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その人生に青き救いを。  作者: 白滝 玉
1章
4/4

落ちた先は深い森 (4)

はひぃ、やっとこさ一段落って感じ。

鬼はドームの中心、剣のある場所に佇んでこちらを見ている。


しかし、それ以上は何も無かった。あちらから襲ってくる気配は全くないし、かといって干渉してくる気配もしない。


「なん、なんだ」


清が首を傾げると、再び空間に歪ができる。


「おい!またかよ!」


歪から出てきたものは、目の前で地面に刺さっている剣と、全く同じ形と色を持った剣だった。


それは自然と清の手元へと飛んできて。無理矢理に掴まされる。


すると、今の今まで無干渉だった鬼が急に手に持った棍棒を振りかぶってきた。


「っ!?」


清は咄嗟に現れた剣で棍棒を受け止めるが、あまりの衝撃にドームギリギリまで吹っ飛んだ。


「いっつぅぅぅ!!」


鬼は踏み込み、とてつもない勢いで詰めてくる。


「まてまてまてまてまて!ストォォップ!!」


その掛け声と共に、鬼はピタリと攻撃を止める。


「...は?」


止まった...?


鬼に触れる。動かない。ただただこちらを伺っているだけだ。


「は、ははは、なるほどね、理解したわ。」


これはいわゆる、トレーニングモードのようなものだ。ドームの中にいれば傷の治りが異常なまでに加速する。


例えばここに鬼が出てきて、清をフルボッコにしたところですぐに回復する。だから危険がない。


ならこの剣は、レプリカみたいなものか?現実と、ほぼ同じレベルの。


俺がドームの中で戦い方を学びたいと考えたから。隠された機能であるトレーニングモードが作動した。


でもなんでこの鬼なんだ?


印象深かったからだろうか。


「しかし、いくらトレーニングモードって言ってもな。これ以外いないのか?」


その声とともに、鬼の体が不定形になって全く別の形を取り始める。


そいつは、先程自分の肩をぶち抜いた人狼だった。


「...これじゃあんま変わらないな。」


そもそもこいつらってこの森じゃどれくらいの強さなんだ?


外にはごく稀に、地形や天候すらも操る怪物が現れることがある。そのどれもがこの場所を一瞥すると、すぐに興味をなくしてどこかに去っていってしまうのだ。


あいつら基準で考えたら人狼も鬼もそんなに強い部類じゃないのかもしれない。


なら、と人狼ではなく鬼の姿を頭に思い浮かべてもう一度剣を握る。


出来るところまでやって見るか。せっかくなんだ、やらないと損だ。


鬼は再び動き初めて、清に棍棒を向ける。









「果ての世界」は基本、多くの木に囲まれた森だ。

人類未到達地点と呼ばれたこの場所は、未発見の魔物や宝具で溢れているという伝説がある。かくいう私もそれにつられてやってきた愚かな人間の1人だ。だが違った。ここには噂通りのものなど何も無い。あるのは留まることを知らない弱肉強食の生存競争と、瞬く間に変わっていく気候と地形。それに順応し生きていく賢く強靭な者達。


最も危険なのは、地形や天候を変えるのが自然ではないということだ。


数匹、たった数匹だが、進化を続け生き残るために力をつけた畏怖すべき魔物がいる。


彼らこそがその力で地形や天候すら操る張本人だ。

他の生き物に対抗するべく力を蓄え続けている。


災害そのものだ。


ここにある危険は何も魔物に限った話ではない。第二の危険は植物だ。


巧みに罠を貼り、凶悪な魔物達を捕食する食肉植物。


広い範囲に根を張って、蜘蛛の巣のように生き物を捉えて養分を吸い取る大樹。


触れただけで爆音と衝撃を発し種子をばらまく蕾。


これらは、実際に私が見てきた生物、植物達だ。

この場所には明確な食物連鎖というものは存在しない。互いが食い、食われる。そんな場所なのだ。


ここは人が生きていける場所ではない。

いかなる英雄であろうと、この場所では無力な存在となるだろう。


私はこの人生の全てを剣と探求に捧げてきたつもりだった。

慢心していたのだ、自分なら行けると。


きっと私が国に帰ることはないだろう。この本も、おそらく届きはしないだろう。


だが、もしも私の他にこの場所に来て、これを手にした者がいるならば。


お願いだ、どうか死なずに帰還してくれるよう。心から願っている。


この場所の恐ろしさを、世に伝えることこそが世のためになるのだから。


ペンを置き、地に倒れる。


ラグ・ロックハートは、その人生を剣と冒険に捧げた、いわば英雄、剣聖の類だった。


その花ある生涯は、誰にも知られずひっそりと、世界の果てで幕を閉じることになる。






清が剣によって作り出したレプリカでの修行を初めてから。4ヶ月の時が経った


未だ、人里の手がかりすら見つかってはいない。

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