ラーメン屋の強面店主・テツさんのスイート☆ポエム集
駅にほど近い通りに、一件の古くて小さい建物がある。せまい店内、ごった返す客、活気のある厨房。知る人ぞ知る名店「ラーメン猫松」だ。その中にひと際目立つ人物がいた。頭を白いタオルで締め、店のロゴが入った黒いぴちぴちのTシャツ、使用感のあるエプロン、年季の入った白いゴム長を身に纏う、巨漢。身長184センチ、体重93キロ。鋭い目つきと太く濃いまゆ毛は、威厳を。大きな鼻と厚い唇は、野性味を醸し出す。だいぶ男くさい風貌であるこの人は、テツさん。42歳独身。大きな体をキビキビと動かし、とびきり美味いラーメンを作る、この「ラーメン猫松」の店長である。無口なテツさんには、ちょっとした秘密がある。
とある小説投稿サイトでの活動だ。
ユーザーネームは「フェアリー☆エーデルワイス」。主な投稿作品は、ポエム。
テツさんはいつでもネタを探している。仕事中も例外ではない。なにかしら閃きが出るたびに、心のメモ帳に刻み込む。
*
「店長、ちょっと今月売り上げが落ちてんすよね。やっぱり最近できたライバル店のせいすかね」
どんなにツラいことがあっても
あたしは倒れない
泥だらけでも、傷だらけでも
そこに道があるかぎり
一歩づつ、進んでいく
*
「店長! 今日の仕込み分のチャーシュー、いい感じです!」
今日、とてもいいことがあったんだ
このあったかい気持ちを取り出して
宝石箱にしまえればいいのに
*
「え!? 店長むかしアパレル系にいたんすか。しかも営業! 全然想像つかねえっす」
あの頃のあたしがバカしたから
今のあたしがある
失敗するのも、悪くない
*
「今日も一日、よろしくお願いしまぁーす!」
最高のメンバーで
最高のステージで
最高のプレーを!!
*
「もう、店長は顔怖いんすから、お客さん来た時は笑った方が良いっすよ!」
笑え! どんなにつらくても
笑え! どんなに嘘くさくても
それがいつか本物になるまで
*
「いらっしゃいませぇ! 二名様カウンター席へご案内でぇす! 」
あたしは今日も「おいしい」を届ける
あなたの笑顔が見たいから
*
「オーダー入ります! ラーメン2と半チャン1、ギョーザ1、お願いしまぁす!」
秘訣はなに? とよく聞かれるけども
「おいしくなあれ☆」
これの魔法のことばが一番かも
……なんてね♪
*
「店長、掃除なんてアルバイトに任せていいのに。ったく、おーい青木君! 手空いてるならちょっとこっち手伝ってくんねぇ?」
使った道具にひとつづつ「おつかれさま」って言ってくの
そしたらきっと、明日も頑張ってくれる
いつもあたしを支えてくれる、大事な仲間達
*
「——ほーい、お疲れさまぁ。……なに店長、バイト君達から怖がられてんのまだ気にしてんすか?」
こんなに近くにいるのに
とっても遠い
あなたとの距離が
いつか、縮まります様に
◇
テツさんは今日も今日とてお店を回す。副店長で良き相談役の、やっさん。アルバイトの青木君と小松君。そして看板娘のハナさん(五六歳・パート)と共に。ラーメンラーメン、ポエムポエム。テツさん今夜も一人でひっそりポエムを投稿していく。
だれが読むのかそのポエム。
だれ得なのかそのポエム。
だけど、まあよいではないか。テツさんそこそこ楽しんでいる。人の趣味など多種多様。「楽しい」に優劣などありゃしない。楽しんだ者勝ち、やったもん勝ちとはこのことだ。
ネタを探して、せわしく店内、東へ西へ。
強面テツさん、今日も気ままにポエムライフ。
※本作で出てくるユーザーネームは架空のものです。もし同名の作家さんがいらっしゃっても、なんの関係もありません。念のため(キリッ)