4.腹が減ってはなんとやら
4.腹が減ってはなんとやら
塀の上を歩いて行く。猫以外だれも通らない専用道路だ。暖かい日差しを浴びながら、ゆっくりと歩を進める。
『ハチさん、ハチさん』
その時、お尻の後ろから声が聞こえた。トラの声だ。
『ん?』
『お腹空いたよ、何か食べられないかなあ』
『そうだな、何か探さないとな』
『えっ、自分でご飯を探すの?』
目を丸くして驚く。彼は生まれてからずっと飼い猫だ。食べ物は飼い主から与えられるのが普通で、自分で探したことなんて一度もないのだ。
『そうさ、野良でやってる猫は、みんなそうするのさ』
へぇと感心した声を出して、周りを見回した。
『あっいい匂い。僕やってみるよ!』
そうして、トラは駆けて行った。その先にはソーソンと書かれた大きな建物。あれはコンビニと呼ばれているお店だ。トラのお手並み拝見と、少し離れた場所で様子を見る。
表は大きなガラスの扉で守られている。しばらくはカリカリとドアを引っ掻いたりしていたが、扉は開かない。
そして人間のお客が近づき、自動ドアが空いたその瞬間、入れ替わるようにソーソンに突入して行った。
『やめろーはなせー』
1分もすると、店員に抱えられ情けない顔をしたトラが帰って来た。というかつまみ出されて来た。
『ハチさん、だめだったよ』
『うん、コツがあるんだ。コンビニでご飯を手に入れるにはね』
そう言って、ぼくあソーソンに近づいて行った。しかし中には入らない。自動ドアの隣で待つ。
そして、中から人間の客が出て来たとき声をかける。ターゲットは若い女だ。
『おい人間、ご飯を出せ』
そう言って足にまとわりついて、尻尾をくっつけた。わあと、初めは驚いたようだったが、しばらくするとサクサクする食べ物を出した。
「おいしい?」
『良くやった』
食べるに夢中になっていると、トラもやって来た。こうするんだ、とトラに教えてやると。素直に頷いた。
女は、ぼくとトラと二人分のサクサクを寄越して去っていった。なかなか良い人間だった。
『僕ももう一回やってみます』
『うん、頑張ってみな』
プロロロ……
と原付の音、どうやら今度は若い男が店にやってきたようだ。ヘルメットをかぶったまま、中に消えていった。今度はこいつが店から出るタイミングで襲撃する。
『おい、ご飯をくれっ』
男が出てきた瞬間にトラが行った。
しかし、かわいいなあなんて言うだけで、何も寄越さない。
ぼくも機転を利かせて加勢する。男の原付のカゴに収まって徹底抗議の構えだ。
ぼくの姿を見た男は、根負けしたのだろう。小さな四角い箱をこちらに向けて何やら操作した後、店に戻りちゅるちゅるを買ってきた。
ちゅるちゅるは最高に美味かった。