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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
168/222

168 遅れて来た大物

 毎年恒例の東西金杯を皮切りに、新年の中央競馬がスタートした。


 日曜日の優は、万葉ステークスのザゴリラに騎乗するために京都遠征。中山のメインレースは3歳牝馬のGⅢ、フェアリーステークスである。


 その中山では、第6レースに芝2000メートルの新馬戦が組まれている。皐月賞から始まる牡馬クラシック路線に乗るためのデビュー時期としてはこの辺りがギリギリの線でもあり、仕上げに手間取った素質馬たちがこぞって登録したため、フルゲート16頭の盛況となった。


 中でも注目を集めたのは、中東を本拠地とする世界的大馬主のターレーが所有するフレイムハート。本場ヨーロッパの重厚な母系に、芝ダートの二刀流で世界を制した自家種牡馬のアラビアンナイトを掛け合わせた異系活力溢れる配合は、日本競馬を牛耳る大社グループの主力にはないものである。

 持ち込み馬としてこの日本で生を受けた同馬は、早世した父の後継種牡馬としての期待も背負い、無理をさせずにじっくりと育成する方針の下でトレーニングを積んで来た。そしてトレセンでの調教の動きが一変したこのタイミングでのデビューと相成ったのである。

 管理するのは栗東の沼尾 秀忠厩舎で、鞍上は多田 修二。


 クラシックに向けての最終便とも言えるこのレース。他の出走馬も豪華だがとりわけ評価が高いのが、大社グループのサタデーレーシングにおいて1億8000万円という高額で募集されたパーフェクトワン。言わずと知れた大種牡馬サタデーフィーバーを父に、牝馬ながら秋の天皇賞を制したオークス馬アイアンメイデンを母に持つ超良血馬で、初仔の姉もGⅠを勝っている。

 初夏に一旦入厩したものの、動きが冴えずに一旦放牧。牧場サイドで仕上げ直しての再入厩後は追う度に調教時計を短縮し、血統馬の片鱗を見せつつある。関係者は本格化を秋以降と見てはいるものの、この春に期待が集まるのも無理からぬことである。

 管理するのは美浦の名門・堀内(ほりうち) 直行(なおゆき)厩舎で、鞍上は短期免許の外国人マッキーン。

 

 一騎討ちムード断然の中、血統的魅力もあって単勝1.8倍の1番人気に推されたのはパーフェクトワン。それでも最終追い切りで同厩の古馬GⅠ馬を煽って見せたフレイムハートの評判も相当なもので、単勝2.2倍と差のないオッズとなった。


 遅れて来た実力馬2頭によるマッチレースが期待されたこの新馬戦。中距離の新馬戦ではお約束とも言えるスローペースでレースが進む中、人気の2頭は3、4番手の好位を並んで追走。4コーナーから痺れるような手応えで進出し、勝負は最後の直線の追い比べに委ねられた。

 ここでサタデーフィーバー産駒らしい瞬発力を発揮したパーフェクトワンが、半馬身ほどリードを奪って抜け出しに掛かる。ところがこれに対し、多田の懸命のアクションに応えてエンジンをかけたフレイムハートの伸び脚は、ワンランク上の鋭さを秘めていた。

 

 あっさりと先頭を奪い返すと、一追いする度に2頭の差が開いて行く。2馬身、3馬身、4馬身……。結局、直線だけでパーフェクトワンを5馬身後方に置き去りにしたフレイムハートが快勝。スローのため時計自体は特筆するものではなかったが、中山芝コースの最後の2ハロンを11.4-10.4という超加速ラップで締め括ったそのスピードと持続力は、優に重賞レベルを示すものであった。


 接近したオッズに反して一方的な展開となったこの新馬戦。勝ったフレイムハートは、つばき賞から若葉ステークスという裏街道から皐月賞を目指すとのこと。逃げ馬や差し馬に多くのタレントを抱えるこの3歳世代だが、好位からの横綱競馬を得意とする有力馬は少なかったこともあり、この馬の参戦の有無は展開面で大きな影響を与える事だろう。



 その後のメインレース・GⅢフェアリーステークスは、阪神ジュベナイルフィリーズ3着のアンビシャスガールが優勝。2着にも同レース5着のセイショウカレンが入り、2歳女王に輝いたニンリルの強さをまた一つ裏付ける結果となった。

 

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