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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
143/222

143 女傑

 3歳クラシック戦線は先週の菊花賞で終了し、今週からは世代限定戦は現2歳のレースのみとなる。来春の大目標に向けて、各馬の戦いがいよいよ本格化して行くこととなる。


 今週は日曜日に東京競馬場で行われる秋の天皇賞に注目が集まる中で、その前日の土曜日には2歳牝馬のGⅢアルテミスステークスが行われる。

 アルテミスステークス自体は2歳のレース体系を充実させる方針の下に新設された歴史の浅い重賞であるが、その勝ち馬が後にGⅠレースを制することも珍しくなく、今や多くの有力馬が集まる出世レースとなっている。


今年のこのレースには、優もサフラン賞を勝ったシルエットバレエで参戦する。しかし主役と目されているのは同馬ではなく、まだ2歳のこの時期にして女傑の呼び声高いニンリル。

 ニンリルの父はブロンソンズターン系のダービー馬ジントニックで、良質のスピードと切れ味を伝える種牡馬だ。母ウインドミルは体質が弱く、2戦2勝にして繁殖入りを余儀なくされたが、無事ならビッグタイトル獲得も期待された素質馬であった。

 

 栗東の名門・住田(すみだ) 邦夫(くにお)厩舎に預けられたニンリルは、牝馬ながら500キロを超す雄大な馬体から繰り出される豪快なフットワークで、たちまち注目の的となった。鞍上に名手・菅田を迎えて臨んだ阪神マイルの新馬戦では、あまりの推進力に抑え切れずにハナを切ると、持ったままで後続を5馬身ちぎる大楽勝を飾った。

 1回使ったことでガス抜きが出来たため、2戦目の今回は、ジントニック産駒本来の切れ味鋭い末脚が発揮出来そうとの厩舎コメントが出ており、スターホース誕生の期待はさらに高まっているようである。


「冴さん、2週連続GⅠ予想的中おめでとうございます。ところで今週のアルテミスステークスはニンリルが強いって評判ですけど、冴さんはあの馬をどう見てるんですか?」

 優は特別コラムの予想で菊花賞の3連単を◎△▲で仕留めた冴を祝福がてら、噂の牝馬ニンリルについて尋ねてみた。


「うん、そうだね……。ワタクシも栗東に出張って見て来たけど、噂に違わぬスケールの持ち主だと思うよ。元々素質は一級品の上に、あの住田厩舎のハードトレーニングを日々こなしながらケロッとしてるそうだし、どんどん強くなってるんじゃないかな。調教やレースの負荷に耐えるタフさも、競走馬としては重要な素質の一つだし。入厩してからの伸びしろという点では、牡馬を含めてもこの世代で屈指の存在かも知れないわね。」

 馬を見る目と情報収集能力は確かな冴が手放しで褒めるのだから、やはりニンリルは只者ではないのだろう。


「あと、住田先生がちょっと気になることを言ってたわよ。オーナーサイドと厩舎で話し合いが進んでいるらしくて、牝馬に敵なしを証明出来た時点で、牡馬を相手に世代の頂点を目指したいって話。具体的には、桜花賞まで無敗で勝ち進んだら、ダービーに挑戦するプランがあるみたい。まだ新馬戦を勝ったばかりの段階でそんな壮大な話が持ち上がるくらいだから、住田先生の所の過去の名馬たちと比べても遜色ない潜在能力を見抜いてるんでしょうね、きっと。」

 今年の牡馬クラシック路線はかなりのハイレベルと言われている中で、また一頭強大なライバルが増えることになるのかも知れない。ストロングソーマと歩むダービーロードが一層険しさを増すのを感じた優は、思わず天を仰いだ。


(まあでも、このままじゃスー君はダービーにゲートインすることすらおぼつかないものね。他の馬のことを気にしていられる立場でもないよね。とにかく今は自分の出来る事を精一杯やってステップアップして行くしかない。先走って来春の話を考える前に、シルエットバレエでこのレースを勝つことだけを考えないと。)

 気持ちを切り替えた優は、アルテミスステークスでの打倒ニンリルを目指して、出走各馬の研究とレースのイメージトレーニングに余念がなかった。気性の難しさはあるものの、シルエットバレエの末脚だってちょっとしたものである。噂の女傑候補相手に一泡吹かせたいと、腕を撫す優であった。


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