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その人生に青き救いを。  作者: 白滝 玉
1章
2/4

落ちた先は深い森 (2)

それにしても、何だったんだろう。


突然剣が光ったと思ったら鬼がドームの外に弾き飛ばされて...そこから奴らは入れなくなって...。


鬼は既にその場にはいなかった。

あれから何度も中に入ろうとしていたのだが、なにを試してもこちらには来れなかったようで、ついに諦めてどこかに行ってしまったのだ。


清はチラリと剣を見る。


...どう考えてもこれのせいだよな。


恐る恐る剣に触れる、するとほんの少しだけ青い光が強まった気がした。


「えーと、さっきは確か...」


「出ていけ」と叫んだんだったか。もし俺が口に出して出来たことなのだとしたら、何が出来るのか試さなくてはいけない。


生きるために。出来ることをしなくては。


ふと地面に目を向ける。そこにはここに着地ついらくした時になぎ倒された木が転がっていた。


「...木よ、ドームの外に行け!」


シーン、という効果音が聞こえてきそうだ。何も起こらない、穴があったら入りたい。


ならば


「邪魔なものはここから出ていけ!...とか?」


...何も起こらない。これも違うのか?そう思った矢先、目の前にあった木が突然吹き飛んでドームの外に飛び出す。


「いっ!?」


それだけにとどまらず、ドームの中にあった木の全てがそれに続いて吹き飛んでいく。


数秒後には、木も砂利も、大きな石も全てドームの外に吹き飛ばされていた。


半ば放心していた清は一つ思いつく。


「水が欲しい、ここに水源作れないかな。」


そう言った瞬間、地を突き破り大量の水が湧いて出てきた。


嘘だろ...本当に出てきやがった。


再びチラリと剣を見る。今まで通り光っている。


なら。こんなことも出来るんじゃ?


「食料も欲しい、ここに出てきてくれないかな。」


...沈黙。その後も言葉を変えポーズを変え何度も試したが、食べ物は生み出せないようだった。他にも色々試してみたが、出せるものと出せないものが存在しているようだ。


「うーん、条件がわからん。出せるものと出せないものになんか違いがあるのか?」


今まで出せたものは、土や木と言った自然物ばかり、例外として生やした木から果物が取れたが...


「なにこれ...」


紫色の、形が不安定な木の実がたくさん生えてくる。


「...食べるのはよすか、これで死んだら洒落にならんしな、うん、本当にやばい時だけにしよう。」


色々試した結果、木を集めてその場所を指定すれば火も出せることがわかった。これで湧いた水を沸騰させれば...


「いや、入れ物がないじゃんか...」


そう言った瞬間、目の前に石で出来た容器が出現する。


これはもしかすると...


「生み出せる素材からなら色々なものが派生して新しく作り出せる?例えば家とか。」


想像したのは小さな小屋、寝て、起きるためだけの小屋。


すると、地面からもりもりと木が生えて、そのまま形を変えて小屋になった。


驚きのあまり思わず絶句する。原理はよく分からないけどひとまずこれで今日は生きられる、気がする。


次第に日は落ちて、あたりが真っ暗になっていく。光源はドームの中の火と、剣の青い光しかない。


なんか松明みたいだなぁ...なんてどうでもいいことを考えていると。


ガサガサと、ドームの外から色々な動物がこちらを伺っているのが見えた。


異常に足が発達したカンガルー。

先程鬼に殺されていた黒い虎。

額に宝石のついた鳥の群れ。

阿呆みたいに巨大な蜥蜴。


そいつらはここにある明かりに集まって、どいつもが目を合わせると殺し合いを始めるか、一目散に逃げるか、様々な行動をとっている。



こんな奴らがいるところに飛び出したのか、俺は。


不用意にも程があったと思った。次からは気をつけなければ。


ひとまず寝ることにしよう。幸い奴らはこの中には入って来れないみたいだし。


本当に、滅茶苦茶な1日だった。明日はどうしようか。

頭も体も疲れきっていた清は、余計なことを考える暇もなく、すぐに深い眠りについた。





風の吹き荒れる音がする。


次第に風には白い雪が乗って、瞬く間に世界を一面の雪原に変えた。


吹雪だ。そこには1匹の豹がいた。普通の豹ではない。全身が真っ白な、全長数メートルはある巨大な豹。


豹が見据える先には。蟹がいた。砂で出来た蟹だ。足は何十本もあって、大きな鋏を生やしている。

そしてやはりこいつも豹に匹敵するくらいに巨大だった。


ただ、その蟹の周りは雪ではなく。砂が吹き荒れていた。蟹が通った場所は草木も、岩すらも朽ちて砂と化していく。


豹が1つ咆哮すると、蟹は目にも止まらぬ速さで豹へと迫る。


豹は咄嗟に蟹の関節部に噛み付くが、蟹の身体は溶けるように地面の砂に紛れて、再構築を始める。その間1秒にも満たず、豹の背後に回ってその巨大な爪を叩きつける。


豹は衝撃に吹き飛び、そのまま苦虫をかみ潰すかのような表情で唸り、不利を悟って退いた。


その場に残った蟹は清のいるドームを一瞥するが、すぐに興味をなくしてどこかに去っていく。


ドームの外は一面の砂漠となっていた。しかしそれも束の間、すぐに新たな緑が芽生え、そこから木が生えて、既に半分ほどが元の森へと戻っていた。


繰り広げられた激しい一瞬の攻防に、その晩清が気がつくことは一切なかった。


結界は持ち主に敵意を持ち害なすもの、そして害あるものの侵入を拒む。紛れもなく。「持ち主」が取り付けたルールだ。


ここは、「果ての世界」。この世で最も危険で謎多き場所。あらゆる凶悪な力を持った生物が生存競争を繰り広げ、決して人風情が踏み込んでいい領域ではない。

英雄も、勇者も、聖女も、魔獣の王すらも、そこにだけは近づかない。

もはや隔絶された別世界である。

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