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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
150/222

150 ラジオNIKKEI杯京都2歳ステークス

 東京スポーツ杯2歳ステークスは、まさかの逃げを打ったゴールドプラチナムが圧勝。卓越した能力の高さとともに展開に左右されない自在性を示し、クラシックに向けてまた一つ不安材料を吹き飛ばして見せた。


 そしてさらに周囲を驚かせたのが、同馬の次走が朝日杯フューチュリティステークスに決定したという一報であった。

 通常、クラシック候補は2歳の年末には、皐月賞やダービーの距離を意識してホープフルステークスを使うか、英気を養うべく春まで休養に入るものであるが、その流れに逆行するかのように新馬戦から距離を短縮し続けるローテーションを組む陣営に対し、当然ながらマスコミや関係者からは疑問の声が上がった。


 その疑問に対し大社グループの総帥・大山 一郎は、自らの持論を雄弁に語った。

「競馬の基本はマイルだよ。ヨーロッパでも、ダービーを目指す馬がマイルの2歳GⅠや2000ギニーを使うのは極めて普通のことだし、そこで能力を発揮出来ないような馬じゃあ種牡馬としての成功はおぼつかない。この馬には世界的な種牡馬になることを期待しているんだから、この選択はむしろ自然なことだよ。

 逆に聞くが、日本でも昔は朝日杯からクラシックに進むのが当たり前だったのに、近年は馬本位のレース選択を意識し過ぎて、過保護ぶりが目に余ると思わないか?いろんな距離、いろんなペースを経験させることこそが、本当に強い馬を作るための最善の方法だと私は信じているよ。もちろんこのゴールドプラチナムは、それに応えてくれるだけの器であるとも。」


 朝日杯でこのゴールドプラチナムを待ち受けるのは、圧倒的なスピードで重賞3連勝中のマッハマン。自らの限界に挑む快速馬にとっては、予定よりも早くクラシック大本命馬と戦うこととなったが、果たして勝算はいかに。


 また、日曜日に京都競馬場で行われたGⅠマイルチャンピオンシップは、春秋マイル王を目指した1番人気アールタイプを、今年のNHKマイルカップ覇者ドライヴァーズハイがゴール前差し切って優勝。3歳世代の強さを示すとともに、この馬を朝日杯で一蹴したヴイマックスの早期引退が改めて惜しまれる結果となった。


 スターホースの競演で盛り上がる秋競馬。今週は海外馬を招待しての歴史ある国際競走、GⅠジャパンカップが行われる。とは言っても、日本馬のレベルアップに加えヨーロッパの有力馬が日本の硬い高速馬場を忌避する傾向が強まり、近年は日本馬の独壇場と化している。

 今年の日本馬は、まさかの菊花賞惨敗からの巻き返しを期すダービー馬ライトニングボルトが、先輩ダービー馬のプレタポルテや現役最強ステイヤーのレーザーポインターを相手に回してどんなレースを見せるかに注目が集まる。


 その前日の土曜日には、今週もまた2歳の重賞、GⅢラジオNIKKEI杯京都2歳ステークスが予定されている。このレース、冠レースでなかった前身のオープン特別時代には数々の活躍馬を輩出した出世レースであったが、重賞としてリニューアルされて以降はどうしたことか出走馬がクラシックを賑わすこともなく、重賞としては微妙な立ち位置となってしまっている。それでも、2歳では貴重な中距離の芝重賞であることから、関西馬を中心に賞金の上乗せを目指す期待馬の出走は絶えない。



第5回京都競馬7日目 第11レース ラジオNIKKEI杯京都2歳ステークス 

(GⅢ 2歳オープン 馬齢 芝2000メートル内回り 良)


1枠1番 ケイエムトリガー  牡 55キロ 多田


2枠2番 テグザー      牡 55キロ ヴェットーリ


3枠3番 サイバーパトロール 牡 55キロ 川越


4枠4番 ティンカーベル   牝 54キロ ロベール


5枠5番 ゲッツアンドターン 牡 55キロ 屯田


6枠6番 シャドーボクシング 牡 55キロ 福山


7枠7番 ポテンショメータ  牡 55キロ ペレイラ


8枠8番 セイショウゲッコウ 牡 55キロ 菅田


8枠9番 ヂアミトール    牡 55キロ ジョバンニ


 1番人気は、新馬戦→紫菊賞と連勝中のポテンショメータ。スピード、パワー、切れを高い次元で備える総合力の高さが売り。短期免許最終週のペレイラを背に3連勝での重賞タイトル獲得を目指す。


