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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
166/222

166 中山金杯(2)

 関東の中央競馬の新シーズン開幕を告げる、名物ハンデGⅢ中山金杯。年末の降雪で傷んだ芝も入念に整備され、良好なコンディションの下で行われることとなった。


 ここまでの芝のレースで内有利、前有利の傾向が顕著な中、注目されるのは先行争い。16頭がほぼ揃ったスタートを切った後、まず飛び出したのは赤い帽子の3枠5番、トップハンデのブラックジョーカーだ。

 それを追って行くのは3番のゴーストレートと、ハナを切りたいはずの12番ホウヨクテンショウの2頭。


 ここで、ホウヨクテンショウの鞍上・雅の手が激しく動く。これを見て絶対に譲らない構えと瞬時に判断したゴーストレートの仲本は手綱を抑え、テンの激流に飲み込まれないようスッと控えて3番手に収まった。

 先頭のブラックジョーカーの優はこの仕掛けに対して2、3回応戦するアクションを見せたものの、追って来る雅の様子をチラ見すると、何かに気付いたように一旦追うのを止めた。その後は後ろを警戒しながら馬の行く気に任せて逃げていたものの、不思議と後続との差は縮まらず、結局2馬身ほどのマージンを確保した。ブラックジョーカーが速いのか、それともホウヨクテンショウのダッシュが鈍いのか。少しばかりの違和感を漂わせながら、隊列はそのままでレースが進んで行く。


 ゴーストレートから2馬身ほど開いた好位に付けたのは6番ワイネルシュトルム、4番ロートフリック、10番ホークコマンダー、11番ウイニングショット。その直後には7番フェノバルビタールと、14番コズモクライシス、15番アムロヘリオス、16番アイラブスムージーの外枠3頭。

 そこからさらに2馬身切れた辺りに構えるのが、差し脚に賭ける後方集団。内から2番オツカレチャン、13番ミスターエビス、9番サドノクロノスと続いて、最後方は1番ラッキーストライクと8番ワンモアチャンスが並走。先頭から最後方までは15馬身ほどで、馬群はやや縦長といったところ。


 ハナを主張して来たホウヨクテンショウに対し、何故か早々に抵抗を放棄したかのように見えたブラックジョーカー。ところが2頭のポジションは入れ替わることなく、5番→12番の並びのままで前半を消化してしまった。

 場内のターフビジョンに映し出された前半1000メートルの通過タイムは1分0秒5と、意外にもスローの展開。スローなのに縦長の隊列を目にして、スタンドが俄かにざわつく。


 番手に付けているホウヨクテンショウの雅もスローは百も承知で、逃げてナンボの馬だけにせめて先頭で直線に入りたいと、再び手綱をしごいて前を追う。ところがどうしたことか、大きなアクションを起こしていないはずの先頭の優との差は思うように縮まらない。

 それは向こう正面からの大味なまくりを強行したジョバンニのワンモアチャンスを始めとする、ぺースを見越して後続から仕掛けた組も同じであった。普通なら早い動き出しで馬群がギュッと凝縮する流れのはずなのに、先頭の優は余裕のセーフティリードを保ったままである。序盤の先頭争いに続いて、何かおかしな展開だ。後続もこれ以上無駄に脚を使っては最後まで持たないと、再び隊列は落ち着きを取り戻した。


 そしてレースは残り800メートルを切り、第3コーナーに差し掛かる。ここで他からワンテンポ遅れてまくり上げて来たのが、田崎のフェノバルビタールと古畑のウイニングショット、それに蟹田のラッキーストライク。このベテラン3人は、逃げている優が作ったペースのからくりに気付いているのであろうか、今度は何故か逃げるブラックジョーカーとの差が面白いように一気に縮まる。勢いの差で2番手以下の集団をまくり切った3頭は、その余勢を駆って先頭のブラックジョーカーに襲い掛かる。


 迎えた最後の直線。差し勢の射程圏に入って厳しくなるかと思われた優のブラックジョーカーだが、そこは同じコースのGⅠを制した力量馬。自分でペースをコントロール出来た分、得意の楽逃げの形に持ち込めばしぶとい。決定的な場面を作らせないまま、最後の坂を上って行く。

 しかしここまで来てようやく一頭の馬が、逃げ込みを図るブラックジョーカーに馬体を併せに掛かる。クラシックでほぼ互角の戦績を残したライバル、本命馬のフェノバルビタールと田崎のコンビだ。

 ウイニングショットはやはり休み明けが祟ったか、ここで息が上がって脱落。またラッキーストライクは序盤の位置取りが後ろ過ぎたか、長く脚を使い過ぎた分、脚色一杯となってしまった。

 

 レース全体のポジショニングではブラックジョーカーに分があるものの、追うフェノバルビタールはハンデで1キロ恵まれているという利がある。フィニッシュラインを目指す2頭の差は、1完歩ごとにじわじわと詰まって行く。そのまま鼻面を併せるようにゴールになだれ込んだ両者の差は僅かで、当然写真判定となった。とは言え当事者にも観衆の目にも、その勝敗は明らかであった。入線後に歓喜と共に右手を上げたのは────

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