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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
16/222

16 新潟の夏

 夏競馬もいよいよ後半戦に突入した。舞台をそれぞれ福島、中京、函館から、新潟、小倉、札幌へと移して、残りひと月半を戦うことになる。


 優は美浦トレセンを離れて、新潟に滞在している。夏の新潟は日本海側らしい高温多湿の気候であり、週中は毎日、額を流れる大汗をぬぐって調教をつけている。

 新潟競馬場は、春競馬のローカル開催で騎乗した経験はあるが、当時は1つも勝つことが出来ずに終わっており、苦手意識を抱いていた。そこで優は、師匠の太陽からレクチャーを受けてこの開催に臨んでいた。



 新潟競馬場は、2001年に大規模な改修を行い、その姿を大きく変えた。従来の右回りから左回りになったのはもちろん、最大の売りは芝コースの直線の長さである。コース設定としては内回りと外回りの2パターンがあるが、外回りコースを使用する場合、最後の直線は何と650メートルを超え、日本一のスケールを誇った東京競馬場より100メートル以上も長い。小回りで短い直線というローカルの典型的なメージを打ち壊す、本格的なコースが誕生した。


 直線が長いから、その分末脚を伸ばせる差し追い込み勢が台頭しやすいのではと思えるが、話はそう単純なものではない。長い直線に備えてスタミナを温存しようという意識が強くなる結果、スローペースからの上がり勝負が多発するのだ。そして、初夏から2か月休ませたことで絶好の芝コンディションの下、全体も上がりも超高速の決着となることが多く、軽さとスピードを兼ね備えた馬に有利な舞台と言えよう。


 そして、この新潟競馬場の最大の売りが、1000メートルの直線のみのコース、いわゆる直千である。長い直線の手前に引き込み線を設けることで、スタートからゴールまでコーナーで減速することのない、迫力溢れるレースが展開される。極限のスピード勝負の結果、上がり3ハロンは32秒台は当たり前、31秒台が飛び出すこともある。こうした直線コースは、広大な土地を誇るヨーロッパの競馬場などではよくあるものであるが、国土が狭く地価も高いため用地確保が難しい日本では、この新潟が唯一無二の存在である。


 新潟開催の特徴は、この直千コースでのレースが、1日最低1回は必ず組み込まれていることである。これを攻略することが、新潟で勝ち星を伸ばしていくためには不可欠と言えよう。



「直千を制する者は新潟を制す、だ。」

 太陽もまた、この条件を最重要視していた。

 長距離レースは騎手の腕がものを言うと、よく言われる。レース時間が長いと、折り合い、位置取り、仕掛けなど、騎手の技量と判断の占める要素がその分大きくなる。しかし一方で、短距離レースこそ騎手の腕の見せ所と考える関係者も多い。スタートからゴールまでの時間が短いため、どこかでミスを犯すとリカバリーが難しく、より完璧なレース運びが求められる側面があるからである。

 太陽は、優の長所の一つである瞬時の判断力を生かし伸ばして行くためにも、直千コースで多くの経験を積ませたいと考え、他の厩舎にも協力を頼んで、騎乗馬を手配した。


 そして週末、夏の新潟の開幕週がやって来た。

 その初日、第9レースは、芝直線1000メートルの閃光特別。優は太陽直伝の直千攻略法を胸に、このレースを迎えた。



 

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