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図書室の受付係  作者: 空が昏れ
窓辺の君
3/14

放課後は秘密の話をしよう

 授業の合間の休憩時間に詠深はクラスの友人にツンデレ萌えの素晴らしさについて語る。そんな詠深にクラスで最も仲良くというよりは詠深の世話を焼いている友人の本田ほんだ優希ゆきは呆れたようにため息をついた。


「また、変なことを言って……一体今度はどうしたの」


「もうっ、だからみほみーがとにかく可愛いんだって、なんていうのギャップってやつだよ、ゆっきー!」


「知らないわよ! ていうかそもそもみほみーって誰よ!?」


「えーっと、名前なんだったかな……うん、忘れた」


 あだ名で呼んでいたらついつい本名の方を忘れてしまうのはいつものことだ。何だったか頭で考えるが欠片も思い出せない。ということで、思い出すのは早々に諦める。


「あぁ、でも、龍也と同じクラスだったなぁ」


「えっ、喜多くんと……?

んー、じゃあB組かな」


「そうそう、すごく美人さんなのだよ!」


 バシバシと机を叩きながら言えばゆっきーにうるさいと怒られてしまった。しかしそれでもやめたりしないのが詠深である。ほかのクラスメイトからもうるさいと言われているのに逆に「うるせーっ!!」と、倍の声で逆ギレする。


「うーん、もしかして丸山さんとか?

確か下の名前、みほとかだったような……」


「あぁ、そうそう!

ゆっきーよくわかったね、知り合いなの?」


「違うわよ。ただまぁ、有名よね」


 肩をすくめながら言ったゆっきーのセリフに詠深は首を傾げる。どうにも裏がありそうな含んだ言い方だ。どういう意味か問うようにじーっと見ていればゆっきーは観念するようにため息をついて話し始めた。


 というのもあの綺麗な容姿からか学年でもみほみーは随分と有名とのことだ。確かに有名にもなるよな、と納得していればどうやら噂はそれだけではないようだ。どうやら有名だからこそ別のものも囁かれるらしい。偉そうやら、性格が悪いだとか人を馬鹿にしているとか、なんだか悪い噂が目立っているようだ。

 詠深は話を聞いた後に今朝と昼休みのことを思い出してますます首を傾ける。

 ただツンツンしていただけだった印象だ。


「うーん、別にそんなんじゃなかったけどな」


「ふーん、まっ所詮噂なんてそんなものなのかもね。詠深がいうようにただのツンデレさんなのかも」


「そうだよ、おもしろいんだから」


「はいはい」


 ニヤニヤしながら言えばゆっきーには軽く流されてしまう。全く付き合いが悪い。

 それにしてもみほみーは随分な言われようだ。有名だからこそどんなことでも噂になりやすいのだろう。もしかしたら僻みも入っているのかもしれない。みほみーも大変なのだなとぼんやり思う。

もしかしてクラスで孤立しているのかもしれない。……なんだかありえそうである。なんとなく、昼に見たみほみーの笑みの理由がわかったような気がした。

 そんなことを思い詠深はうーんと唸りながら一瞬眉を顰めるが、まぁ、龍也がいるし大丈夫だろうとすぐに考えを改める。なんだかんだで龍也は関わりのある人には面倒見がいいやつだ。


「ところであんた、よく仲良くなれたわね……一体何しでかしたのよ」


「何もしてないよ! ただ話しただけだからっ!!」


 疑い深い視線を向けられ詠深は思わず叫んで否定する。確かに過去にいろいろやらかしたが今回は断じておかしなことはしていない。普通に会話をしただけである。しかしゆっきーはまだ疑い深い眼差しで睨んでいるので詠深は不服そうにうなり声をあげる。





 ふと、気になる視線を感じた。なんだろう? と思い顔を向ける。

 一瞬、彼と目が合っていたように思う。それに気がついたのもきっと自分が最近、彼のことを話題にする機会があったからだ。じゃないと自分は彼がこちらに向いていたことに気づかなかっただろう。彼は何もなかったかのようにもう周りにいる友人と話している。


「どうしたの?」


 ゆっきーが不思議そうに問いかけてきた事に詠深は首をふって何でもないと応える。

 そう、何でもないことだ。ただ、なんだか妙に引っかかってしまったのだ。そして、その理由をつかめずにいることがすごくもどかしいと思った。







 放課後になるとみほみーはやはり図書室に現れた。本を読むこともなくただ窓の外を見ている。詠深はみほみーが来た時は挨拶をしたがそれだけであとはちょっかいをだすわけでもなくそっとしておいている。そして係の仕事をしながら適当に手にした面白そうな本を読み進めていく。

 放課後の図書室というものも他の時間とはまた違った空間を作り出している。朝の静かな空間と昼の賑やかな空間そのどちらの要素を持っている。最初の下校すぐの時間は賑やかなものだが時間が経つにつれ徐々に静かな空間へと変わっていく。それはなかなか趣のあることに思えた。


 40ページほど物語が進んだところで詠深は顔をあげると大きなあくびをひとつ漏らす。どうやら一時間ほど経っているようだ。窓の方を見ればみほみーが相変わらずそこにいた。おそらくずっと外を見ていたのだろう。

