154 阪神ジュベナイルフィリーズ
今週日曜日に行われる2歳牝馬GⅠ・阪神ジュベナイルフィリーズは、来年の桜花賞・オークスに繋がる重要な一戦。しかし今年は少々趣が異なる。それは、最有力と目されているアルテミスステークスの覇者ニンリルが、桜花賞後の日本ダービー挑戦を示唆しているからだ。
牡馬相手でも引けを取らない高い能力を示して来たニンリルが、ここもあっさり通過してダービー出走に一歩前進するのか、それとも軽く見られた格好の他馬が意地を見せて一矢を報いるのか。例年以上にファンと関係者の耳目を集める一戦となっている。
第5回阪神競馬4日 第11レース 阪神ジュベナイルフィリーズ
(GⅠ 2歳牝馬 オープン 馬齢54キロ 芝1600メートル 馬場状態:良)
1枠1番 ソラトブホウキ 平山
1枠2番 タイムリーパー ジョバンニ
2枠3番 アカネサスソラ 山田
2枠4番 ハルナノニ 伊藤
3枠5番 ネヴァーネヴァー 屯田
3枠6番 アシタテンキナアレ 豊橋
4枠7番 ナッキープリマ 多田
4枠8番 レヴェランス 田崎
5枠9番 トサノハチキン 太田
5枠10番 ルックフォーラック 神谷
6枠11番 カイネクォーツ 増岡
6枠12番 シルエットバレエ 藤平
7枠13番 セイショウカレン 川越
7枠14番 ニンリル 菅田
7枠15番 マダムヤン 河野
8枠16番 アンビシャスガール ロベール
8枠17番 ハーバービュー 福山
8枠18番 マーマレードジャム 中田
単勝オッズ1.2倍。当然のようにダントツの1番人気に推されているのは、7枠14番のニンリル。ワープしたかのように他馬を交わし去る一瞬の切れ味は、視覚的には牡馬と混じっても世代上位の印象を受ける。折り合いに難しさはあるもののベスト距離のマイルなら不安は少なく、このGⅠの大舞台ですら通過点か。
離された2番人気は4枠8番、田崎が継続騎乗するレヴェランス。前走のアルテミスステークスはニンリルに完敗したものの、早め先頭から2着を余裕で確保したレースぶりは、例年なら勝っていてもおかしくないハイパフォーマンスであった。スローペースに陥りがちな牝馬戦においては、先行力の高さはそれだけで強みとなる。
3番人気は2枠3番、関西のトップジョッキー・山田に導かれて前走のGⅢファンタジーステークスを制したアカネサスソラ。スプリント色が強い血統と戦績で、マイルへの距離延長は歓迎材料とは言い難い。開幕週の絶好の状態の芝を味方に、好ダッシュからのケレン味のない逃げで、どこまで後続を封じて粘れるか。
4番人気は5枠10番、デビュー3戦目で未勝利戦を勝ち上がると、続く福島の1勝クラス戦・きんもくせい特別も制して2連勝中のルックフォーラック。奥手の血統で、実戦を使うごとにレース内容が良化している。総じて出走馬のキャリアが浅い2歳戦においては、初勝利を上げるのに手こずったことが却ってプラスに働くことも。
5番人気は8枠16番、サタデーフィーバー産駒の良血馬アンビシャスガール。京都の新馬戦を、レースの上がり3ハロンを1秒以上上回る33秒1でぶっこ抜いた好内容に自信を得て、1勝馬ながら抽選覚悟でのエントリー。
これらの人気馬を向こうに回して、優のシルエットバレエは7番人気にとどまっている。総合力の高さは光るものの、繊細な気性に加えてこれといったストロングポイントがないのが弱点。6枠12番と比較的乗りやすい枠を引き当てたことで、上手く流れに乗って一つでも上の着順を目指したいところだ。
関西のGⅠファンファーレが高らかに鳴り響き、この世代最初のGⅠレースの開始を告げる。若さを出したか、枠入りに少し時間を掛けたものの17頭が無事に収まり、最後に大外のマーマレードジャムが18番ゲートに向かう。
ややばらついたスタート。ポーンと飛び出したのは、何とゼッケン14番、大本命のニンリル。想定外のロケットスタートを切ってしまい、鞍上の菅田も慌てて手綱を引くが、スイッチが入ってしまったか頭を上げ、行きたがる仕草を見せている。
