第8話 魔王との約束
目の前にはリリムの父親の足もとが見える……
顔を上げると鬼よりも鬼、まるで鬼神の様な形相をした男性が立っており、俺の右手はその男の股間を掴んでいた…
ーーーーーーーーーーーーーーー
次の瞬間、時間にして0.01秒…
男の放ったパンチの風圧で、その直線上の木々がなぎ倒された。
存在するもの全てを無に帰すほどの圧倒的な破壊力
普通なら見えない程の刹那の動きだが、今の俺は目で捉えることが出来た。
俺も吹き飛ぶかと思ったのだが、一切ダメージを受けていない。
恐らくGODスキルのお陰だろう。この男のステータスに俺が“染まった”のだ…
ということは、目の前にいる男は……魔王なのか……?
そこに思い当たって、俺は顔から血の気が引くのを感じた…
『……!?』
ダメージを受けていない俺を見て、男も明らかに困惑している
だが即座に表情を元に戻し、キッと俺を見据える…
『貴様…、何者だ……』
「ひぇっ、ごめんなさい。」
あまりの鬼気迫る表情に反射的に謝る。
『もう一度聞く……貴様は何者だ……』
地の底から響く様な声で男は問いかける。
「は、はいっ!!い、岩崎けいすけと言います!!先程はわざとじゃ無いとはいえ失礼な事をしてしまい、本当にすみませんでした!!」
相手が出来るだけ不快にならない様に腹からありったけの声を出して謝った。
だが男が欲していたのは自己紹介や謝罪ではなく、魔王である自分の攻撃を食らって、人間ごときが何故無傷でいられるのか…それを聞いていたのだ
『我の攻撃を受けて、貴様は何故消滅しない……今の時代の人間でそのような者がいるなど、我は聞いた事が無いぞ…』
ゴゴゴゴゴゴ…
大気が震え始める。
次はさっきのとは違う、明らかにやばい攻撃がくる予感がする……それこそ都市が消滅するような核単位の攻撃……
今までお世話になったリアや村のみんなの顔が浮かび、慌てて止めに入る
「ちょっ、ちょっと待ってください。実は僕は他の世界から転生してきて、その時に神様にもらったスキルが、さっき偶然発動してあなたと同じステータスになってしまったんです!!それで多分あなたのスキルの絶対防御のおかげでダメージを食らわなかったんだと思います。」
早口で全て洗いざらい話す、GODスキルの事を話すのは完全に悪手だが、この状況で背に腹は変えられないだろう
普通の人間が聞いたらただの狂言に聞こえるかもしれない。だが目の前にいるのは魔王だ…転生の事を知っていても不思議ではない。それに魔王のスキルである絶対防御の単語も出した………おそらく信用してくれるだろう。
それを聞いて魔王は更に警戒レベルを高める
周りの石や岩が宙に浮き始める
『転生者……ならば貴様は勇者か?それとも新たな魔王か…?』
「いえ、違います!!神様が言うには予定に入っていない転生だからって事で、特になにも指示はされてないんです!!だから僕があなたに敵対する理由はありません!!」
『ふむ、では貴様はこの世界で何を成すつもりだ?』
「えっ?何を成すって、僕は何も成すつもりはありません。僕はただ旅でもして平和で幸せに過ごしていけたらそれで満足ですから。」
一番の目的……童貞卒業の事は言わないでおくが、幸せに過ごすって言葉の中に童貞卒業も含まれてるよね。
しばらく魔王と俺の視線が交差する…
俺の言葉を聞いて目の前の魔王は高まっていた魔力を抑える
揺れていた大地が静まり、宙に浮いていた石や岩が地面へと帰る
『ふ……ふはははは。気に入ったぞ小僧!!これ程の力を持ちながら何も成さないと言うか!!』
魔王は上機嫌そうに笑う
きっと魔王ともなると、相手の邪な考えなど分かるのだろう。
俺には全く敵対心が無いからこその反応だと伺える。
何はともあれ、なんとか危機は脱せたようだ
すると魔王は真剣な表情に戻り言葉を放つ
『では、この場は貴様の言葉に免じて納めよう。だが二つ頼みたい事があるんだが聞いてくれるか?』
「内容によりますかね。無理なことは無理ですし、出来ることは出来ます。」
先程までとはうってかわり魔王はとても話しやすい雰囲気で接してくる。恐らくこれが本来の彼なのだろう…
『うむ。まずは一つ目だが、貴様は覇権には興味がないんだろ?』
「はい。そうです。」
『では我の危機が来た時に力を貸してはくれぬか?我の危機などまずありえ無いことだが、魔族は覇権には貪欲でな。流石の我でも全魔族の半分くらいしか相手に出来ないからな。』
