマン 牡 57キロ 戸村


7枠15番 ロートババロア   牡 57キロ 御子柴 


8枠16番 テムジン      牡 57キロ ジョバンニ


8枠17番 アラマイヤウイード 牡 57キロ 中田


8枠18番 スーパーソニック  牡 57キロ 山田


 この日の東京は午前中にまとまった量の降雨が見られたが、午後になると一転晴れ上がり気温も急上昇。東京競馬場の芝のコンディションは良とアナウンスされるまでに回復したものの、実際は稍重に近いレベルであった。


“東京の芝は内から乾く”

 これは、東京競馬場のコース改修以降まことしやかに囁かれている馬券戦略である。排水設備の構造が原因との説があるが、主催者側はそれを否定している。とは言え、ただでさえ強くなっている東京の芝の内・前有利のトラックバイアスが、雨上がり直後はより顕著になるのは確かである。


 そんな状況下で1番人気に支持されたのは、快速馬マッハマン。2歳時から豊富なキャリアを重ねながらも、疲れや出来落ちを微塵も感じさせないタフネスを誇る。

 1400メートル以下では負けなしのスピードを誇る一方、朝日杯フューチュリティステークス3着、皐月賞2着と距離延長への高い融通性も示している。その前走の皐月賞では、ファルコンステークスで見せた後方待機から一転して本来の先行策に回帰したことから、今回は2ハロン距離短縮する中での折り合いが鍵となる。単勝オッズは2.1倍。


 これと人気を分けるもう一方の雄が、全日本2歳優駿の覇者テムジン。ダートの交流GⅠのタイトルホルダーでありながら、芝でもデイリー杯2歳ステークス、毎日杯を制している二刀流の無敗馬だ。

 2歳時に比べてボリュームを増した雄大な馬体はいかにもマイラーと感じさせるもので、次走に予定している日本ダービーよりもここを狙いすましたローテーションであることは明白であろう。単勝オッズは2.5倍。


 以下、トライアルのニュージーランドトロフィーを勝ったジャックフロスト、アーリントンカップ覇者ファイナルラップなどが追うものの単勝オッズには大きな開きがあり、能力と実績から人気2頭の一騎討ち濃厚と予想されている。



 ゲートが開くとあっという間に抜け出したのは、人気のマッハマン。好スタートから鞍上の菅田が手綱を動かすシーンは全くなかったにも関わらず、スピードの絶対値の違いであっさりと先頭を奪う。

 

 すると観衆がどよめく。これを追う2番手のポジションを取りに来たのは、差しを武器として来たはずのテムジンであった。

 先行しないと厳しい馬場状態を優先しての大名マークを選択したのであろうが、いつもと違うスタイルに当然馬は戸惑う。序盤はハミを噛んで行きたがる仕草を見せたものの鞍上のジョバンニが強引に抑え込み、何とか力みも抜けて折り合わせることに成功した。


 気分良く走っているマッハマンのペースに付き合ってはいられないと判断してか、3番手のファイナルラップはテムジンから3馬身ほど離れた位置での追走。以下の馬群は比較的固まった状態となり、前2頭と後続が違うレースをしているかのような様相を呈していた。


 前半800メートルの通過は、46秒ジャスト。水分を含んだ馬場を考えるとやや厳しいペースか。マッハマンの真後ろでこれをぴったりマークするテムジンという構図に変化はなく、後続との差をさらに広げながら第4コーナーを回って最後の直線へと向かう。


 大観衆のボルテージが上がる中、抜け出した2頭は馬場のアドバンテージもあり、持ったままでさらにリードを広げて行く。

 追われる立場であるマッハマンの菅田からすると、本来であれば叩き合いは避けて早めに突き放したいところではあるが、本質的にスプリンターであるこの馬にとってはマイルは少しばかり長い。ギリギリまで仕掛けを待って、残り300メートル付近でようやく追い出しに掛かる。


 右ムチ一閃、鋭い反応ですぐに1馬身ほど抜け出したマッハマンだったが、テムジンもジョバンニの激しいアクションに応えて懸命に食らい付く。

 下馬評通りのマッチレースは火の出るような叩き合いとなったが、残り50メートルでわずかに脚色が鈍ったマッハマンの外からテムジンが一気に差し込む。勢いの差で頭一つ抜け出した所がゴール板であった。

 

 1着テムジンの走破タイムは1分32秒3と、渋り気味の馬場状態を考えると上々と言えた。レースの上がり3ハロンは34秒8でテムジン自身の上がりは34秒6と、徹底マークからのチョイ差しが見事にハマった形である。これにアタマ差及ばず2着のマッハマンは、3度目の挑戦も実らずまたしても悲願のGⅠ制覇を逃した。

 前傾ラップの流れを後続も懸命に追い掛けては来たが、3着ブルーバードはマッハマンから遅れること4馬身。追い掛けるには厳しい馬場だったにしても、前2頭との力差が浮き彫りとなる結果となった。


 後日、1着テムジンはジョバンニ続投で、そして2着マッハマンは主戦の菅田がニンリルに騎乗するため蟹田に乗り替わって、ともに日本ダービーへと駒を進めることが発表された。

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