表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その人生に青き救いを。  作者: 白滝 玉
1章
3/4

落ちた先は深い森 (3)

晴天、そう言えばここに来てから雨に出くわしたことはまだないな。降って欲しくはないけど、水あるし。ていうかこのドームって雨は通すのだろうか。通すんだったら嫌だな。


でもまあ取り敢えず。


やばいな


清は、危機に直面していた。


本当にどうしようか...


その危機は、外の怪物達によるものではない、厳しい環境のせいでもない。


空腹だ。






食べるもの、ないことは無いんだよなあ...


清の視線の先には、前に生やした紫の果物が成る木だ。


でも、あれ食べたら死なないかな...

いや、今はそれより空腹を何とかするほうが大事だ。大丈夫、ドームから出てきた木なんだから...


激しい空腹で、清の判断力は著しく損なわれていた。


木から一つ実をもぐ。


恐る恐る1口、あれ?これ皮向くタイプじゃないよね?


咀嚼して、飲み込む。味はほとんどしなかった。不味くはない、だが美味くもない。

それから三十分ほど経っただろうか、身体にこれと言ってなにか変化が起こるということはない。


いや、むしろ活力が出て気がしないでもないな...正解だったってことでいいか。


清はそのまま追加で二つほど実をもいで食べたが、やはり身体になにか悪い変化が起こるということはなく、多少元気になるくらいだった。


取り敢えず当面の食糧問題も解決?

本当すごいなこのドーム、どうなってんだマジで。


清はふと思い至る。


このドーム作ってるのって、間違いなくこの剣だよな...これ引き抜いたらどうなるんだろう。


柄を握る、するとやはり剣は少しだけ輝きを増す。清はそのまま、剣を引き抜いた。


瞬く間にドームは消え去り、中にあった全ての物が瞬間的に消滅した。残ったのは清と、剣と、クレーターだけ。


「やべっ!」


思わず再び地面に突き刺す。


それと同時に先程までの光景が再生していくように、ドームが出来て小屋、木、水源が現れていく。


...抜くと消えるのか、刺すと戻ると...


もう一度試してみようと思ったが、次また復活する保証はないので今回はやめておいた。


「あれ?」


ふと異変に気がつく。異変と言っても困ることではないのだが。


ドームの位置がズレているのだ。


さっきとドームの場所が違う?剣を中心に移動しているのか?


これならば、この危険地帯でも少しずつ移動して行けるかもしれない。


そうすれば人里までいける


ゴクリと唾を飲む。意思疎通のできる人間と会うということは、清にとって第二の目標でもあった。


人は孤独じゃ生きていけない。そうすることができる人間もいるかもしれないけれど、いつか必ず躓く時が来る。


「...よし!」


ならば、次は人里探しだ。


その為には剣のルールを把握しなくては。


「やるぞ」


そう言って、清は今一度剣を引き抜いた。





結論から言おう。安全地帯の移動による人里探しは可能だ。


だが、この剣にはクールタイムのようなものがある。引き抜いた後すぐにドームをはれたのは最初のみで、それ以外は三〜四分間待たなくてはいけない。


新しいドームを作る直前に骸骨を被った4本の手がある猿に囲まれかけた時はさすがに死ぬかと思った。


どうにも、ここで狩りをするのは無理そうだ、自分よりも上の存在があまりにも多すぎる。


武器なら一応この剣があるが、剣なんて1度だって使ったこと無いし...


やはり少しずつ移動していくしかないのか。


剣を引き抜いて、またドームを作れるまで4分間。


1分後に、例えば最初に出会ったあの鬼に見つかったとして、逃げ切れるだろうか...


答えは否だ、最初の頃でもすぐに追いつかれていたのに、4分間も地形を知らない場所で逃げ回るなんて無謀すぎる。


だが、それは丸腰だったらの話。

青い剣は、いつものように光を放って佇んでいる。


これは剣だ。剣とは戦うためのものだ。


清が期待しているのは、安全地帯を作る以外の別の可能性。戦うため力だ。


それを確かめるにはやっぱり引き抜かなければならないよな...


4分間、走ったところでその移動距離はたかが知れてる。1日に何度もやらなければ、一体人里が見つかるまで何年かかるのか分かったものじゃない。


...決意が薄れる前に。


剣を引き抜く。走り出す。

清の、孤独な戦いが始まった。





「はっ、はっ、はっ!」


森の中を走っている。ひたすらに、全力で木々を走り抜ける。


既に息は絶え絶えだ。だがそんなことも気にならない。


後から、二足人型の狼が迫っていた。


剣を引き抜いて三分ほどの頃だったろうか、もうすぐクールタイムが終わるというところで、目の前に狼が現れた。


二足歩行の、茶色い狼。身長190はあろう体躯と、鉄製の槍。


狼は、あろうことか走っている清に向けて槍を投擲したのだ。


幸い槍は、肩を貫通していたが、運が悪ければその場で死んでいた。


20...19...18!


「ぐっ!」


木の根に躓く。

後から、ものすごいスピードで人狼が迫る。


8...7...6!


そこまで来て、清は逃げるのが無理だと悟った。ならば。

立ち上がって剣を構える人狼はすぐ目の前だ。


剣を人狼に向けた瞬間、刀身が青く、強く光を放つ。清自身にも何が起こったのかわからない。


だが、人狼はそこで詰めるのをやめて身構えた。危険を感じ取ったのだと、すぐにわかった。


3...2...1!


人狼が飛びかかってくる気配はない、いける。


0!


清は強く、残った右手に力を込め、地面に向けて剣を突き刺した。


剣は再び強い輝きを放って結界を形成していく。同時にいつもの小屋や木も再生していき、範囲内に入っていた人狼はそのまま吹き飛んだ。


デジャブだ、鬼に出くわした時と同じ、本当に偶然、奇跡的に生きることが出来た。


ただ前と違うのは。


「いっ、ぎぃ...痛ぅ〜」


肩に穴が空いていることだろうか。


どうする、治療したいけど道具なんてない。兎に角服をちぎって、血を止めなければ...


「あれ?」


肩に目を向ける。

先程まで、穴が空いていたはずの肩はもうほとんど治りかけていた。じゅうじゅうと湯気のようなものが立っているが、間違いなく治っている。


そして数分後には、すっかり傷は塞がっていた。


まだ痛いし、傷は残ってるけど...どうなってるんだ?


貫かれた直後、こんなふうに治っていくことはなかった。傷口からは血が吹き出していたし、冗談じゃなく失血死するかと思った。


「...このドームか?」


つくづく万能だな。

思わず溜息が出る、いい溜息だ。


本当になんなんだろう、この剣は。


人狼に向けた時、光ってたよな。それに対してあいつが警戒してくれたおかげで助かった訳だし。


しかし、肩を貫かれたのに案外平静出いられるもんだな。これもドームのせいか?


「どうなんだよ」


剣をコツンと叩く。返事は勿論あるはずない。


もっと、調べなきゃな。

今回のことで改めて理解した。


この剣で、戦う力が必要だ。


でもどうすれば...


そんなことを考えていると、突如目の前の空間が歪んだ。歪みから黒い謎の粒のようなものが出てきて、二足歩行の生物を形どっていく。


「な...は?」


目の前にいたのは、最初の日に出くわした鬼だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