173 きさらぎ賞
1月の中央競馬も最終週。土曜東京10レースのクロッカスステークスは、優が騎乗した3番人気ソーマスターシップが好位から抜け出し快勝。朝日杯フューチュリティステークス9着完敗から巻き返し、通算成績を4戦3勝とした。
「この子、もしかしたら1400メートルがベストなのかも知れません。朝日杯は相手が強かったにしても最後はアラアラだったのに、今日はゴールまでしっかり伸びてましたから。」
1600メートルだとちょっと長いけれど、1200メートルだとスピードの絶対値が足りない。そんな中途半端な距離適性を持つ馬は、実際山のように存在している。ソーマスターシップがそうなのかはまだ分からないが、優のジャッジを基に同馬の次走は2度目の重賞挑戦、3月のGⅢファルコンステークスに決定した。ここには快速馬マッハマンが出走を予定している。
また、週中の水曜日に川崎競馬場で行われた交流GⅠ川崎記念は、昨年の最優秀ダートホースに輝いたサジョウノロウカクが貫禄の勝利。この後はフェブラリーステークスからドバイワールドカップを予定している。
日本の砂ダートとアメリカ・ドバイの土ダートは別物であるため、日本のダート王者が海外に遠征してその厚い壁に弾き返されることも特段珍しくはない。それでも国内のダート路線に魅力的なレースが少ないこともあり、栄誉と賞金を求めての挑戦は絶えることがない。
そして暦は2月に替わり、冬の終わりが見えて来た。その向こう側には春シーズン、3歳馬にとってはただ一度のクラシックへと続く勝負の季節が控えている。
2月の開幕週の日曜日には、東京で古馬のマイル戦である東京新聞杯、京都で3歳戦のきさらぎ賞と、東西でGⅢが予定されている。
きさらぎ賞は、関西の数多くのスーパーホースが東上前のステップとして使って来た歴史ある重賞レースであるが、近年はローテーションの傾向の変化や時期的な問題もあって空洞化が目立ち、少頭数の小粒なメンバー構成となることが多い。
今年の主役を務めるのは、朝日杯フューチュリティステークスでキャリア1戦ながらゴールドプラチナムの2着に食い込んだフリーアズアバード。GⅠ2着で収得賞金を1800万円としており皐月賞出走は当確であるものの、ダービーを見据えると心もとない額であるため、手薄なこのレースで賞金加算を狙っている。なお、過去2戦で手綱を取った田崎がスルスミでクラシックに挑むことを決めたため、今回から同じエージェントで地方競馬出身の先輩である中田と新コンビを組む。
これに対抗するのが、ホープフルステークスでは荒れ馬場に苦しみ5着に敗れたポテンショメータ。父ジントニックは代表産駒ニンリルを始め、極上の切れ味を武器とする差し馬を多数輩出している。冬場で若干の荒れはあるものの、良好な馬場状態を保っている京都の芝コースは直線に坂もなく、この馬のポテンシャルをフルに発揮できる条件が整った。今回は鞍上にロベールを配し、必勝態勢を敷いている。
第2回京都競馬4日 第11レース きさらぎ賞
(GⅢ 3歳オープン 賞金別定 芝1800メートル 馬場状態:良)
1枠1番 ランチボックス 牡 56キロ 杉山
1枠2番 フリーアズアバード 牡 57キロ 中田
2枠3番 マカフシギ 牡 56キロ 多田
2枠4番 ステキフテキムテキ 牡 56キロ 福山
3枠5番 セイショウオオワシ 牡 56キロ 菅田
3枠6番 アラマイヤカイザー 牡 56キロ 屯田
4枠7番 ポテンショメータ 牡 56キロ ロベール
4枠8番 グラスホッパー 牡 56キロ 仲本
5枠9番 ヂアミトール 牡 56キロ 三田村
9頭という少頭数に加え、ホープフルステークスで着外に終わった馬が多くを占める面子でもあり、戦前の下馬評は完全に1番人気フリーアズアバードと2番人気ポテンショメータの2強ムードであった。
レースは逃げ馬が一頭もいない中、好スタートから押し出されるように先頭に立った5番セイショウオオワシの逃げで幕を開けた。内から1番ランチボックスが2番手。大外からこれを追うように9番ヂアミトールが3番手に付けて、この3頭が先頭集団を形成する。
その直後、この集団を見るように内ラチ沿いを追走するのが、1番人気の2番フリーアズアバードだ。ただ前走でハイペースのマイル戦を走った影響かハミを噛んで掛かり気味で、鞍上の中田が立ち上がり加減で必死に折り合いを付けている。
その外から3番マカフシギ、4番ステキフテキムテキ、8番グラスホッパーと続いて、最後方を並走するのが6番アラマイヤカイザーと7番ポテンショメータの2頭という隊列で、各馬向こう正面を疾走して行く。
積極的に引っ張る馬のいないこのレースは、先頭から最後方までおよそ6~7馬身ほどで一団となったまま、半ば約束されたスローペースで流れて行く。3コーナーに突入したセイショウオオワシの1000メートル通過は、実に1分2秒2という遅さであった。
ここであまり仕掛けを待ち過ぎると、紛れが生じて思わぬ伏兵の台頭を許すことにもなりかねない。逃げるセイショウオオワシの菅田がそうたやすく内を開けてくれるわけがないと読んだ中田は、フリーアズアバードを上手く馬群の外に導き、ガシガシと激しく手綱をしごき始めた。
それを合図に各馬の騎手もスパートを開始し、集団は一気に加速する。最後方で楽に構えていたポテンショメータもまくるように大外から進出して行くが、ロベールの手綱はほとんど動いておらず、痺れるような手応えで4コーナーから直線へと立ち上がって行く。
迎えた最後の直線は、どスローからの究極の瞬発力勝負。外目から早めに先頭に立ったフリーアズアバードをさらにその外からポテンショメータが追う展開で、予想通りの一騎討ちとなった。
2頭で後続を勢い良く引き離して行くが、前半力んだ分もありフリーアズアバードの脚色が若干鈍る。そこで一気に差を詰めたポテンショメータが残り100メートルで先頭に立つと、1キロの斤量差もあってか1馬身と4分の1の差を付けて、鞍上のロベールが手綱を抑える余裕を見せての完勝。
勝ち時計は1分47秒6、上がりの4ハロンの推移は11.8-11.4-11.2-11.0という加速ラップを刻んでおり、勝ったポテンショメータのラスト1ハロンは推定10秒8という鋭さであった。
1着賞金3800万円を獲得したポテンショメータは、これで収得賞金を2800万円として、ダービー出走をほぼ安泰とした。2着に敗れたフリーアズアバードも収得賞金750万円を加算し、最低限の目的は果たした格好となった。
この結果を受けて日本ダービー出走のボーダーラインがさらに上がることが予想され、その出走枠18頭を巡る争いは一層激しさを増すこととなった。




