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少女ときどきジョッキー  作者: モリタカヒデ
第1部 少女ときどきジョッキー
12/222

12 夏競馬

 今年も暑い夏がやって来た。優がデビューして、初めての夏である。


 春のGIシーズンが終わった後のおよそ2か月間、中央競馬は東京・中山・京都・阪神の中央4場を離れ、ローカルの各競馬場で開催されることになる。

 この夏競馬における拠点は、大きく分けて、北海道、東、西の3つある。


 北海道は、前半が函館、後半が札幌。冷涼な気候目当てに、素質の高い2歳馬が集まりやすく、それを目当てに多くの上位騎手が集まる激戦地だ。馬力が要求される洋芝を使用しているのが特徴で、小回り平坦で直線が短い形状は共通しており、逃げ先行馬が有利なコースである。トレセンから遠いため、基本的に人馬とも滞在しての競馬となるため、グルメや歓楽街が充実しているのも魅力の一つとなっている。


 東は、前半が福島、後半が新潟。関東の中堅・若手が多く騎乗する。直線が長く馬場状態も良好な新潟は、近年2歳馬を下ろす場所として人気が上昇しており、新潟でデビューして後のGIレースで活躍する馬も増えて来ている。どちらもトレセンから直接行ける距離だが、交通費がかさむ新潟は、現地に滞在して臨む騎手が多い。競馬場での調教を手伝うことで、乗り馬の確保にも役立つからだ。


 西は、前半が中京、後半が小倉。関西の中堅・若手が中心だが、東と比べると上位騎手の参戦が多い。特に小倉は周囲の繁華街が栄えており、ここでの滞在を楽しみにしている関係者は多い。また、九州は馬産や地方競馬の歴史が長く、小倉競馬に特に力を入れる九州出身関係者も数多い。


 優は、師匠の太陽にも相談して、福島・新潟の関東ローカルを拠点とすることに決めた。自厩舎や日頃世話になっている厩舎の馬がここを中心に出走するから、乗り鞍を確保しやすいのが最大の理由だ。今は一つでも多くのレースに乗って、腕を磨いていくべきとの考えで一致した。



 福島開催の開幕を控え、調教に汗を流していた優に、湯川 英夫調教師から直接、思わぬ騎乗依頼があった。

「優。急で悪いんだけど、再来週の七夕賞、うちのジェットマンに乗ってくれないか?」


 七夕賞は、福島芝2000メートルで行われる、GⅢレース。レースの中でも、グレードが付く重賞レースは最高峰であり、その勝利は賞金、栄誉とも格別である。競走馬の血統カタログにおいても、重賞を制した馬は、ブラックタイプ(太字)で表記される。それだけの箔がつくものなのだ。


「どうして、どうして私に?」

 重賞初騎乗の千載一遇のチャンスではあるが、全く実績のない新人の自分に、何故白羽の矢が立ったのか。違和感を覚えた優は、思わず尋ね返した。

 湯川が事情を説明する。

「元々仲本(なかもと)が乗る予定だったんだけど、駄目になったからな。そこで代役を探してたけど、なかなか捕まらなくて。そしたら、オーナーの方から、騎手を探してるんだったら、チョコのご褒美も兼ねて、お前にって話があったんだ。」

 仲本 (のぼる)は美浦の中堅ベテラン騎手で、ジェットマンは彼のお手馬の一頭である。しかし、彼は先週の東京競馬で進路妨害を取られて騎乗停止処分を受けており、今週と来週の2週間は乗れなくなっていた。

 そして、ジェットマンの馬主は、優に初勝利をプレゼントしたチョコレートケーキと同じだったのだ。その縁で貰った騎乗依頼。これは棚ボタではあるが、優が結果を出したからこそのチャンスである。


「私で良ければ是非お願いします、湯川先生。」

 優の、記念すべき重賞初騎乗が決まった。

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