第15話 童貞、ギルドと魔力測定
1章の前に表紙絵とキャラクターデザインを追加しました。
良かったらそちらもご覧になってください(ㅅ´ ˘ `)
『俺はこの方々にこの街を案内しなければならないので早退する。他のものには体調不良とでも伝えておいてくれ。』
そういうとモトムは、先程蹴飛ばした旅人を列の中から見つけ出し街へ通し。
そして俺達も門を通っていくーー
ーーーーーーーーーーーー
『さあ、ケミ様リリム様、どうぞこちらへ』
街へと入った俺達はモトムの案内で、この街で一番高級な宿へと来ていた。
木造三階建ての立派な洋風建築の宿で、ここは街の宿で唯一シャワーも完備されているらしい。
『ささっ、こちらです。』
モトムに促され宿に入る。
俺が魔王化を見せて以降、モトムは別人の様に紳士な態度になって俺達を案内してくれている。
何しろ命懸けの案内だ。その態度の変化にも納得がいく。
中へ入るとカウンターがあり、一階フロアはBARの様な作りになっていた。
BARでは、上品な雰囲気の冒険者や商人が食事をしている。
モトムがカウンターにいき、受付を済ませる。どうやら現金を持っていない俺達の為に、初日の宿代はモトムが建て替えてくれたようだ。
モトムから鍵を受け取り、鍵に書かれた番号の部屋に入ると、二つのベッドとクローゼット、そしてテーブルとシャワールームが備え付けられていた。
ベッドのシーツは皺一つなく、清潔感が感じられる。
今夜このベッドで寝れるという事を想像すると、少しだけテンションが上がった。
部屋に荷物を置き、道中手に入れた魔石だけ持った俺達が、カウンターに戻るとモトムはテーブル席に座ってお茶を飲んでいた。
俺達が来たのを見たモトムの手が震えて、お茶をこぼしていたのだが、気にしないことにした。
『お、お早かったですね。それでは次はどこへ案内致しましょう?』
モトムが冷静を装いつつ訪ねてくる。
「とりあえずは魔石を現金化したい。それと……」
「武器屋と……もし、ギルドっていうものがあるのなら、そこにも行ってみたいと思っているが、ギルドって場所を知ってるか??」
『リリムはお腹減ったのー。』
ギルドを知っているかモトムにたずねる。
転生系のラノベではギルドは登竜門だ。
もしこの世界にもあるのなら、登録しておきたい。
『ギルドですね。冒険者ギルドでしたらこの街にもあります。それでしたら先にギルドに行って魔石の買取をしてもらいましょう。その後に武器屋に行った方が効率が良いでしょう。案内はこのモトムめにお任せ下さい。』
『リリムはお腹減ったのー。』
リリムが何か言っていたが、無視して俺達はモトムのあとについてギルドへと向かった。
ーーーーーーーーーー
ギルドに向かう最中、リリムが露店で爆買いをしていた。
彼女が露店の食べ物を欲しがる度にモトムが死んだ魚の様な目をしながら支払いをしていた。
初対面の時の印象はだいぶ悪かったが、ここまでしてもらってモトムに対して少しだけ申し訳ない気がしてきたので、後で案内の代金も含めて大目に支払ってあげよう。
俺は静かにそんな事を考えていた。
しばらく歩くと冒険者ギルドが見えてきた。
石造りの二階建ての建物で、外観は、俺達が泊まる宿よりも立派な作りだった。
中へ入ると、テーブルがあちこちにあり、こちらもBARの設備を兼ねている様だ。
依頼内容が書かれた紙が貼られた掲示板と、受付カウンターと買取カウンター、それに飲み屋スペース。ラノベのテンプレの様な施設であった。
どこまでもテンプレだな……
俺は改めてそんな事を考えていた……
さっそく買取カウンターに行こうとした俺をモトムが止めた。
どうやらここの買取所は冒険者ギルドの登録者しか利用できないらしい。
なので先ずは冒険者ギルドに登録すべく、受付カウンターにいく。
『いらっしゃいませ。本日はどの様なご要件でしょうか?』
受付カウンターに行くと受付嬢が笑顔で聞いてくる。
透き通る様な肌をした、綺麗な整った顔立ちの女性だ。
金色の長い髪がキラキラと輝いている。
尖った耳を見る限り、種族はエルフといったところだろう。
胸元の名札には【アイ】と書かれていた。
アイちゃんか……しっかり覚えておこう……。
「冒険者に登録したいのですが、登録はこちらでよろしかったですか?」
俺は鼻の下を伸ばしながらたずねる。
『はい。こちらで大丈夫ですよ。ご登録は…えーっと…3名様でよろしいですか??』
「いや、俺とこの子の二人でお願いします。」
『リリムも冒険者デビューなのー。』
俺の隣でリリムはぴょんぴょん跳ねていた。
俺とリリム以外に、モトムも一緒にカウントしたのだろう。
チラリとモトムの方を見ると、ハッとした顔をして、突然胸に拳を添えて膝まづきだした。
主と従者の関係性を伝える為の行動だとは思うのだが恥ずかしいから正直やめて欲しい。
他の冒険者もチラホラこちらを見ていた。
『はい。わかりました。登録には試験があるのですが、本日受けていかれますか?』
