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第5話 それでも現実(テスト)はやってくる

 遥の家を訪れ、いろいろあった日曜日から一週間後の月曜日。私たち春夏秋冬学園の生徒達はテスト3日前を迎え、阿鼻叫喚を上げる者も少なからずいた。ファンタジーの世界から一気に現実に引き戻された感じだ。


「ねぇ、遥。私思うんだけどさ…」


「あ?」


「テストって、授業の積み重ねでしょ?だったら、今更焦ることも無いんじゃない?」


「とりあえず全国の勉強できない高校生に謝れ」


「えぇー?」


 とりあえず私は心の中で全国の勉強できない高校生達に謝る。そもそも私は今までテスト勉強というものをまともにしたことがない。テスト前は授業で教えられたことを思い出すだけで済ませている。いつだったか、友人から「愛奈って、何で勉強しないのにそんなに取れるの?」と聞かれたこともあった。そんなことを聞かれても苦笑いで答えるしかできないのだが。


「なぁ愛奈。何でお前そんなに点取れるんだよ?」


 しかし、それも『親しい女子』に対する応答であって、『親しい男子』から聞かれた時、私はこう返すのだ。


「うーん…。実力、かな?」


「ざけんな!」


「まあまあ落ち着いて。遥だって毎朝早く来て勉強してるんだから、そこまで悪い点じゃないでしょ?」


「まあな。でも、気を抜いたら成績も維持できないだろ?」


「そう言うもんかな~?」


「お前は特別なんだよ」


 ふと、私は時計を見る。すると、針は昼休みがもうすぐ終わることを示していた。


「ほら、遥!次移動だよ!急げ急げー!」


 背後から遥の非難の声が聞こえたが、私は急いで家庭科室に駆けていった。


 その日の帰り、私と遥と美波の3人はテストのことについて話していた。


「2人共テストは大丈夫~?」


 にやにやしながら聞いてくる美波に遥はぶっきらぼうに返す。


「愛奈は問題ないだろうが…。そう言う美波は大丈夫なのかよ?」


「あたしは高校生活自体が2周目だからね。強くてニューゲームみたいなものだよ」


「ってことは、危機感持ってるのは俺だけかよ…」


 うなだれる遥を見て笑う美波は、私の方を向いて話す。


「愛奈はどうしてそんなに天才ちゃんなのかな?慎君の頭脳を受け継いだのかな?」


「あはは…。お父さんってそんなに頭良かったんですか?」


「そりゃあもう。あ、でも美愛ちゃんは普通だったよ」


「そうなんですか。あ、そうだ。お父さんとお母さんがなんで結婚したか、経緯とか教えてくださいよ!」


「そうだな…。あ、敬語はやめてね?一応同級生だし」


「あ、すいません…っあ!」


 つい敬語で謝ってしまった私に、美波は笑って返す。


「ふふっ。まあ、そこは追々ってことで。うーん、慎君と美愛ちゃんかー。あたしが春夏秋冬学園に転校してきたときにはもう付き合ってたから、人から聞いた話なんだけど…」


 そう前置きしてから美波は話し始めた。


「慎君は入学したその日、交通事故で入院していた楓ちゃんから能力(モチーフ)…〈伊邪那岐(イザナギ)〉をもらうの。で、一週間何もないまま過ぎて安心していた頃、オリンポスっていう、雷道…遥のお父さんが率いてた能力者の組織のメンバーに操られていた美愛ちゃんに襲われた」


「え!?お母さんがお父さんを…?」


 初めて聞く話に私は驚きを隠せない。


「うん。で、雷道から〈伊邪那美(イザナミ)〉の能力を与えられていた美愛ちゃんをなんやかんや頑張って倒し、洗脳を解いたんだけど、裏切ったって思ってた慎君は美愛ちゃんをもう友達じゃないって言っちゃってさー。で、美愛が泣きながら誤解を解いた結果、友達ではなく恋人になったとかなんとか…」


