119 大差勝ち
ストロングソーマでのダービー挑戦を誓った、優と神谷厩舎一同。その優はこの週末、いつもの新潟ではなく札幌に転戦しての騎乗である。
そのお目当ては、デビュー以来2戦2勝で菊花賞を目指す外国産馬ザゴリラ。栗東・山本厩舎の管理馬で、ここまでの2戦とも優が騎乗している。
初戦は中団からの差し、2戦目は逃げと自在性もあり、上がり勝負に対応できる瞬発力も備えている。高速馬場必至の京都競馬場を舞台に行われる菊花賞に関して言えば、差し脚質のソーマナンバーワンよりも適性は高いのではないかと優は考えていた。
そのソーマナンバーワンがいるにも関わらず、引き続き依頼をくれた山本調教師の信頼に応えるためにも、勝利による賞金上積みは、本番の出走に向けた至上命題であった。
そしてザゴリラが出走する土曜のメインレース、3歳以上2勝クラスのハンデ戦、札幌日刊スポーツ杯の時間がやって来た。芝2600メートルのハンデ戦で、今年は10頭の出走馬を集めて良馬場で行われる。
3枠3番、優とザゴリラのコンビは、堂々の1番人気。長距離で完勝続きということもあり、この時期の3歳馬にしては若干見込まれた54キロのハンデを与えられたが、小回りローカル向きの先行力もあり、死角は少ないと見られていた。
特に強力なライバルもいないメンバー構成であったが、最内1番枠を引いた2番人気のローラーヒーローは逃げ馬である。菊花賞本番では、先行して鋭い二の足を使うダイヤモンドダストが待ち構えており、優はこのレースをそのシミュレーションとして考えていた。
果たしてスタートすると、内から好スタートを切ったローラーヒーローが押して出て、強固にハナを主張して来る。優は逃げるのか、控えるのか。
優の出した答えは、譲らずハナを主張する、であった。新馬戦でダイヤモンドダストと対戦してその強さを肌で感じている優には、ダイヤモンドダストより後ろで競馬して勝つビジョンが浮かばなかった。たとえ目標にされようとも、位置取りの有利さを優先した方が勝率が高いと見たのだ。
2頭による逃げ争いとなれば、当然ペースは上がる。しかし優は、ザゴリラの能力なら多少のオーバーペースは問題にはならないと自信を持っていた。それで残れないようなら、菊花賞に出ても通用するはずがない。結局1ハロンほど競り合ったところでローラーヒーローが引き、優とザゴリラはこのレースの主導権を握ることに成功した。
最初の1000メートルの通過は、1分1秒ジャスト。このクラスとしてはハイペースの部類に入る。それでもザゴリラの走りには余裕が感じられた。大社グループの外厩で鍛えられたこの伸び盛りの3歳牡馬は、前回よりもさらに成長しているのが、手綱からも伝わって来る。
勝負所の3コーナーから4コーナーに差し掛かっても、痺れるような手応えで軽快に飛ばすザゴリラに、後続は付いて来ることが出来ない。2番手のローラーヒーローを6馬身ほど引き離した状態で、最後の直線を迎えた。
直線に入ってもペースの衰えないザゴリラは、さらにリードを広げて行く。勝利を確信した優は追うのを止めて馬なりで流したにも関わらず、2着に10馬身以上の大差を付けて、266メートルの短い直線を先頭で駆け抜けた。勝ちタイムは2分39秒5、上がり3ハロンは36秒3という優秀な内容。条件戦にも関わらず、2分40秒を切る破格のタイムであった。
「思っていた以上の強さでした。菊花賞が楽しみです。」
山本調教師に報告する優の声も弾む。遅れて来た素質馬は、菊花賞の惑星として一躍注目を集めることになった。なお、同馬の次走は、トライアルのGⅡ神戸新聞杯に決定。ここに出走を予定しているダービー馬ライトニングボルトと対決することとなった。
優はこの勝利で通算27勝。GⅠ騎乗が可能になる節目の30勝まで、残り3つ。いよいよカウントダウンに突入した。