「えっ!?試験があるんですか??それって落ちたりもするって事ですかね…?」
俺は不安そうにたずねる。
『いいえ、安心してください。落ちたりする事はありません。
ですが、冒険者になる方の安全と、依頼の効率化の為に、初めの適正なランクを決める目的で試験が設けられております。』
「あ、はい!よかった、安心しました。それじゃあ今からでお願いします。」
『かしこまりました。それではまずは魔力の測定を開始しますのでこちらの部屋へどうぞ。』
魔力を測定される前にGODスキルがOFFになっている事を確認しておく……
スキルがバレると何かと面倒だ…
アイちゃんに案内され、カウンター脇のドアに入る。
するとそこは六畳程の狭い部屋になっていた。
部屋には書類棚と二つのテーブル。
テーブルにはそれぞれ、水晶玉と紙が置かれていた。
『それでは先ずはこちらに座って書類に手を当ててください。』
彼女に言われるままに俺達は紙に手を当てる。
すると紙が光だし、紙にインクで書いた様な数字が浮かび上がる。
俺の方の紙にはMP17500という文字とM1750という文字が、リリムの方にはMP330とM280と書かれていた。
その数字を見たアイちゃんが驚いた様子で何やら言っている
『うそ……こんな、ありえない……でも…』
何やら混乱した様子だ。
そして…
『しょ、少々お待ちいただけますか?』
そういうとアイちゃんは部屋を出ていった。
ーーーーーーーーーー
しばらくしてアイちゃんと一緒に部屋に入ってきたのは、筋骨隆々で熊のようなガタイをした30代半ばの髭面の男性だった。
その男性が何やら、何度も紙を色々な方向から見て唸っていた。
『うーん。魔調紙の不具合ではなさそうだな。この少女の魔力も尋常ではないが、もう一つの方はそんなレベルでは……、おいボウズ、すまないがもう一度測ってみてくれ。』
そういうと男は俺に新しい紙をもう一枚渡し、もう一度手を置くように促した。
それに従い俺は紙に手を置く。
すると紙には先程と同じ数字が浮かび上がった。
『やはりか……』
男は何かを確信したように頷き俺に質問する。
『ボウズ、お前の職業を教えてくれないか?大賢者……いや、もしかして……勇者か?』
真剣な面持ちで俺にたずねてくる。
「いや、普通に魔法使いですけど…」
俺は正直に答える。
すると……
『なにっ!?魔法使いだと??嘘をつくな。これ程の魔力、神話や伝承等でしか聞いたことがないぞ。』
「いや、そう言われても…本当に魔法使いですし。」
男は明らかに疑った目でこちらを見てくる。
『まあ、職業の事はわかった。魔法使いと言うのなら、今はそういう事にしておこう。だが、これ程の魔力の持ち主が現れた以上、王に報告しなければならない。その時にはどうか本当の事を言ってくれよ……』
今度は心配そうな顔をしながら俺に言ってきたが、俺は嘘はついていないので、無言でスルーする。
『まず、魔力の件はわかった。それじゃあ次にこちらの水晶に手を置いてくれ。そうだな、まずはそちらの女の子の方から頼む。』
『ほいほいー。』
そういうとリリムは水晶に手を置く。
すると水晶が青く光り出す。
『水属性か、それにこの魔力量ならギルドとしても助かる。即戦力で戦えるだろう。』
『とーぜんなの。』
リリムはへへんと胸を張って威張ったポーズをとる。
『次はそっちのボウズ、お前も頼む。』
俺はリリムと同じように水晶に手を置く。
すると……
水晶は全く反応しなかった。
『『えっ?』』
髭面とアイちゃんの驚いた声がハモる。
『どうした?壊れたのか??』
男は慌てたように水晶を調べる…が異常は見つからない。
そんな男に俺は静かに語りかける。
「そうなんです……、俺、魔法使いなんですけど、魔法を何も持っていないんです……」
その場の空気が凍りつき、その場を静寂が支配する
『そ、そんな…』
初めに静寂を打ち破ったのは髭面の男だ。
『なんて可哀想なの…』
アイちゃんも俺に同情した様な顔をしている。
今にも泣きそうな顔だ。
「はは…そうなりますよね…」
『やー、ケミは弱いのー。』
俺は乾いた笑い声をあげる。
ーーーーーーーーーーーー
本来、試験は魔力測定と物理戦闘試験があるらしいのだが、今回は色々と想定外な事が起こったせいで、物理戦闘試験は後日に延期となった。
ギルド登録もできなかった俺達は、魔石の現金化もできずにとぼとぼと宿に戻った。
道中、俺の事を心配したモトムが色々と俺を励ましてくれていたのが嬉しかった。
宿についた俺達は宿の前でモトムと別れた。
『それでは、ケミ様リリム様、また明日のお昼にお迎えに上がります。』
モトムは明日も迎えに来てくれる様だ。
アイツとは色々あったが、本当に良い奴だな。
その後、リリムは一階フロアで山の様な食事をとっていた。
会計が後でモトムにいくとは知らないのだろう。
そして、その頃俺は部屋のベッドで布団にくるまり泣いていたのだが、一つのアイデアが浮かんだ。
そうだ、GODスキルを使おうーーー