表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

3.旅は道連れ世は情け

3.旅は道連れ世は情け


ああ、久しぶりの自由の匂い。

しっぽをフリフリ、塀の上を歩く。ご機嫌な時に上から猫語で声をかけられた。


『ハチさん、ハチさんどこへ行くんですか?』

『ん?』


ブロックで出来た塀の上、さらにその上を見上げると、白い家のベランダに一匹の猫が居た。


『ああトラじゃないか。ぼくあ旅に出るのさ』

『旅?かっこいいなぁ』

『トラも付いて来るかい?』

『ああ行きたいな。でも、とても僕なんか無理だよ』


そう言ってトラは尻尾を下ろしてしまった。

茶トラのトラは素直な良い子だが、生まれてこの方箱入り猫で、自分に自信がないのが玉に傷だ。


『無理ってどうして決めたんだ』

『だって、僕は生まれてから自分の足で一歩家を出た事が無いんだ』


なるほどなるほど、彼には外の世界へ出るのはとても勇気の要ることなんだろう。


『それにそれに、このベランダからは出られない』

『前の家の屋根にひょいと乗ってごらん。すぐにそこから出られるよ』


それでも、もっと尻尾を下げてトラは続ける。


『それに、それに……』

『できない理由を見つけるのが得意だな。でも、できない理由を考えるより、できる理由を考えた方が人生楽しくないかい』

『できる理由?』


耳を立てて、ぼくの話を聞くトラ。


『そうさ、ぼくあ今からお伊勢さんにお参りに行くのさ。ぼくには立派な四本の足があるし、この賢い頭もある。だからできるのさ』


今決めた。婆ちゃんの代わりに、お伊勢参りに行く旅だ。前に犬がお参りに行った話を聞いた事がある。あれにできて、ぼくにできない筈がない。


『僕にもできるかな?』

『さあね。トラができると思ったらできるかもね。でも、できないって思ってるなら、できないままさ』


でも、と続けた。


『ぼかあ君にもできると思うけどね』

『そうかな?』

『そうさ、そこからひょいと飛んでみな』


いつのまにか、下がっていた尻尾は天を指している。


『えい』


軽い身のこなしで、ベランダから隣の家の屋根の上に。そして屋根を辿ってぼくの前に。


『できちゃった』

『うん』

『ドキドキする』

『うん』


らんらんと目を輝かせたトラが、せわしなく尻尾を振っている。


『じゃあ、ぼかあ行くよ』

『あっ行くよ!行くよ!僕も行く!」


そうして、ぼくたちは二人の旅になったのさ。旅は道連れ世は情けってね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