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図書室の受付係  作者: 空が昏れ
窓辺の君
13/14

番外――私の友だち

余った物語の断片

 自分にとっての彼女――田島詠深という人物はとても世話のかかるやっかいな相手だ。すきがあれば何かしらの問題を起こしていたり騒いでいたりする。

 昼休みに図書室では匂いがついたらいけないからと何故か教室で持参したらしい納豆をこねくり回して異臭を放させていたり、授業中に読んでいた教科書の話で泣いていたかと思えばその話がいかに素晴らしいかを語りだし教師と意気投合していたり、とにかくこの間の岡本くんの胸ぐらをつかんで怒鳴っているくらいの出来事も日常茶飯事だ。

 だからかクラスメイトも「またか」ぐらいの認識しか抱かない。クラスメイトの詠深に対する認識もよくいえば賑やかな人、そして正直にいえばクラス一問題児である。


 朝もお昼休みも放課後もほとんど図書委員でいないはずなのに何故かものすごく騒がしいという印象なのだ。だからと言ってクラスで嫌われているわけではない。むしろムードメーカーとでもいえばいいのか歓迎されており、そして一部の人からはそれ以上に好かれている。

 というのもクラスに馴染めなかった人に対して詠深がクラス全体の間に入り仲を取り持ったからだ。そのせいか自分のクラスは全体的に仲がいい。もちろんそれを詠深が狙ってしたかは謎である。


 そしてそんな中、自分もクラスに馴染めていない時に詠深に助けられた1人である。



 もともと体が弱いためか昔からよく体調を崩していた。成長するにつれてだんだんマシにはなってきたが今もよく風邪をひく。

 そんな中、運悪くも高校の入学式の日に体調を崩してしまった。なんとか入学式は出たがそれからしばらく数日学校を休まなければいけなくなった。

 そして迎えた学校の登校日、自分は不安でいっぱいだったのを今でも覚えている。きっともうクラスメイト達は一緒に行動するグループを見つけている頃だろう。そんな中自分がうまくとけこめることができるとはとても思えなかった。


 そして緊張して教室に入った瞬間、ひとりのクラスメイトと思いっきり目が合ったのだ。それが詠深だった。肩程まで伸びた髪は少し茶色いがきっと地毛だろう。二重の目はもともとパッチリと大きいのだろうが今は不思議そうに自分を見るためかさらに大きく見開いている。そして自分がそんな視線を振り切り、席の椅子に座ると突然指差しながら大声を上げたのだ。

……あれには驚いた。



「あぁあああっ――!」


「え……えっ!?」


 驚いている間にそのクラスメイトは楽しそうに近づいてくると自分の目の前にきた。いきなりのことに驚き、そしてクラスからの視線を一気にあびたことで反応できずにいるとそのクラスメイトがそのまま話しかけてきたのだ。


「ずっと休んでいた子でしょう。初めまして私は田島詠深と申します! どうぞよしなに」


 そうおどけたように言って詠深は手を差し出して来てくれた。

 この時、自分がどれだけ救われたか詠深は知らないだろう。不安と緊張で今にも泣くのを耐えていた時に話しかけてくれ差し出してくれた手がどれほど嬉しかったか。たとえそれが少しおかしく思えるものでもだ。

 そっと握った手は自分の緊張で冷たくなった手に馴染むような暖かさがあった。伺うように見上げた詠深の表情は普段のふざけたものとは違いとても優しいものだったのを今でも忘れないでいる。


 そして緊張が解けたと同時にふと自分が自己紹介をしていなかったことに気づいた。


「えっと、私は本田優希って言います」


「ゆきって言うんだ。そうか……じゃあゆっきーだね!

よろしくゆっきー! 」


「えっ? あっと、よろしく」


 今では考えられないが当時は詠深の勢いに押されまくりだった。おかげでよくわからないあだ名で呼ばれるようになってしまった。

 もちろんあの勢いがあの時はとても助かったことだし、このあだ名も今ではとても耳に馴染むものになったのだが。


「うんうん。私のことは好きに呼べばいいよ」


「……詠深さん?」


「嫌だなぁそんな『さん』だなんて私とゆっきーの仲には不要というものさ」


「じゃあ詠深で。よろしくね」


「うむ、よろしく。まっ別によみよみとかよみりんって呼んでくれてもいいんだよ!」


 もちろんその発言は苦笑いでそっと流しておいた。詠深も特に気にした様子もなかったのできっとただふざけていただけなのだろう。


「ところでまたずいぶん休んでいたけど、何かあったの?」


「ううん、大したことじゃないの。ただ体調を崩していただけで」


「ええぇっ――!? も、もう大丈夫なの?」


 大袈裟にリアクションしたかと思えばとたんにこちらの心配をするようにのぞき込んでくる。その変化はさながらピエロのようだが、こちらを心配する表情はいたく真剣だったのは確かだ。