「何ですか、そのバトルマンガでライバルが主人公の仲間になるときみたいなのは…?」


「あたしも聞いた話だからホントはどうだったか知らないけど…、慎君、この話してくれなくてさ~。真相は闇の中なんだよね~」


「話したがらないって、何があったんでしょうね?」


 きっと、大変なことがあったのは間違いないが、本人達が話してくれない以上、私たちには知る由もない。


「まあ、そのうち話してくれるよ。じゃあ、あたしはここで。じゃあまた明日ね~!」


「うん。また明日」


「じゃあな」


 その後、2人っきりになった私たちは、さっきの話について話した。


「なあ、愛奈。あれがホントなら、うちの父さんが悪いことしちまったな」


「遥?別に気にしなくてもいいってば。もう20年以上も前のことだし」


「そりゃそうだけど、なんか俺の気が済まなくてさ。だから…ごめん」


「分かった分かった!もういいって!明明後日からテストなんだから、気持ち切り替えないと!」


「そうだった…。どうしよ俺」


「なんだったらさ、明日と明後日の放課後、ウチで一緒に勉強しない?私も教えられるとこは教えるし」


「マジで?」


「うん。マジで。人に教えれば自分の力にもなるし」


「おう!愛奈と勉強…。愛奈と…勉強かぁ…」


「じゃあ明日、美波も誘っておくね」


 その瞬間、やたらと1人で盛り上がっていた遥のテンションがいきなり下がる。


「そうか。そうだよな。…美波も来るんだよな」


「えっ?えっ?何?なんか私悪いこと言った?」


「いや、愛奈は悪くない。何でもない。何でもないんだ。悪いのは俺の下心にまみれた心なんだ」


 暗い表情で下を向き、何やらブツブツ言っている遥はどうみても大丈夫には見えなかった。


「は、遥どうしたの?」


「じゃあな愛奈。明日からもよろしく頼む」


 私が心配して尋ねると、遥は急に賢者のような顔つきでそう言って帰っていった。


「う、うん。よろしく…。じゃあね。…変な遥」


 翌日の放課後、私たちは約束した通り私の家に集まり勉強を始めた。


「じゃあ質問とかあったら答えるから、遠慮なく言ってね?」


「おう。じゃあ早速なんだけど…」


 勉強会は遥が質問して私と美波が答えるといった感じになった。2周目の美波はもちろん、いつもほぼ満点の私は付きっきりで遥に勉強を教えた。遥は成績が悪い訳ではないので吸収も早く、2日間でかなりいい状態に仕上がったと思う。なんか、子を育てる親の気分が分かった気がする。そして、ついに中間テスト当日を迎えた。


