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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
18/222

18 事件

 目指している方向が間違っていないと自信を深めた優は、その後も新潟で奮戦した。


 騎乗馬の質は決して高いとは言えないものだったが、人気以上の着順に持って来ることも多く、太陽の尽力で騎乗を依頼してくれた調教師の信頼を、徐々に掴んでいった。


 そして、力を入れていた直千競馬でも、夏の新潟競馬の最終日最終レース・雷光特別を制し、通算3勝目を上げることが出来た。これが優の特別戦初勝利でもあった。

 この時騎乗したのは3歳牡馬のピンポンダッシュ。管理するのは、美浦の調教師リーディングでも毎年上位をキープしている花村(はなむら) (さかえ)厩舎だ。この勝利で、優は名門厩舎との繋がりという大きな財産を得たのだった。


 デビューしてからここまで約半年で3勝。2か月に1勝のペースは相変わらずだが、優はこの後始まる秋競馬に向けて希望で胸を膨らませながら、新潟での夏を締めくくった。



 一方、この2か月半に及ぶ夏競馬の間、優の同期のトップ2人に関する、大きな事件が起きていた。


 一人は、栗東に所属する西野 大地。父親でもある所属厩舎の西野 幸喜調教師や、幸喜師と繋がりのある関係者のバックアップもあり、デビュー直後は3月2勝、4月2勝と順調に勝利を重ねた。


 しかし、二世騎手としての過度に高いプライドに、将来の傲慢な性格も相まって、大地は調子に乗った。父の威光を笠に着て関係者に悪態をついたり、夜な夜な繁華街で遊び回って翌朝の調教にも寝坊したりと、その悪評は瞬く間にトレセン内に広がった。

 その結果、大地への騎乗依頼は激減。馬主からもNGが出されるようになり、父の幸喜ですら馬を回せないようになってしまった。大地は5月に1勝を上げた後、全く勝てないまま夏競馬に突入した。


 それでも自分を一流と信じて疑わない大地は、夏の北海道に乗り込む。しかし、多くの一流騎手が集まる上に頭数が集まらないレースも多いこのシリーズでは、干されつつある新人の大地になど、当然馬は集回って来ない。騎乗ゼロの日も多く、勝ち星は遠くなるばかりであった。

 ライバル視していた同期の神谷 陽介が活躍するのを尻目に、大地は焦っていた。何とか有力馬を確保しようと、札幌開幕日のメインレース、1600万以下条件準オープンのハンデ戦、TVh賞に出走するレイジーナックの騎乗を取り付けた。


 レイジーナックは3歳牡馬で、ハンデは50キロ。一つ下の1000万以下クラスからの格上挑戦のため、かなりの軽ハンデとなったが、これまでの走りから能力は充分通用すると見られていた。しかし、騎乗予定だった騎手が体重の問題で50キロでは乗れないため、鞍上が宙に浮いていた。そこに直訴して大地の騎乗が決まったのである。


 問題なのは、大地自身も体重の問題を抱えていることであった。元々体重が落ちにくい体質の大地は、普段の体重が52キロもあり、常に減量に苦しんでいた。馬の斤量は鞍などの馬装具込みの重量のため、50キロの馬に乗るためには、騎手は48キロくらいまで絞らなければいけない。

「きっちり減量しますから、大丈夫です。お願いします!」

 体重を心配する調教師に対し、大地はそう宣言していた。


 ところが、レース当週にも関わらず、大地は夜遊びを止めることが出来なかった。当然体は絞れておらず、焦った大地は、レース前日の段階でサウナにこもって汗を流していた。

 ────しばらくしてサウナルームで、脱水症状を起こして倒れている大地が発見された。当然レースに騎乗することは出来なくなり、レイジーナックは空いていた若手騎手に急遽変更となり、惨敗した。


 信頼を取り返しのつかないレベルで失った西野 大地の騎手人生は、事実上ここで終わった。



 そしてもう一つの事件は、優の親友、神谷 陽介の重賞初制覇。騎乗馬は、七夕賞で優が乗って惨敗した、あのジェットマンであった。

 

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