 そんなみほみーの行動を詠深は不思議に思う。あんな風に遠くからただ相手を思い眺めるくらいなら思いを打ち明ければいいのに、と。結果がどんなのにしろきっとそこから先に進めるのには変わらないと思うのだ。

何よりもあんな遠くから眺めているだけで楽しいのだろうか? 心底不思議である。

 まぁ、恋愛なんてしたことない自分にわかるわけもないか、と詠深は開き直るように考えるのをやめた。


 周りを見るとみほみー以外にまだ何人か図書室を利用する常連が残っている。大体遅くまで残っている人達だ。基本この時間になれば利用する人も同じような人になる。この人達は帰る間際に本を借りるのだがそれまでもう少し時間がある。

詠深は読んでいた本のページにしおりを挟むとそっと本を閉じて、カウンターに肘をつく。本を読んで目が疲れたのもあり、そのまま何をするでもなく。図書室の風景を眺めた。


 不意に窓から入ってきた風が伸びてきた前髪を揺らした。いつも閉められているはずの窓は何故か今日はいくつかが開けられておりそこから入る風に何人かが顔をあげていた。

 本のページが勝手に捲られようが誰もが窓に立つ人の姿を見るとしばし眺めたあとそっと本の世界に戻って誰も何か言うことはなかった。そんな光景を最初に図書室に来た時に窓を開けた張本人がカウンターに肘をついたままおかしそうに見ていた。



 日が暮れ始めた頃になると図書室の利用者も徐々に帰っていく。そしてみほみーも窓から離れると詠深がいるカウンターにやってきた。いつもはそのまま帰っていたのにな、と思うとなんだか微笑ましいような気持ちになり詠深は人からはよくいやらしいと言われる笑みで迎える。


「もうお帰りで?」


「えぇ、詠深はまだ帰らないの?」


「そうだね、まだ一時間ほどいるつもりさ」


「……大変ね」


「まぁ、好きでやっていることだからいいんだよ」


「どういうこと?」


 受付係の仕事は確かに朝、昼、放課後と全ての時間でやらなければならない。ただし、それも最低限の時間だけでいいのだ。朝なら15分、昼は週に二回の時間を休み時間全て、そして放課後は一時間ほどである。これでもハードなのだが詠深は朝の時間は倍以上、週に二回で良い昼休みもほぼ毎日、放課後は用事がなければラストまで残っているというのを自分の意思でしていた。そのことをみほみーに伝えればみほみーは不思議そうに首を傾ける。


「どうしてそんな面倒なことを?」


「んー、まぁ、本が好きだしね。それにバイトもしてないし家に帰っても本を読んでばっかだから、これだけ本が揃ってる場所にいれるのならいるさ」


「ふーん、変わってるわね」


「ずっと窓から岡本くんを見ている人にだけは、言われたくないね」


「う、うるさいわよっ! も、もう帰るわ!!」


 一気に真っ赤になったみほみーに詠深は思わず声を立てて笑う。そしてそのまま帰ろうとするみほみーを笑うのをなんとか収めながら呼び止める。


「何よ」


 少しだけ機嫌が悪そうな声で言うとそのままぶすくれた表情で振り返ってみほみーは詠深を見た。律儀に応えてくれる姿にまた顔がにやけそうになるがなんとか頑張って詠深は耐える。


「ほら、私、岡本くんと同じクラスじゃん?」


「だから何よ、自慢!?」


「違うって、なんでそうなる!?」


 相変わらず斜め上のことを言うなぁ、と驚く。恋は盲目症候群おそるべしである。

 詠深の返しにみほみーは言葉が詰まったようにどもると俯いて「じゃ、じゃあなんなのよ」と小さくつぶやいた。そんなみほみーの姿に詠深は仕方ないとでもいうように苦笑する。


「だから、私岡本くんと同じクラスだからみほみーに岡本くんのこといろいろ話せると思うよ、って意味でしょ」


「えっ?」


「窓から見てるのんもいいけど、いろんな話聞きたくない?」


「……聞きたいです」


 ニヤニヤとしたまま言えばしばらく唖然としたままだったみほみーはやっぱり真っ赤になって俯いたあと小さな声で呟いた。

 ……いきなり敬語か、ちょっとぐっときたぞ。


「い、今から聞いてもいい?」


「えっ、今から? まぁ、別にいいけど、そっちこそ時間大丈夫なの?」


「大丈夫よ」


「ふーん、じゃあこっちにおいでよ」


「えっ、え!?」


 そう言って詠深は自身がいるカウンターの内側にみほみーを呼ぶ。しかしみほみーは戸惑ったように声をあげてなかに入ろうとしない。もしかして入ってはいけないものと思っているのだろうか。別に重要なものもないので入っても何ら問題ないのだが……。

 そのことを伝えればみほみーはおずおずと中に入ってくる。そんな様子に笑いながら詠深は余っている椅子にみほみーを座らせる。


「さーて、何話そうかな」


 みほみーに話せる、なんて偉そうなこと言っといてなんだが言うほどネタがないのだ。クラスメイトだし、多少の関わりもあるがそれだけでみほみーの満足いくようなものになるかと言われれば全く自信がない。まぁ、ネタが全く無いわけでもないのでなんとかなるだろう。


 それから詠深はみほみーに岡本くんを主軸とした話をいろいろ聞かせてあげた。それは詠深が図書室に鍵をかけるまで続き二人が一緒に帰ったのは言うまでもない。

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