189 桜花賞(1)
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満開となった桜が春本番を告げる4月上旬。阪神競馬場では今週日曜日、いよいよ3歳牝馬クラシックの第1弾となるGⅠ・桜花賞が行われる。
昨秋の菊花賞では本番での乗り替わりを強いられた優にとって、このレースが騎手人生初のクラシックレース騎乗となる。騎乗するのはシルエットバレエ。前走のアネモネステークスを始め3勝をこのコンビで上げているものの、年末の阪神ジュベナイルフィリーズでは7着に完敗しているように、一線級に交じると見劣りしてしまう感は否めない。
「おはよう、優ちゃん。今週はいよいよ桜花賞だね。シルエットバレエの調子はどう?」
週中の美浦トレセンで優に声を掛けて来たのは、取材で訪れていた女記者の冴だ。
「輸送があるので今週は軽く流すだけの予定ですけど、私が乗った先週の追い切りはなかなかいい感じでしたよ。一回使って状態は上がっていると思います。ただ────暮れのGⅠでも流れに乗った競馬は出来たんですけど、ちょっと物足りない結果に終わってしまいました。背中から伝わる感触からすると、もう少しやれてもいいはずだと思うんです。今回は思い切った競馬をしてみるつもりです」
「確かに、正攻法でどうにかなるほど今年のメンバーは甘くなさそうだからね。行くか、控えるか、優ちゃんの肚はもう決まってるみたいだね」
冴の言う通り、今回の優の騎乗法は既に固まっていた。彼女が目指すのは入着ではなく、あくまでも勝利。その最短距離にいると目される女王ニンリルを打倒するために、決め手で劣るシルエットバレエが取る作戦はただ一つしかないからだ。
桜花賞について二人でいろいろな意見を交わしたあと、冴が思いがけない情報を伝えて来た。
「そうそう、こないだ勝ったロハノチャールズね、雅ちゃんを乗せてプリンシパルステークスでダービー切符を獲りに行くらしいよ。勝ったらきっと盛り上がるだろうね」
ダート路線で活躍したロハノロッキーを兄に持つロハノチャールズは、先月末の中京競馬場の大寒桜賞を逃げ切って2勝目を上げたばかりだ。
管理するのはあの古畑 耕三調教師。勇退した調教師の馬房を引き継いで、この3月に開業したばかりの新人調教師だ。そのご祝儀で転厩して来た同馬の勝利が、記念すべき開業初勝利となったわけであるが、その鞍上にいたのが雅であった。縁のある二人がタッグを組んでダービー挑戦となれば、優としても嬉しいに決まっている。
ただ、優の心境は複雑であった。相棒のストロングソーマのダービー出走が確実とは言えない状況の中、賞金順位の低い馬が出走枠をさらって行くのは決して好ましいことではない。まして、もし彼女に同じレースの騎乗依頼があれば、勝ち馬にしか与えられない優先出走権を巡って二人と戦うこととなる。優の騎乗馬が勝つようなことがあれば、二人の夢を叩き潰した挙句に自分の騎乗馬の除外の危機を招くことにもなりかねない。つくづく騎手というのは因果な商売であると、彼女は一人溜息をつくしかなかった。
そして迎えた週末。天候にも恵まれ、中央競馬は土日とも全場良馬場の絶好のコンディションの下で開催された。
土曜日に行われたGⅡニュージーランドトロフィーは、マイル路線で善戦を続けて来たジャックフロストが優勝。以下、スーパーソニック、アラマイヤウイードまでの3頭が、本番のNHKマイルカップの優先出走権を獲得した。
明けて日曜日。阪神競馬場のメインレース、桜花賞の発走時刻が迫って来た。出走各馬がパドックに姿を現し、周回を始めている。
第2回阪神競馬6日 第11レース 桜花賞
(GⅠ 3歳牝馬オープン 馬齢重量55キロ 芝1600メートル 馬場状態:良)
1枠1番 セイショウカレン 川越
1枠2番 シルエットバレエ 藤平
2枠3番 アンビシャスガール ロベール
2枠4番 マーマレードジャム 中田
3枠5番 ピュアクリムゾン ジョバンニ
3枠6番 レクリエーション 棚田
4枠7番 アラマイヤシルフィ 御子柴
4枠8番 ルックフォーラック 神谷
5枠9番 アカネサスソラ 山田
5枠10番 ハーバービュー 福山
6枠11番 トーキョーブギウギ 蟹田
6枠12番 ツブツブミカン 仁村
7枠13番 ダイクジュエリー 屯田
7枠14番 クレオパトラ シュミット
7枠15番 カイネクォーツ 増岡
8枠16番 ハートウォーミング 三田村
8枠17番 レヴェランス 田崎
8枠18番 ニンリル 菅田




