ポートフォリオ
「コレ、卒業生の作品ですか?」
後輩が手に持っていたのは、一見すると写真屋で貰える記念写真の写真台紙みたいな、プラスチック製のフォトケースだった。
「ああ、それね」
「……わ、きれいですねー!」
開いた中には一枚の写真。写るのは、花に埋もれる白いベールを被った白いドレスの、うつくしい女性だった。
「テーマは、ウェディングフォトかな? ……ん、でも、コレ……」
後輩が首を傾げる。構図が、奇妙だったからだ。
敷き詰められた白い花の中心に、仰向けで目を閉じ、両手を腹の上で組み眠るような女性。まるで。
「棺に収まる、ご遺体みたい……な、」
「正解。それ、本物のご遺体だから」
「えぇ!」
淡々と肯定する先輩に、後輩は素っ頓狂な声を上げた。嘘でしょ。呻くように洩らす。
「ここのモデル科にいた人らしいよ。突然、真冬に独り暮らしの部屋で、脳梗塞か何かで倒れて」
「怖っ」
「で、卒業展示のファッションショーやる予定だったとかで。チームだった人たちが、どうしてもって頼んで。葬儀屋さんや納棺師さんに協力してもらって」
先輩の説明を聴く後輩は、はぁ、と深く息を吐いた。成程、故人に余程の思い入れが在ったのだろう。確かに女性は、この世のものではない程うつくしかった。
「ご遺族も気に入ってね。撮った写真の一枚を遺影にしたんだって」
「へぇ。ここまでしてもらったら、そうなりますよね。じゃ、一枚は今もご遺族のとこに……」
「それがさぁ、」
後輩が頷くのを、先輩が食い気味に止めた。
「その夜に遺影、盗まれちゃったんだって」
「え!」
先輩曰く、参列者が皆、溜め息を吐く程に女性の最後の晴れ姿は魅惑的だった。それこそ。
「人外的にね」
アーティストの卵たちが心血注ぎ友の門出に華を添えた結果、魅入られてしまった人間がいたのだ。
通夜だ何だと、てんてこ舞いだった家族親族が目を離した隙に、遺影は消えていたそうな。
「幸いデジカメだし、また印刷すれば良いんだけど、……まぁ、軽くパニックよね」
「うわぁ……じゃあ、写真は今も、」
「それがさぁ────
盗んだ人、死んじゃったの」
「ぇっ」
「その男も脳梗塞で。飾ってた遺影の真ん前で倒れてたんだって」
「……。まさか、祟り?」
「いや、どっちかと言うと……冥婚じゃない?」
だって、自分の写真の隣に飾ってたらしいよ、もう叶わない花嫁姿の遺影をさ。
先輩が話し終えた途端、後輩はパタンとケースを閉じて写真を仕舞った。