 2番人気は、9月の野路菊ステークスを勝っている牝馬ティンカーベル。長距離志向で、来春のオークスを最大目標としている。外回りの前走ではフルに持ち味を発揮することが出来たが、京都芝2000メートル内回りの今回は、コースへの適応が鍵となる。今回は全国リーディングのロベールを鞍上に迎えた。

 

 3番人気は、大逃げを身上とする個性派テグザー。前走のアイビーステークスまで手綱を取った陽介がゴールドプラチナムの主戦であることから、来春を見据えて騎手の変更を決断。当初は屯田騎手に依頼する予定であったが、ジャパンカップで来日する世界的騎手のヴェットーリを確保出来たため、今回限りのスポット騎乗で重賞制覇を狙うこととなった。

 騎乗するフランシスコ・ヴェットーリは、かつて世界中の大レースを勝ちまくり、世界ナンバーワンの名手と称された天才騎手。年齢もあり長く低迷していたが、近年はパートナーにも恵まれ再び存在感を見せ付けている。


 この3頭による上位争いと見られているが、その鞍上はいずれも外国人。日本競馬の外国人騎手偏重の流れは、まだまだ健在である。


 レースは、好スタートを切ったテグザーが飛ばして行く予想通りの展開。前任者の陽介同様、ヴェットーリもこの馬を無理に抑える気は毛頭ないようで、ケレン味のない逃げでたちまち後続を5馬身、6馬身と引き離して行く。

 鞍上を警戒してか、人気のポテンショメータはいつもより早目の2番手に付けて逃げるテグザーを見る競馬。ティンカーベルは定位置の最後方に待機し、自慢の末脚を爆発させるべく静かに牙を研いでいる。


 前半1000メートル通過58秒2と、ほぼ前走同様のハイペースでテグザーが引っ張る。その軽快な走りっぷりに、このまま行かせては危険と感じたポテンショメータの鞍上ペレイラだが、息を入れる気配のないこのラップでは、道中動くと最後に脚が上がってしまうのは明白。動くに動けず、番手をキープしてテグザーの失速を待つ他なかった。


 328メートルと短い最後の直線に入ったテグザーは、さすがに脚色に余裕こそなくなったものの、世界のヴェットーリの檄に応えてもうひと踏ん張りを見せる。

 オーバーペースの失速を最小限に抑えたテグザーは、上がり3ハロンこそ37秒8を要したものの、前半の貯金をフルに生かして、後続に1馬身半差を付けてフィニッシュ。走破時計は1分59秒9と2分の壁を突破し、2歳馬としては優秀なタイムであった。


 その後の2着争いは、先行したポテンショメータが、最後もの凄い脚で追い込んで来たティンカーベルを頭差抑えて先着。自重してテグザーを深追いしなかった判断が奏功し、クラシックに向けて貴重な収得賞金を獲得した。


 引き揚げて来たテグザーの鞍上ヴェットーリは、馬上から飛び降りるフライングディスマウントのパフォーマンスを見せ、GⅢにも関わらず喜びを爆発させた。久々の日本での重賞勝利に加え、大逃げが決まった快感が、彼の心を突き動かしたようである。


 このレースの上位馬については、まず勝ったテグザーは一息入れてスプリングステークスから皐月賞を予定。小回りで直線が短いベストの条件を求めて、皐月賞を最大目標に定めた模様だ。

 これに対して2着のポテンショメータは、続戦して暮れのホープフルステークスでGⅠ制覇を目指す。その後は1戦挟んで皐月賞、ダービーへと進む王道ローテーションを予定している。

 そして3着のティンカーベルは、休養を挟んでフラワーカップ、フローラステークスを叩いて本番のオークスをピークで迎えるプランを立てている。今回の敗戦で忙しい競馬では力を出し切れないと判断し、目標をスローになりやすい牝馬の中長距離に絞って、武器である切れ味を最大限に生かしたい意向のようである。

 

 

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