17 直千
新潟第9レース、閃光特別。芝直線1000メートルで行われる、3歳以上500万下クラスの定量戦である。今年はフルゲート18頭の出走馬が揃い、パンパンの良馬場で行われる。
1番人気は7枠13番、ブルーストライプ。騎手はマッテオ・ジョバンニ。彼は翌日の重賞アイビスサマーダッシュに合わせて新潟に遠征して来ていた。4歳牝馬で、55キロを背負う。行く気に任せて先行し、スピードを生かすタイプの馬である。
優が騎乗するのは、2枠3番、7番人気の3歳牝馬ベビーフェイス。後方から脚を伸ばす差し馬だ。このレースは特別戦のため減量の特典が与えられないものの、定量で52キロの斤量は、4歳以上の古馬や牡馬相手には有利な条件である。
そして、スタート。目立った出遅れもなく、全馬ほぼ揃ってゲートから飛び出す。その直後から馬群全体が、一気に直線の外側に圧縮され始める。これは新潟直千のセオリーである❝外枠有利❞を意識した結果の、お馴染みの光景である。
直線コースは、その幅員いっぱいに広がっての、駆け引きのないスピード勝負を意図して作られたコースのはずである。特に、内外の馬場状態がフラットと思われる開幕週の馬場では、内の馬がわざわざ外に持ち出すような、ロスの大きな競馬をする必要はないと思われるかも知れない。実際、ヨーロッパの直線競馬では、内外二手に大きく分かれる展開が多い。内外どちらかに寄るのは、馬が基本群れで走る動物だという習性を踏まえての結果ではあるが。
しかし新潟では、ほとんどの馬がスタートから外ラチを目指して殺到する。これは、前回までの開催で使用して馬場が傷んだ影響が残っていると考えられているためである。レースで踏み荒らされた結果、よく通るコースほど地盤が掘れ、その上の芝の根付きや生育にも差が出る。直千以外のレースでは内ラチを頼ってレースを進めるから、外ほど傷みが少なく、それが次開催にも影響するのだ。
深く力のいる洋芝を使っているヨーロッパと違い、基本的に軽くスピードの出やすい芝を使っている日本では、芝コンディションの違いは大きな差を生む。実際、直千競馬で、あえて内を突いた馬が勝つことはほとんどない。外にこだわるのは当然と言えよう。
レースは本命馬ブルーストライプが、ダッシュ良く先手を取り、外枠スタートの利を生かして外ラチ沿いのベストポジションをキープする。
一方ベビーフェイスは不利な内枠からのスタート。優はスタートしてから愛馬をじわじわと外に導き、馬群の中団につける。
「外にこだわるのはいいが、大外にはこだわるな。」
コース取りにおいて、師匠の太陽は優にこう伝えた。馬群が外ラチ沿いで固まる直線競馬では、馬群を抜けようとしても前が塞がってしまうリスクが高い。スタートから50秒余りでゴールを駆け抜ける超電撃戦で、このロスは致命的である。
「馬場の内から七分どころ辺りなら、外ラチ沿いと極端な差はない。そこをギリギリのラインとして、進路を確保するんだ。ただしそこはラチ沿いを諦めた馬も切り替えて狙って来る。だから、周りよりワンテンポ早く仕掛けてまっすぐ走らせろ。この距離なら、右往左往するよりその方が得になる。」
優は太陽のアドバイスを忠実に実行し、残り600メートルの標識を待たずに猛然とスパートした。他馬に先んじて仕掛けた分、進路を遮られることもなく、一気に先頭集団に並びかける。
そして、追って来た後続を交えての、馬体を並べての激しい叩き合い。
最後はスタートから全くロスなくレースを進めたブルーストライプが、ジョバンニの檄に応えて2馬身突き放し、悠々と逃げ切りを果たした。優のベビーフェイスは、早仕掛けの分ゴール前でわずかに脚が鈍るも、3番手で入線した。
7番人気3着は、内枠の不利を考えると大健闘と言える。優は太陽に感謝し、さらに師匠への信頼を深めるのだった。




