124 2歳最強スプリンター
土曜日に行われた札幌2歳ステークスでは、クラシックを目指す人気2頭が不良馬場で激突。結果は2番人気のインドラが、1番人気のワイネルワイバーンに7馬身差を付けて完勝。粗削りながらスケールの大きな走りで、来春の本番に向けて前途は洋々であった。
そして日曜日は、小倉競馬場でGⅢ小倉2歳ステークスが行われる。新潟では古馬のハンデGⅢ新潟記念があり、土曜の札幌と併せると開催3場全てで重賞レースが組まれていることになる。そしてこの豪華3重賞ウイークこそが、季節と競馬の両方の意味において、夏の終わりを告げるグランドフィナーレとなるのである。
さてこの小倉2歳ステークス、例年早熟のスプリンターが幅を利かせており、勝ち馬の将来性という点では疑問符がつくレースである。それは2歳の夏という施行時期上、仕方のないことであるが、今年はいつもとは違う盛り上がりを見せていた。函館2歳ステークスの覇者マッハマンが、重賞連勝を狙って北海道から転戦して来たのである。
マッハマンの父は、スプリンターズステークス連覇を始めとして国内のスプリント路線で圧倒的な強さを見せた内国産馬スピードフリークス。種牡馬としても数多くの活躍馬を輩出し、この外国血統全盛の時代にあって、短距離系種牡馬としての確固たる地位を築き上げていた。
そしてデビューしたマッハマンは、新馬戦を全くの馬なりで逃げ切ると、続く重賞でもスピードの違いで他馬をまさに圧“逃”。2着に3馬身差を付けて押し切った勝ちタイムは、驚異の1分8秒9。史上初めて、2歳で函館1200メートル1分9秒の壁を打ち破って見せた。
マッハマンを管理するのは栗東の林厩舎で、手綱を取るのは名手・菅田。オーナーを含めて、ダート短距離で活躍中のチョトツモウシンと全く同じチームである。そのオーナーの高田 純一は菅田騎手の大ファンで、所有馬が軌道に乗って来ると菅田にスイッチするのが既定路線となっていた。その高田が新馬戦から菅田を鞍上に迎え入れたのだから、この馬に対する期待度が知れるというものである。
この小倉2歳ステークスには、マッハマンの他にもスピード自慢が揃っていた。
小倉1000メートルの新馬戦を56秒8の好タイムで逃げ切った快速牝馬アカネサスソラ、1200メートルの新馬戦→フェニックス賞を連勝したキャプテンダイモス、同じコースの新馬戦で1分8秒0をマークしたムーンウォーカーなど、多士済々。
いずれも逃げ先行脚質の、いかにもスプリンタータイプの馬ばかりで、さしものマッハマンもここは楽なレースにはならないのではと思われた。
ところが、いざレースが始まると、マッハマンのスピードについて行ける馬はただの一頭もいなかった。良馬場の前半600メートルの通過は、古馬も真っ青の32秒4!
粒ぞろいのライバルたちを引き離して直線に入る辺りでは、いくら何でもオーバーペースではと思われたが、逆にバテたのは追いかけて来た後続馬の方だった。ゴール前でようやく追い込み勢が差を詰めて来るも、時すでに遅し。またも3馬身差を付けて先頭フィニッシュしたタイムは、1分7秒5。2戦連続の2歳コースレコードで、見事にGⅢ連勝を決めて見せた。
「誰もがこの馬には長い距離は持たないと思っているだろうから、逆にどこまで行けるのかを試してみたい。スプリントで敵なしを証明出来たから、次は京王杯2歳ステークス、朝日杯フューチュリティステークスと使って、来年はダービーを目標にする予定だよ。」
レース前、高田オーナーはダービー挑戦を高らかに宣言した。
どう贔屓目に見ても2400メートルを走らせるのは無謀であるが、この馬が出ることによってクラシック戦線には大きな影響がある。
一つは、スピードに秀でたこの馬が引っ張ることによって、近年顕著なスローペース症候群から脱却し、レースが引き締まる点。上がりタイムの速さだけで勝負するような軽い馬は淘汰され、底力に秀でた本格派同士の好レースが期待出来る。
そしてもう一つは、この言わば畑違いの馬が加わることによって、18頭しかない貴重なクラシックの出走枠が1つ埋まってしまう点。短距離馬やダート馬の参戦は、しばしば枠潰しだと非難を浴びるところであるが、己の限界に挑むこともまた競馬の醍醐味の一つであり、馬主にとってはロマンでもある。ましてや正々堂々と結果を出して賞金を積んでいるのだから、文句を言われる筋合いもない。
いずれにせよ、この稀代の快速馬がクラシック候補相手にどんなレースを見せてくれるのか、興味津々である。




