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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
153/222

153 少女ところによりジョッキー ~クイーン賞編~

 土曜日の中山9レース葉牡丹賞をストロングソーマで制した優。日曜日はGⅠが開催される中京競馬場に乗り込み、6レースのダート1800メートル1勝クラス戦をトラクターヘッドで、そして9レースの芝1200メートル1勝クラス戦の桑名特別をワタボウシで制し、1日2勝。お手馬での固め打ちでこの週だけで計3勝を上げ、大観衆の前で久々に存在感をアピールすることに成功した。


 明けて今週は、2歳牝馬の頂点を目指すGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズが行われる。圧巻の切れ味で新馬→アルテミスステークスを連勝した女傑ニンリルの断然人気が予想されるこのレース、優も2勝馬シルエットバレエで参戦を予定している。


 そして週中の水曜日には、秋華賞で惨敗を喫してダート路線に戻って来た関東オークス2着馬ロマンシングソーマが、船橋の交流GⅢクイーン賞に挑戦する。

 このレースは、牝馬ダート路線の最大目標であるJBCレディスクラシックやチャンピオンズカップから間がないこともあり、賞金や能力の不足でGⅠを回避した馬の狩り場となっている。ハンデ戦のため地方馬が馬券に絡むことも珍しくはない一方で、中央の上位人気馬がきっちりと勝利を収めることが多いのも特徴である。



9回船橋3日目 クイーン賞(jpnⅢ)

(3歳以上牝馬オープン ハンデ戦 良)


1枠1番 レインボープリズム 3歳 52キロ ロベール


2枠2番 オトミサン     4歳 51キロ 波止場


3枠3番 ロマンシングソーマ 3歳 52キロ 藤平


4枠4番 スクールカースト  4歳 51キロ 坂川(さかがわ)


5枠5番 ソーシンプリティー 3歳 51キロ 木林(きばやし)


6枠6番 ニューホライズン  5歳 51キロ 真下(ました)


6枠7番 エリザベスカラー  4歳 55キロ 御子柴


7枠8番 ワインセラー    3歳 51キロ 西崎(にしざき)


7枠9番 ロゼッタ      3歳 54キロ 神本


8枠10番 ホワイトラヴ    3歳 51キロ 五百蔵(いおろい)


8枠11番 ミスジェシカ    5歳 57キロ 中田


 関東オークスに出走した3歳馬が目立つメンバー構成だが、その勝ち馬サンディビーチはここにはいない。それもそのはず、サンディビーチはその後、ブリーダーズゴールドカップ、レディスプレリュード、JBCレディスクラシックを3連勝でぶっこ抜き、ダートの絶対女王として君臨していたのだ。

 ロマンシングソーマとの対戦成績は1勝1敗のタイだが、相手は遥かな高みに上ってしまった。再び牝馬ダート戦線に舞い戻ったロマンシングソーマは、まず賞金を積み上げて交流重賞への出走枠を確保し、サンディビーチへの挑戦権を獲得することが当面の目標である。


 このクイーン賞の1番人気は、地方の女傑ロゼッタ。関東オークスの後はジャパンダートダービーに紅一点で挑戦し、5着と健闘。その後はサンディビーチと丸被りのローテーションを歩んで、全て2着。地味ながらも成長力に富む血統でレースを使うごとによくなっている感があり、中央馬に混じっても遜色ない能力の高さを見せ付けている。


 優のロマンシングソーマは、2番人気。関東オークスではロゼッタとの熾烈な2着争いに先着しているものの、芝の秋華賞路線で結果を残せなかったのが印象を悪くしたか、1番人気の座を譲ることとなった。外国産馬ながら3歳デビューとなったように、血統的には仕上がりが早いだけの一介の早熟馬ではないはずであり、ライバルを打倒出来るだけの更なる成長が求められる。


 3番人気は、ロベールを確保したレインボープリズム。スピードタイプで関東オークスでは距離の壁もあり惨敗したが、1800メートルのここは守備範囲と見られる。層の厚い短距離ダート路線を転戦し、牡馬に混じってリステッドのグリーンチャンネルカップを制した実績があり、スピードにおいてはこの馬の右に出る者はいない。


 4番人気は、今年の交流GⅢ・TCK女王盃の勝ち馬エリザベスカラー。古馬の中では上位の能力の持ち主だが、近走は3歳馬の台頭に押されて今一つの成績に終わっている。勢いを失ったダート馬の立て直しは往々にして困難であり、4番人気という評価はもう終わったと見る向きが多いことを示している。ただ年齢的にはまだまだ若く、巻き返す可能性も充分である。