「なんかやりきったー!って感じだな」


「大袈裟だなあ。でも遥?本番は今日なんだから、勉強会の疲れで失速しないようにね?」


「大丈夫だって。2人のおかげでかなり力ついたからな。教え方、すげー分かりやすかったし」


「ま、伊達に2周目やってないよ」


「中学の頃も人に教えること多かったからね~」


「うっし!じゃあ本番がんばろーぜ!」


「「おー!!」」


 そしてテスト後…。


「いやあ~。こんなに自信持ってテストを終えられたのは初めてだ!」


「私もいつも通り、かな。美波はどうだった?」


「一度やった内容だったし余裕かな」


「じゃあ、テスト終わったし何か食べに行こうぜ!」


「私はさんせーい。美波は?」


「あたしも賛成。どこ行く?」


「それなら駅前のファミレスでどう?」


「うん。じゃあそこで、って…うわぁ!?」


 3人以外の声が聞こえ、驚いてそっちを見ると…。


「ちなみに割り勘でね?」


「莉乃!いつからいたの?」


 風に揺れる茶髪のツインテールの少女、莉乃は私と遥の間ににやっとした顔で立っていた。


「通りかかったときに話が聞こえたからつい…。で、食べに行くんでしょ?私も連れてってよ~!」


「え、なんで?」


「ひどっ!最近私出番無かったんだし、ここを逃したら私忘れられちゃうかもしれないんだよ!」


「大丈夫だって。私たちは忘れたりしないよ」


「愛奈達は忘れないだろうけど…」


 最後の方は何を言ったか聞き取れなかったが、私たち以外に誰から忘れられるのを恐れてるのだろう。


「そんなことより、早く行こ?時間無くなっちゃうよ?」


「そうだな。腹も減ったし…」


 私たちはさっきからブツブツと読者がどうとか呟いている莉乃を引きずって駅前に向かった。


 ファミレスに着くと、放課後の時間帯ということもあり、店内は学生が大半をしめていた。


「混んでるな~」


「テスト後ってこともあるし、ウチの制服が多いね」


「とりあえず、さっさと座って注文しちゃおっか」


 私たちは店員さんに人数を告げ、案内された席に着く。


「じゃあ私は…ハンバーグかな」


「決めるのが早いね、莉乃は」


「ハンバーグって無難かなって思っただけ。愛奈は何食べるの?」


「うーん、そうだな…。私は…エビグラタンで」


「グ、グラタン!?まだ春なのにか?」


「何、遥?文句あるの?」


「いや、別にそういうんじゃないが…。でも、寒くもないのによくグラタンなんて食べれるな」


「何よ~?別にいいでしょ?だって、好きなんだもん!」


「分かった、分かったから。ち、近い!顔近いって!」


「あ、ご…ごめんっ」


「そこ、イチャイチャしない!みんな決まったみたいだし頼んじゃうよ?」


「「イチャイチャなんてしてない!」」


「はいはい。…スイマセーン、注文いいですか~?」


 莉乃は店員さんを呼んで注文を済ませた。美波の食べる量にも驚いたが、本人は「あたしは食べても太りにくい体質だから~」と言っていた。その横で莉乃が悔しがっていたのは、まあ、そっとしておこう。しばらく経って料理が運ばれてくる。


「さて、じゃあ中間テストお疲れ様ってことで…、かんぱーい!」


 莉乃の合図で私たちは水の入ったグラスを合わせ、各々の頼んだものを食べ始める。


「さっきの話の続きなんだけどさー」


 と、いきなり莉乃が話し始める。さっきの話というのは、イチャイチャしてるだの何だのという話だろう。


「愛奈と遥くん、アンタたち、端から見たらどうみても付き合ってるようにしか見えないよ?」


 遥がブーッ!と勢いよく口に含んでいた水を吹き出す。テーブルを拭きながら私は莉乃に反論した。


「それは莉乃から見たらって話じゃないの?普通の友達にしか見えないと思うけど…」


「え?あたしも付き合ってるようにしかみえないけど?」


「えっ?美波も!?」


 まさか美波までそう思っていたなんて…。私は顔を赤くしながら遥の方を見やる。


「な、何だよ…」


「あ、いや。遥はどう思ってるのかな~、と」


「どうもこうも…、俺とお前じゃ釣り合わないだろ」


「そう?…私はまんざらでもないんだけどな~」


「はぁ!?…え、えーとだな。こんな不良みたいな見た目の俺と、勉強もできて性格もいい完璧美少女のお前じゃ釣り合わないだろって言ってんだよ」


「へえ~。遥って、私のこと美少女って思ってくれてたんだ~」


「なっ…!いっ、一般論だよ。一般論!」


「ふぅ~ん。でも、さっき顔を近づけたときドキドキしたでしょ?」


「ぐっ…。ま、まあ否定はしないが」


「うむ!正直で大変よろしい!つまり、遥は私のことが好きってことでいいのかな?」


「は、はぁ!?なんでそんなことに…」


 明らかに動揺する遥は、見ていてとてもおもしろいモノだった。


「私は遥のこと嫌いじゃないけどな~」


「な、何故に!?」


「だって遥、私を家まで送ってくれたし、優しいの知ってるもん」


「それは…その、男子として当然のことをしたというか…」


「でも、そういうのが普通にできるのがスゴいと思うよ?」


「だから…」


「あ~もう、うるさ~い!」


「り、莉乃?」


「アンタ達、もう付き合っちゃえばいいじゃない!そんでもって私たちを置いてけぼりにしてリア充やってればいいじゃないのぉ!」


「お、落ち着いてよ莉乃…。気持ちは分かるけど…」


 そう言って美波がなだめるが、莉乃は止まらない。


「美波ちゃんは悔しくないの!?こんな目の前でイチャイチャイチャイチャ…」


「気持ちは分かるって言ってるでしょ?ここはファミレスなんだから、落ち着いてってば…」


「これが落ち着いていられるかぁー!」


「ちょっ、美波~!…こんな調子だし、今日は帰ろっか。みんなも食べ終わってるみたいだし」


「う、うん。そうしようか」


「おう。会計は俺が済ませとくよ」


「奢ってくれるの?」


「まあ、女子に払わせるのは男としてのプライドが許さないからな」


「ありがと。…そういうとこがいいんだけどな」


「何か言ったか?」


「いや、何でもないよ。で、莉乃なんだけど、美波に任せちゃっていいかな?」


「うん。任せといて」


「じゃあ、今日は解散だ。また明日な」


「あ。遥、待って。私も一緒に帰るっ」


「暗いし、そうするか。ほら、足元気をつけろよ」


「うん。じゃあね、美波。莉乃をよろしく」


「うん、じゃあね。また明日」


 会計を済ませた遥と外に出て家まで帰るまで、恥ずかしさと気まずさもあってほとんど話さなかった。


 その夜は、シャワーを浴びるときも宿題をやるときもベッドに入ったときも遥のことが頭から離れなかった。明日はどんな顔をして遥に会えばいいのか…。


続く

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