がははは。と笑っているが
この魔王サラっとハンパない事言いやがったぞ……
この魔王の力をコピーした今の俺もその位強いって事か…
自分の手にしてしまった力に改めて身震いする
「はい。僕で出来ることがあるなら手伝いましょう。ですが、出来ることだけしか出来ません。」
出来ることだけしか出来ないと言っておくことで、あくまで選択権はこちらにあり強制は出来ないという事を含ませておく
『そうか。我はそれでかなわん。では二つ目の頼みだが…』
魔王はふとリリムの方を見る
今まで危機迫った状況だったので気づかなかったのだが、リリムは魔王の近くで気を失っていた
後頭部にデカいタンコブが出来ているので、恐らくあのスライムアタックがヒットしたのだろう………ごめんなさい。
俺はスライムをキャッチ出来なかった事を心の中でリリムに謝ると、魔王の方を向き直る
するとちょうど魔王と目が合う
『この子はリリムと言って我が娘なのだがーー
今まで甘やかし過ぎたのか泣き虫でドジで全然強くならない……これはこの子が悪いのではなく我が悪いのだが。。どうだろう貴様がこの子と旅に出てくれんか?』
「えっ?」
『恥ずかしい話なのだが、我はその……子育ての才は無いようでな。我と一緒にいたのではいつまで経ってもこの子は強くなれん。この子にはいずれは魔族を率いていく王になって欲しいのだ。それにはそろそろ親離れも必要だろう。。貴様ほどの強さがあれば何かあったとしても娘を守れる。。それに、我は魔族の王ゆえ内政も疎かにできんのでな。どうだ、頼まれてくれんか?』
自分の親馬鹿を自覚している親馬鹿か……
そうだな、特に目的もないし一人旅よりは二人で旅をした方が楽しめそうだ
それにめっちゃ可愛いし、そのうち恋愛に発展する可能性もあるしな……職権乱用になっちゃうけど、ありえるよね……
パラダイスな妄想をしていると魔王が言葉を投げかける
『貴様、何を想像してる…』
「い、いえいえ。何も想像していません。わかりました僕に任せてください!!娘さんを立派な魔王候補に育ててみせます!!」
『うむ……では頼むぞ。』
「御意!!」
そうこうしているとリリムが目を覚ました。
『ふにゃー、あれ?パンケーキは??』
『何を寝惚けてるんだ』
『あっ、お父様。ってあれー!!なんか木が沢山倒れてる!!スライムは??私今までなにをしてたの??』
『お前はスライムに攻撃されて気絶していたんだ。』
『またダメだったかー。私って本当にドジだな。』
リリムが俯く
すると魔王が俺に目配せをしてからリリムに話しかける
『リリムよ、お前にはほとほと失望したぞ。まさかスライムすら従わせられないとはな。。なので我はお前を見放す事にする。強くなるまではお前の顔も見たくない。お前の世話はそこの男に頼んだ、本当に我に捨てられたくなければ1人前の力をつけて我に見せつけてみよ。』
『えっ…?お父様…??』
魔王は近くにゲートを作り出すとリリムを見ること無くゲートへ向かって歩き出す
そして俺の横を通り過ぎる時に小さな声で『娘を頼むぞ』と言ってゲートに入っていく。
魔王の頬にひとすじの涙が流れていたのを俺は見逃さなかった…
そして次の瞬間、ゲートはその空間から消えていった
リリムを見ると地面を見つめながら抜け殻の様になっていた
そしてしばらくしてからせきを切ったように泣きだすーー
見ていて心が苦しくなる…
俺はリリムを慰めながら不謹慎ながらも心の中でこれからのリリムとのパラダイス生活を妄想していたが
頭の中で『娘に手を出したら殺す』という魔王の声が聞こえて、完全に萎えてしまっていた…
ブックマークや評価をしてくれた読者の皆様のおかげで少しずつですが、ポイントも上がって来ました。そして全ての読者の皆様のおかげ第2章にも入ることが出来ました。本当にありがとうございます!
これからも頑張ります!!
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
評価をしてくださる方は、下にある【ポイント評価】を押して評価していただけると嬉しいです(*´ω`人)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
(2017/11/24)