 5番人気は、6歳の古豪ミスジェシカ。牝馬ダート路線のトップランナーとして長く活躍しており、重賞も3勝。実績とキャリアでは最右翼の存在だが、年齢もあって今年は不振が続いている。所属する一口馬主クラブ・ラディッシュファームの規約で6歳3月での引退を控えており、残る牝馬重賞を使えるだけ使う予定とのこと。



 レースは予想通り、頭一つ抜けたスピードを誇る1番レインボープリズムの逃げで始まった。その直後に3番ロマンシングソーマ。この2頭の並びは関東オークスと全く同じだが、違うのは3番手に人気の9番ロゼッタが付けているところである。

 中央の一線級相手に揉まれて来たロゼッタは、地方と異なる速い流れにもすっかり慣れて対応出来るようになっていた。ここでも人気馬2頭をマークする最高のポジションを難なく確保し、前にプレッシャーを掛ける事に成功した。


 その後ろの4番手には7番エリザベスカラー、5番手に11番ミスジェシカと、人気馬が先行集団を形成している。しかし澱みのない流れに両馬は追走に精一杯の様子で、他馬より重い斤量もあってか余裕が感じられない。さらに6番手以下は大きく離れ、能力差の大きい交流重賞らしい大味な展開となっている。


 逃げるレインボープリズムは、1000メートルを1分0秒7で通過。良馬場のこのコースとしては、やや前掛かり気味のペースか。それでも小回りの地方競馬コースらしく、3コーナーからジョッキーの手が激しく動き始め、各馬早目の進出を開始する。


 この勝負どころ、追い上げる側としては、小回りコーナーでのストライドロスを避けて直線に入りたいため、外目からまくり気味に押し上げてスピードに乗せて行きたいところだ。

 優も当然そうすべくロマンシングソーマを外目に持ち出そうとした、その時。これを相手と見ていたか、神本がそのすぐ外にロゼッタを導き、ピタリと馬体を併せた。これによりコーナリングが窮屈になったロマンシングソーマは、思うように加速出来ずにスピードに乗り切れない。

 遠心力を利用してロゼッタを外に振ろうと試みるが、そこはさすが南関東の雄・神本。タイトなコーナリングで逆に内を締め付けるように押し込み、それを許さない。


 ここで2頭がやり合っては、先頭のレインボープリズムを利するだけとも思われたが、神本はこの逃げ馬を途中から軽視していた。船橋競馬場での騎乗経験が豊富とは言えないロベールが、排気量の優位さに任せて気分良く行かせ過ぎている、だから最後は失速すると踏んでいたのだ。

 4コーナーの中間地点でようやく、神本は優を解放してエンジンを全開にした。外に膨らみながら一気に加速したロゼッタは、内で一人旅を決め込むレインボープリズムを4馬身差で追う。


 蓋をされた格好で踏み遅れた優のロマンシングソーマも、これを追って必死に脚を伸ばす。しかし、関東オークスの時と同様、この2頭の走力はほぼ互角。出し抜かれたことで強いられた1馬身半のビハインドが、致命傷となってしまった。


 結局、軽快に飛ばしたレインボープリズムは、直線半ばで末が甘くなったところを一気に強襲され、残り100メートルでロゼッタに先頭を譲り渡した。そのままもうひと踏ん張りが利かなかった同馬は、最後ロマンシングソーマにも交わされて3着に終わった。


 追って来るロマンシングソーマを半馬身振り切ったロゼッタのフィニッシュタイムは、ペースが流れたにしても1分51秒6と優秀なもの。待望のダートグレード競走初制覇を成し遂げ、地方馬が馬場を貸すだけの賑やかしではないことを改めて示す結果となった。


「すいません、力を出し切れませんでした。神本さんに上手くやられてしまって……。」

 引き揚げて来た優は勝利を逃したことを詫びると、悔しそうに唇を噛んだ。

「惜しい結果でしたが、これもレースの綾でしょう。向こうのホームですし、人馬とも地の利があるのはやはり大きいんでしょう。このままダメージがなければ、年明けは大井のTCK女王盃、川崎のエンプレス杯と連戦して、重賞制覇を目指しましょう。」

 オーナーの相馬は早くも気持ちを切り替えて、次の目標を設定した。彼の長所であるこの前向きさに対して、敗れた優は救われると同時に、期待に応えられなかった申し訳なさで一杯であった。


 ダート戦線は往々にしてメンバーが固定化される。ロマンシングソーマがこの路線の頂点に立つためには、直近で敗れた強敵サンディビーチ、ロゼッタの壁を打ち破らなければならない。完全にしてやられた今日の悔しさを胸に、優はともに1勝1敗となったライバルたちの打倒を目指すのだった。

 

 


 


 


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