第一幕 白いだるま
〈桐崎一二三〉
35歳。階級は巡査部長。捜査一課所属。身長は180cm。いつも気だるげな表情であり、やる気はなさそうなのだが…?
〈司馬零司〉
21歳。階級は巡査。捜査一課所属。身長は168cm。女の子のような顔立ちの美少年。一二三のバディ。
階段を上り、重い扉を開ける。
都会ならではのビル群に囲まれているせいか屋上だというのに開放感はなく、少しばかりの息苦しさを感じるほどだ。
時刻は17時を回り、夕日がビルを赤く照らす。ほとんどの会社が定時なのだろう、退社したサラリーマンが都会の喧騒へと加わっていく。
「最後の一本か」
本数が減るにつれ、この一箱で禁煙しようと固く心に決める。しかし、そんな決意も日々のストレスとニコチンとの強力タッグには勝てないらしく、未だにやめられずにいる。
「桐崎さんっ」
ふと後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。が、ニコチン摂取という至福の時を邪魔されたくなく返事はしない。
「桐崎さん? あぁ、いたいた! もう、居るなら返事してくださいよー」
「俺は今、電源オフなんだ」
「勤務時間中に勝手に電源切らないでください! ほら、行きますよ。また例の事件です」
「はいはい、分かったよ。レイ」
そう言うと俺はレイの頭を撫でてやった。
「あぅ……はっ! またそうやって子供扱いする! それからレイって呼ぶのはやめてくださいって何度も言ってるじゃないですか」
むくれてはいるが満更でもない様子だ。
「俺からしたらまだまだガキだよ。それに、レイってほうがお前にはしっくりくる」
本名は司馬零司。年齢は21歳。もちろん、性別は男であり名前からは勇ましさが溢れているが、当の本人は全くの別物だ。
目はクリクリと大きく、鼻筋は綺麗に通り、顔も小さい。肌は透き通るように白く、さらりとした黒髪とのコントラストをなしている。身長は170cmほどで、手足は細い。
外見だけならまだしも、変声期を迎えなかったのか声も高い。そのせいか、配属当初は捜査一課に美少女がいるとの噂が絶えなかったまでである。
そんな境遇で生きてきたせいだろう。彼は女性と間違われることが非常に嫌いらしく、女性扱いしてくる同僚に対しては敵意剥き出しで毒づくこともしばしばだ。
「もう……。桐崎さんはいつもそうなんだから」
「っと、事件だったな。急ぐぞ」
「はい!」
備え付けの灰皿へとタバコを突っ込み、俺たちは現場へと急いだのだった。
現場に着いた頃にはすでに日は落ち、辺りはライトが照らされていた。場所は新宿駅周りの繁華街、そこを少し入った裏路地がそのようだ。
立ち入り禁止テープをくぐると恰幅のいいボウズ頭の男が鑑識のテントから出てくるのが見えた。男はこちらに気づき、早く来いとのジェスチャーをした。
「遅いぞ、ゼロイチコンビ」
「うぃっす」
「うぅ、主任、ごめんなさい。もう、桐崎さんのせいで怒られちゃったじゃないですかぁ」
「牧原さんが早すぎるんだよ」
と、レイに耳打ちする。
「聞こえてるぞ」
「相変わらず地獄耳っすね、牧原さんは」
牧原茂。捜査一課の主任で俺らの直属の上司である。身長は180cmほどで俺とそう変わらないはずなのだが、何せそのガタイが良すぎるため実際の身長よりもかなり大きく見える。
ちなみに、『ゼロイチコンビ』というのは、俺の名前である『桐崎一二三』の『イチ』と『司馬零司』の『ゼロ』を取って付けた名前らしい。なんともネーミングセンスに欠ける名前であるのだが牧原さんが付けたものだから強く否定できずにいる。
「それで、仏さんは?」
「被害者は今回も女性だ。いつにも増して随分と酷い現場だったな。そこの美少女が吐いたら介抱してやれよ」
「だとよ、レイ」
それを聞いてレイは身を強張らせる。普段ならば女扱いされたことに対し、毒づくはずだがそんな余裕もなくなってしまったようだ。
「き、桐崎さん。僕、外で待ってちゃダメですか?」
「そんなことしてたらいつまで経っても慣れないぞ。中で手を合わせるだけでもいいから見ておけ」
「……はい」
レイはすっかり気を落としてしまったが、捜査一課の刑事である以上は殺人の現場と隣あわせだ。慣れていかなければならない。お決まりのゴム手袋をつけ、テントに入ると予想をはるかに超えた景色が広がっていた。
遺体には化粧が施され、ウェディングドレスが着せられている。おそらく元は白かったのだろうが、ドレスは遺体の血により赤黒く変色している。何より、俺たちを驚愕させたのはその遺体に四肢がないことであった。遺体のそばには白い花とともに綺麗に並べられた四肢からそれが切断されたのだと分かった。
遺体に近寄り手を合わせる。そこでレイは限界だったのかテントの外へと駆けて行った。それを横目に俺は引き続き遺体の状況を確認する。切断以外の目立った外傷はなく、その切断面も綺麗である。おそらく毒殺などされた後に切断されたのだろう。しかし、それ以外に何も特別変わった点はなく、ゆっくりとテントを出た。見るとレイが青ざめた顔で待っていた。
「大丈夫か?」
「はい、何とか吐かずに済みました。あんな酷い遺体…。桐崎さんは何ともないんですか?」
「まぁ、確かに驚きはしたけどな。それより、きっとこの後は捜査会議だ。飯食う時間も無くなるだろうから、飯食ってすぐ本部に戻るぞ」
「あれ見た後に食欲なんて湧かないですよぉ」
「食っとかねぇと動けなくなるぞ。ほら、早く乗れ」
「えぇ〜……」
俺たちは車へと乗り込むと、現場を後にしたのだった。
第一幕、お読みいただき誠にありがとうございます。駄文ではありますが少しでも皆様を楽しませることができたのなら幸いです。
さて、早速、私ごとではありますが、レイちゃんがお気に入りです。作者権限で性転換させることも視野に入れて執筆しています。、、、はい。冗談です。
これからも投稿していきますので何卒応援のほどよろしくお願いいたします。