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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
172/222

172 少女ところによりジョッキー ~TCK女王盃編~

 悲願の重賞制覇を目指し、交流競走への挑戦を続ける優とロマンシングソーマ。交流重賞戦線は、出走枠や賞金ボーダーの関係で出走メンバーがある程度固定化されることが多いため、有力馬にとっては上位に入って賞金を獲得出来る公算が大きい反面、能力が高いライバルとの戦いが続くことになり、勝ち切るには抜けた能力か展開の助けがないと難しいところである。


 今回ロマンシングソーマが挑戦するのは、大井競馬場で行われるGⅢ・TCK女王盃。女王サンディビーチが2月のエンプレス杯予定で不在の中、前走で苦杯を嘗めた地方馬ロゼッタとの再戦ムードが高まっている。


1回大井3日目 TCK女王盃(jpnⅢ)

(4歳以上牝馬オープン 1800メートル 賞金別定 良)


1枠1番 エリザベスカラー  5歳 55キロ 御子柴


2枠2番 ロゼッタ      4歳 55キロ 神本


3枠3番 カイネシュガー   4歳 54キロ 増岡


4枠4番 エナリマリアンヌ  5歳 54キロ 西崎


5枠5番 ホットスポット   6歳 55キロ 波止場


5枠6番 ロマンシングソーマ 4歳 54キロ 藤平


6枠7番 レインボープリズム 4歳 54キロ ロベール


6枠8番 トーソンメロディー 7歳 55キロ 吉本(よしもと)


7枠9番 ニューホライズン  4歳 54キロ 真下


7枠10番 ミスジェシカ    6歳 56キロ 田崎


8枠11番 シンクポジティブ  5歳 54キロ 坂川


8枠12番 ソーシンプリティー 4歳 54キロ 木林 


 先月のクイーン賞と重複する出走馬が目立つ中、中央馬で新たに参戦して来たのはカイネシュガー。昨年のフェアリーステークスを勝った芝の重賞ウィナーであるが、その後のGⅠ戦線では頭打ちだったこともあり、血統的に向きそうなダート路線に舵を切って来た。


 1番人気はここも地方の女傑ロゼッタ。その前走は鞍上・神本の好リードもあり、ロマンシングソーマを押さえて勝利した。その2着馬との斤量差が今回は1キロに縮まることもあり、単勝1.9倍と更に支持率を上げての大本命となった。


 2番人気に支持されたのも、クイーン賞と同じくロマンシングソーマ。前走は脚を余した格好で力負けではない印象を与えたが、2キロ貰って勝ち切れなかったことで人気では逆に水を開けられてしまった。


 3番人気は、そのクイーン賞を逃げて3着のレインボープリズム。ロベールの継続騎乗に加えて、前走で距離に目途を立てており、同距離で2戦目の今回は更なる前進も期待出来る。


 クイーン賞の上位3頭に次ぐ4番人気が、新規参入のカイネシュガー。父ブロンソンズターンはダートでも良績を残すパワー系の種牡馬であり、初ダートながら高い支持を集めている。調教で見せるパワーと先行力を生かせば上位進出の可能性も充分だ。


 5番人気は去年のこのレースの覇者エリザベスカラー。近走は勢いを欠くも、地力は確かで侮れない。今回は陣営が積極策をほのめかしており、初のブリンカー着用で変わり身を狙う。


 ゲートが切られると、真っ先に飛び出したのは最内の白い帽子、御子柴騎乗のエリザベスカラー。ブリンカー効果か今までにないほどの行きっぷりで、鞍上が軽く促しただけですんなりとハナを奪取した。

 その番手に付けたのが、ロベールのレインボープリズム。千八2戦目の今回は折り合いもばっちり付いており、内から主張するのを見て無理せず控えている。

 さらに3番手には初ダートのカイネシュガー。芝でも通用するスピードを生かして、馬なりながら絶好の位置の確保に成功。コースに戸惑う様子もなく楽に追走出来ている。


 この3頭が引っ張る流れの3番手に付けたのが、1番人気のロゼッタ。そしてそれを見るように外に張り付いているのが、2番人気のロマンシングソーマ。前走とは逆にロゼッタを徹底マークするポジショニングで、これを封じ込めるべく追い出しのタイミングを計っている。

