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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
147/222

147 デイリー杯2歳ステークス

 人気2頭のワンツーで決まった京王杯2歳ステークス。距離延長にもある程度の目処を立てたマッハマンが予定通り朝日杯フューチュリティステークスに駒を進めるのに対し、完敗に終わったスーパーソニックはこれを避けてホープフルステークスでGⅠ制覇を狙うこととなった。この動きを受けて、暫定王者となったマッハマンを恐れるか、それとも与しやすしと見るか、2歳王者を目指す他の有力馬の動向が見ものである。


 また、同日に京都で行われたGⅢファンタジーステークスは、アカネサスソラが優勝し小倉2歳ステークス惨敗からの巻き返しを果たした。スプリント色の濃い同馬であるが、完成度がものを言う2歳戦線ではそのスピードは大きな武器となる。次走のGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズで、大本命ニンリルの撃破を目指す。


 そして、祝日に行われた交流GⅠのJBC3競走では、スプリントでチョトツモウシンが優勝。その鞍上が優でなかったことは残念だが、その背中を知る馬がまた1頭大レースを制したことは、若い彼女にとっては将来に向けた大きな財産となることだろう。


 

 さて今週は、日曜のGⅠエリザベス女王杯で3歳と古馬が激突し、現役最強牝馬が決定する。世代の優劣を測る意味でも注目の一戦であるが、来年のクラシックを占う意味では、土曜日のGⅡデイリー杯2歳ステークスを抜きには語れない。


 実績では新潟2歳ステークスをワンツーしたブルーバードとジャックフロストの関東2騎が抜けているが、それに匹敵する人気を集めそうなのは外国産の牡馬テムジン。

 アメリカのトレーニングセール出身とあって、ムキムキマッチョのド迫力ボディから繰り出される豪快なフットワークは大物感充分。札幌の芝1800メートルの新馬戦を勝って、一息入れてここに参戦して来た。高速馬場への適性に未知数な部分はあるものの、ニンリルと同じ住田厩舎のハードな調教内容をこなして来ただけに、早熟性に加えてさらなるパワーアップも期待出来る。



第5回京都競馬3日目 第11レース デイリー杯2歳ステークス 

(GⅡ 2歳オープン 馬齢 芝1600メートル外回り 稍重)


1枠1番 ブルーバード    牡 55キロ ジョバンニ 1番人気


2枠2番 セイショウヤマモモ 牝 54キロ 菅田    5番人気


3枠3番 テムジン      牡 55キロ ペレイラ  2番人気


4枠4番 ナンデヤネン    牡 55キロ 福山    7番人気


5枠5番 ジャックフロスト  牡 55キロ ロベール  3番人気


6枠6番 ケイエムトリガー  牡 55キロ 多田    6番人気


7枠7番 ワイネルアートマン 牡 55キロ 戸村    4番人気


 金曜日の雨が残って稍重のコンディションとなったこのデイリー杯2歳ステークスは、先週の京王杯同様に少頭数のレースとなった。これは2歳重賞の増加による分散のみならず、本格派志向の有力馬が来週の東京スポーツ杯2歳ステークスや再来週の京都2歳ステークスに流れたことも影響している。


 ゲートが開いて飛び出したのは、大外7番のワイネルアートマン。積極的に行きたい馬がいないこのレースは、先週の京王杯と違って明らかなスロー。以下4番ナンデヤネン、7番ワイネルアートマン、1番ブルーバード、6番ケイエムトリガー、3番テムジン、2番セイショウヤマモモ、5番ジャックフロストと団子状態でレースは進んで行く。


 最初の600メートルを35秒8で通過すると、3コーナーからは各馬前が詰まらないように進路を確保しながら最後の直線のヨーイドン競走に備える。そんな中、フットワークが大きく馬群の中では走りが窮屈になる危険があるテムジンの鞍上ペレイラだけは、内でじっとして抜け出す機を窺っている。


 そして最後の直線。力差がはっきりしたメンバーで新潟組の2頭、ブルーバードとジャックフロストが併せ馬で外から抜け出しを図るところ、内を捌いて来たテムジンがコース取りの分だけアドバンテージを得て先頭に立った。

 

 そもそも日本の中央競馬の騎手は、総じて長い期間騎乗するほど、有力馬騎乗の際に安全策で外を回す傾向が強くなっていく。これは、ラフプレーで騎乗停止となるリスクを冒してまで馬群を割るよりも、能力差で押し切った方が無難なことと、日本では内を狙うギャンブルに対する理解が低く、前が詰まって負けると過剰に非難されることの2点が大きな要因である。

 それは通年免許を与えられた外国人騎手ですら例外ではなく、実際タイトなコース取りで関係者の信頼を掴んで来たはずの彼らが、所謂大外ぶん回しで取りこぼすシーンも多々見られる。


 良くも悪くも日本競馬に染まってしまったそうしたレギュラー騎手たちとは違い、短期免許で来日している外国人騎手は恐れを知らない。仮に失敗してもすぐに帰国することでそれをリセットされる彼らは後顧の憂いもなく、コースロスを最小限にすることを心掛ける、海外では当たり前の騎乗スタイルを貫くことが出来る。極上馬質で無双しているはずの通年免許組が、短期免許組にしてやられるシーンが目立つのは、そのような事情に因るところが大きいと考えられる。


 このレースにおいては、雄大だが鈍重なフットワークで一瞬の加速に優れているとは言えないテムジンにとって、経済コースを通れたアドバンテージは相当なものであった。このタイプは一旦スピードに乗ると簡単には失速しない。外から追って来る実績馬2頭に最後まで隙を見せることなく、1馬身半差を付けてデビュー2連勝を決めた。勝ち時計は1分35秒9、上がり3ハロン34秒9は渋った馬場を考えるとまずまずのタイムだが、パワータイプのテムジンに有利な条件だったことは否定できず、同馬にとっては次走以降が試金石となる。


 そして、激しい追い比べとなった2着争いはブルーバードが半馬身先着し、前走に続いてジャックフロストを退けたことで、この2頭の勝負付けは済んだ感がある。


 

 後日、このレースの上位3頭の次走が発表された。

 

 勝ったテムジンは、スピード勝負では現状マッハマンには及ばないと見て、川崎の交流GⅠ全日本2歳優駿に進むこととなった。初のダートとなるが、元々こてこてのアメリカ血統でもあり、陣営もむしろ向くのではと判断しての選択。ここでGⅠタイトルを獲得した上で、来春はNHKマイルカップから日本ダービーという変則ローテを進むという青写真を描いているようである。


 一方、2着のブルーバードは予定通り適距離の朝日杯フューチュリティステークスに進むが、3着のジャックフロストは年明けのGⅢシンザン記念を目指すとのこと。面子が揃いそうなGⅠを避けて、名より実を取りに行くようである。


 

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