菅田は前に壁を作ろうと、ニンリルを内に導く。好スタートを切った3番アカネサスソラ、8番レヴェランス、さらに12番シルエットバレエの3頭を行かせてその真後ろに位置取ることで、何とか折り合わせることに成功した。
するとこれを見た7番ナッキープリマの多田、10番ルックフォーラックの陽介、16番アンビシャスガールのロベール、17番ハーバービューの福山の4人が、示し合わせたかのようにその外に壁を作り、ニンリルを封じ込めに掛かった。大跳びのフットワークを見せるニンリルには、馬群の中は窮屈なようで、走りにくそうな様子を見せている。ストレスによるスタミナの消耗も心配されるところだ。
以下18番マーマレードジャム、15番マダムヤン、4番ハルナノニ、9番トサノハチキン、1番ソラトブホウキの5頭が一団を形成。1馬身切れて2番タイムリーパー、5番ネヴァーネヴァー、11番カイネクォーツ、6番アシタテンキナアレ、13番セイショウカレンも差なく続き、18頭が密集して向こう正面を抜けて行く。
すんなり隊列が決まったことでペースはさほど上がらず、前半800メートルの通過は48秒2のスロー。各馬とも長い直線での瞬発力勝負に備えて脚を溜めており、馬群に大きな動きはない。内に包まれて身動きの取れないニンリルに、果たして直線で行き場はあるのか。これはピンチだ。
そして最後の直線。楽なペースで逃げたアカネサスソラは、まだまだ余裕充分の手応え。しかしこの緩ペースでは、ほとんどの馬が痺れるような手応えの良さを見せており、ここまで来てもなかなか馬群はばらけない。
それでも、距離を意識して少し後ろを引きつけ過ぎたのか、直線半ばでアカネサスソラが捕まる。これを真っ先に抜き去ったレヴェランスが、アルテミスステークスと同様スパっと抜け出して、セーフティーリードを築きに掛かる。
アンビシャスガール、ルックフォーラックの人気馬2頭もこれを必死に追うが、レヴェランスの反応の良さに一瞬置かれたのが痛く、並び掛けるまでには至らない。また、優のシルエットバレエも懸命に食らいつこうとするが、じりじりと引き離されて行く。瞬発力勝負では分が悪いと判断していつもより積極的なポジショニングで挑んだが、気性面の不安から道中で細かい押し上げが出来なかったのが響き、後続に吸収される結果となってしまった。
残り100メートルを切って、依然先頭はレヴェランス。女傑ニンリル万事休す────と思われたその時、瞬発力不足の馬たちが脱落していったことで馬群が切れ、同馬の前方がようやくクリアになった。そしてその一瞬の脚を以てすれば、これだけ距離が残っていれば充分に足りていた。
他の馬が止まっているかのような桁違いの反応で、先を行く馬たちの間を一気に切り裂いたニンリルは、そのまま押し切るかと見えたレヴェランスをあっさり交わし去り、最後は持ったままでゴールイン。これで負けないならこのメンバーが逆転するのは不可能ではないか。そう思わせるほどの無慈悲な強さで、苦しい展開を跳ね除けてしまった。
1分33秒5の走破時計はペースを考えると優秀で、レースの上がり3ハロン33秒8から推定すると、勝ったニンリルのラスト1ハロンは10秒台を記録する強烈なものであった。
以下、レヴェランス、アンビシャスガール、ルックフォーラック、セイショウカレンと入線。極めて順当で堅い決着となった。シルエットバレエは最後まで集中を切らさず走り抜いたものの、決め手不足に泣き7着に終わった。
「いやあ、なかなか前が開かなかったんで、さすがに焦りましたよ。今日は馬に助けられました。」
上手くリード出来なかったことについて、勝利騎手インタビューで反省の弁を述べる菅田だったが、結果的には馬群の中で我慢させて割って出て来るという、人気馬ではなかなか試しにくいレースを経験させることが出来、来春の大舞台に向け大きな収穫となった。
「1頭強い馬はいますけど、この馬ならダービーに出ても、きっと恥ずかしくないレースをしてくれるでしょう。」
場内から大きな拍手が上がる。インタビューを締めくくった菅田の言葉はリップサービスなどではなく、紛れもない日本ダービー出走宣言であった。