 ここから少し離れてもう一頭の重賞馬ミスジェシカで、後の6頭の地方馬は重賞の流れに付いて行けずに早くも脱落気味。人気馬同士の争いとなったレースは後半戦へと向かって行く。


 1000メートルの通過タイムは1分2秒9と、決して厳しいペースではない。しかし、レースはなかなか動かない。人気の2頭が牽制し合っているためだ。

 あわよくばロゼッタを内のポケットに押し込もうと外に構えたロマンシングソーマの優だが、そうはさせじと神本も1頭分外に張り出して追走していた。力量がほぼ互角の2頭には、先に動いて目標になりたくないとの思惑が共通しており、結果我慢比べの様相を呈していた。


 その人気2頭の見せた隙を突くべく、先行勢は示し合わせたかのように動かず隊列を保ったまま3~4コーナーを抜けて行く。その様子を見た神本は、さすがにこれ以上はまずいと業を煮やしてついにスパートを開始する。それに合わせて優も動き出し、2頭は並走状態で前を追って行った。


 直線に入っても逃げるエリザベスカラーの脚色は衰えない。直後のレインボープリズムが逆にジリジリと差を広げられる中、これを交わしてカイネシュガーが2番手に浮上する。


 伸びを欠くレインボープリズムを抜き去ったロゼッタとロマンシングソーマだが、前に楽をさせ過ぎたこともあり、猛然と差を詰めるという訳には行かない。それでも併せ馬の状態でもう一伸びを見せ、なんとかカイネシュガーを捕らえて見せる。


 しかし追い上げもそこまで。結局楽逃げに持ち込んだエリザベスカラーが、1馬身半の差を付けて後続を完封。このレース連覇を達成した。勝ち時計は1分53秒6、上がり3ハロンは38秒1。

 そして激しい追い比べとなった2着争いは、マークした分と斤量差が生きたか頭差でロマンシングソーマが制した。以下、カイネシュガー、レインボープリズム、ミスジェシカと入線。


 お世辞にも大井のペースを熟知しているとは言えない優にとって、人気のロゼッタをマークする作戦は地元の雄である神本に仕掛け所を委ねる利点もあり、一石二鳥のはずであった。

 誤算だったのは、逃げの手に出たエリザベスカラーが予想より遥かにしぶとかったこと。前走でだらしない敗戦を喫していたこともあり、さしもの神本も少々甘く見ていたのは否めない。

 

 人気馬が牽制し合っている間に前を行く穴馬にしてやられることは珍しい事ではないが、この重賞の大舞台での敗戦はあまりにも痛過ぎた。

「すいませんでした。神本さんより先に私から動いた方が良かったかも知れません。2戦続けて力を出し切れずに終わってしまって……。」

 師匠の太陽とオーナーの相馬にそう言って詫びる優の表情は、苦渋に満ちていた。騎乗ミスと責められても仕方のない連敗に、彼女は降板すら覚悟していた。


「まあ仕方ないだろう。あの神本が見誤るくらいだしな。俺も現役時代はあんまり大井は得意じゃなかったけど、ここは難しいコースだから地元のトップをマークするのは間違っちゃいないさ。」

 太陽はそう言って、優を責めることはしなかった。

「みんな力のある馬だから、こういう事もありますよ。前回負けたロゼッタには先着出来たわけだし、また次のエンプレス杯で頑張りましょう。」

 相馬も相変わらずの前向きさで、この脚を余しての敗戦にも納得の様子でもう次を見据えていた。


 優は自分をかばってくれる二人に感謝すると同時に、チャンスを貰っているのに結果を出せない自分の不甲斐なさがたまらなく悔しかった。次走のエンプレス杯がラストチャンスのつもりで、勝っての恩返しを心の中で誓う優であった。

 


 

 


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