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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第2部 少女のちジョッキー
123/222

123 札幌2歳ステークス

 先週に引き続き、今週も注目の2歳重賞・GⅢ札幌2歳ステークスが行われる。冷涼なこの北の大地を好んで有力新馬を下ろす関係者は多く、そのハイレベルな戦いを制した馬たちが集うのがこのレース。勝ち馬からは何頭ものダービー馬が出ている、由緒あるレースである。


 今年の出走馬の中で最右翼と見られているのは、本番と同じ札幌芝1800メートルでの前哨戦・コスモス賞を制したワイネルワイバーンである。同馬は、雅が最初に所属した美浦の下山厩舎の管理馬である。豊富なスタミナとパワーを伝える父ブロンソンズターンの産駒らしく、好位追走からしぶとく脚を伸ばすレースぶりは、力の要る洋芝ともマッチして安心感がある。

 このワイネル軍団はデビュー前の若駒にハードな調教を課す手法を大社ファームにも先んじて取り入れていただけに、成長力と言う点では疑問もあるものの、ここでの完成度は1、2を争う高さを誇っていた。

「クラブ会員の皆さん。大変申し訳ありませんが、この札幌2歳ステークスを勝利したならば、日本ダービーを諦めてもらうことになるかも知れません。ワイネルワイバーンは本場イギリスのダービーに予備登録を済ませているからです。」

 軍団の総帥である掛布(かけふ) 昭信(あきのぶ)氏はこう豪語するほど、自らの育成スタイルと相馬眼に自信を持っていた。


 これに対して1勝馬ながら注目を集めているのが、サタデーフィーバーの台頭前にはリーディングサイアーに輝いたこともある、凱旋門賞馬スーパーゼウスの産駒インドラである。

 このスーパーゼウスの産駒のGⅠ勝ちは、そのほとんどが東京コースに集中していた。それはこの種牡馬が総じて、器用さや瞬発力には欠けるものの破壊力抜群の末脚を遺伝的特徴として伝えるため、広くて長い東京コースでこそその武器を生かすことが出来るという当然の帰結と言えた。

 近年の馬場の高速化にフィットしたサタデーフィーバーに押されて、すっかり勢いをなくしていた種牡馬スーパーゼウスであったが、このインドラはこの産駒らしからぬ反応の良さで新馬戦を快勝しており、クラシックでの活躍を期待されている。

 ちなみにこのインドラも、オーナーこそ個人馬主であるが、大社ファームの生産・育成馬である。管理するのは、優の同期・清原が所属する栗東の秋山厩舎である。


 そして土曜日。前日から降りしきる雨の影響で、芝コースの馬場状態は不良。ただでさえ開催終盤で荒れた馬場がこれだけ重くなっては、行った者勝ちと言っても過言ではないほどの前有利なコンディションとなってしまった。

 果たして芝のレースは、逃げか番手でレースを進めた馬が全勝という極端な結果を重ねて、メインレースの札幌2歳ステークスを迎えた。今年の出走馬は14頭となっている。


1番人気 4枠6番 ワイネルワイバーン 増岡

2番人気 5枠7番 インドラ      御子柴


 人気2頭の評判が、単勝オッズにもそのまま反映されたかのような一騎打ちムード。しかし、この馬場状態でいつもに増して重要度が増したゲートで、2頭の明暗は分かれた。

 奇数番の馬から次々と収まって行く中、1頭の馬がこれを嫌がり抵抗。先に枠入りを終えていた馬たちは、かなりの時間ゲート内で待たされることとなってしまった。

 偶数番で難を逃れたワイネルワイバーンがいつも通りの好スタートを切ったのに対し、狭い空間で待たされてストレスを溜めたインドラはテンションが上がってしまい、暴れたためにタイミングを合わせられずスタート失敗。3馬身ほど離れた最後方に置かれる、最悪の位置取りを余儀なくされた。


 ワイネルワイバーンの騎手は、軍団のエースジョッキーの一人である増岡。目下の馬場状態を味方に、強気の先行策で2番手に付けている。

 一方立ち遅れたインドラは多少押し上げたものの、依然として馬群の最後方。それでも鞍上の御子柴はあわてず騒がず、じっと脚を溜めている。


 ペースが速いのか遅いのかも分からなくなるような不良馬場の中、先頭は13秒を超えるラップを連発。最初の1000メートルの通過は、実に1分4秒4という遅さであった。

 そして3コーナーに入ると、本命馬ワイネルワイバーンの増岡が動く。逃げ馬をパスするとそのままスピードに乗って、後続を突き放しに掛かる。この不良馬場で消耗し切った先行勢はこれに全く抵抗出来ず、ただ置き去りにされるのみであった。


 これで勝負あったかと思われたが、対抗馬インドラの力は増岡の予想を遥かに超えていた。3コーナーに入って御子柴が仕掛けると、あっという間にトップスピードに到達。先行抜け出しを図ったワイネルワイバーンに、直線入り口の段階でもう既に追い付いてしまった。


 最後の直線は、インドラの文字通りの独壇場となった。一追いごとにワイネルワイバーンとの距離が開いて行き、ゴールした時には実に7馬身もの差が広がっていた。勝ちタイム1分57秒9は評価し辛い数字であるが、ただ1頭40秒を切る39秒8の上がり3ハロンは、2位のワイネルに1秒8の差を付ける圧倒的な内容だった。


 この極悪馬場で走ったダメージを考慮して、インドラは放牧してリフレッシュすることとなった。その次走は、ぶっつけでのホープフルステークス挑戦に決定した。

 なお、このレース以降、2着馬のイギリスダービー挑戦が話題となることはなかった。

 

ここまで出て来た種牡馬についてですが、実在馬で言うと

サタデーフィーバー→サンデーサイレンス

ブロンソンズターン→ブライアンズタイム

スーパーゼウス→トニービン

サスケハナ→クロフネ

のイメージで見て下さい。

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