「大丈夫だよ、ありがとう」


「そっかそっか。でも、初日からいきなりなんて何だか災難だねぇ」


「ふふ、ほんとに」


 しみじみ言われた言葉にその通りだと思っておかしくて笑ってしまった。詠深はそんな自分の様子にふっと肩の力を抜くように笑みを浮かべていた。

 今にして思えばそれはほんとに普段の詠深が見せる姿とは違うものだったように思えた。そんな詠深の姿に安心してか自分はつい一言漏らしていた。


でも今は違うから大丈夫、ありがとう


あなたが話しかけてくれたから災難なんかじゃない、嬉しくて安心した。そういう意味で言ったお礼が伝わったのかはわからない。ただ詠深はあの時一瞬驚くように目を見開きとても嬉しそうに笑った後、言った。


「どういたしまして」


これが自分と詠深の出会いである。


 今にして思うとあの時の詠深の印象は今の詠深の問題児としてのものとはまた少し違うもののように感じる。いや、もしかしたら今の詠深の印象が本来の姿とは違うのか。なんにせよ、どちらも詠深を形作るものに変わりはない。





 さて、そんな詠深は今、昼休みになったというのにいつものように図書室に行かず教室の窓から紙飛行機を飛ばそうとしている。また馬鹿なことをしている。そう思い呆れながら近づくとその紙飛行機の正体が先ほどの時間返された抜き打ちテストのプリントだと気づく。


 紙飛行機つくうって~、なんて口ずさみながら虚ろな表情で今にも紙飛行機を飛ばしそうだ。どうやらテストの結果があまり良くなかったのかもしれない。とりあえず詠深の行動を止めることにする。

 すっと手を差し出せば近くにいたクラスメイトのひとりが教科書を渡してくれる。ありがとうと一言伝え、馬鹿なことをしようとしている詠深の頭に振り下ろす!


 バシーーーンッ! となんともいい音が響き、どこからともなく感嘆の声が囁かれる。


「っ――!!? 痛いよ、ゆっきー!!」


「当たり前でしょ、痛くしてるんだから。そんなことよりもあんたテストのプリントで遊ばないの!」


「何を言ってるのさゆっきー。テストのプリントというのはね、紙飛行機にして飛ばすものなのさ」


「そんなわけないでしょ! 全くもう、一体どんな点数とったんだか」


 呆れたように言えば詠深は未だにうつろな瞳のまま何かを諦めてようにふっと空気を漏らし、手にしている紙飛行機を差し出してくる。怪訝な思いでその妙に凝った作りの紙飛行機を破らないようにそっと開いていく。

 そしてプリントの中身を目にしたと同時に自分はそのプリントを傍から見てもわからないように四つにそっと折り曲げた。


「……悪かったわよ叩いて」


「うぅ……」


 なるべく優しく言えば詠深はうめき声をあげながら自分の顔をそっと手で覆ってしまった。ちなみに手に持っていた教科書はそっと後ろに回した時に誰かに取られて今は手元に何もない。そう、四つに折り曲げたプリントとも……あら?


「ぶはっ!」


 それに気づくと同時に後ろから吹き出すような声が聞こえて慌てて振り返る。そこには詠深のプリントを持って爆笑している他クラスの喜多くんがいた。おそらく一緒に図書室に行くため詠深を迎えに来たのだろう。


「お前っ、なんだよこの点数! しかも先生にも『字は綺麗です』ってコメントでフォローされてるじゃねーか」


「ふっ、羨ましいか」


「うっせーよ、12点」


「くそぉ! 英語なんて嫌いだ!!

アイアムイングリッシュ!」


「ちげーよ、お前はジャパニーズだ」


 そんないつものように二人のふざけた掛け合いを見ながら思う。相変わらず仲がいいな、と。このクラスでもお互い違うクラスだが二人はセットでいる印象である。もちろん、揃うとやっかいさは二倍だ。


「ほら、いい加減図書室に行くぞ。

じゃあな、ゆっきぃ」


「……えぇ、いってらっしゃい」


 こちらに向けられた喜多くんの視線に一瞬身が強ばるが、なんとかそれを表に出さずに返事を返す。


 自分は喜多くんが苦手だったりする。というのもこちらを見る視線がなんだか恐いのだ。かといって仲が悪いかと言われたらそうでもない。詠深を通さずにでも話したり関わったりもする。そして対応も普通なのだ。

 ただ視線に感じるなんだかドロドロとしたような名前もわからないものにどうしようもないほど恐怖を感じるのだ。


 そんなことを考えていれば詠深も図書室に行くため立ち上がっていた。しかしどことなくあたりが暗い気がする。


「うぅ~、行ってきますゆっきー」


「はいはい、いってらっしゃい。あと勉強くらいならいつでも教えるから」


 先ほどのあんまりな点数を思い声をかける。体が弱いのなら勉強だけはちゃんとしようと思い昔からしていた為か割と全般的に得意だ。


「ゆっきーーっ! ありがとーうっ――!」


 喜多くんに引っ張られながら大声で叫びこちらに向かって手を振っている詠深に苦笑しつつ振り替えす。相変わらず騒がしい。



 そんなわけで自分にとっての詠深は世話もかかるやっかいな相手であると同時にとても大切な恩人であり友人だったりする。


 もちろん恥ずかしいから本人には絶対言えはしない。







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