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第3話 美波と琳音

 日曜日、遥の家に来た私たちはその大きさに圧倒された。


「うわー、おっきいね…」


「さすが神崎家…」


 美波はそうは言うものの、私と比べてあまり驚いてないように見えた。


「よっ、愛奈、美波。よく来たな。あとは…」


 遥は美波の横に立つ女の人を見る。


「あ、私は美波の保護者の篠宮夏希です。美波が来てほしいといったので…」


「夏希が保護者か…」


「何、美愛。私に保護者なんて似合わないってこと?」


「そうじゃないよ。これで大体、王林さんのことが分かったってこと」


「分かりました。あとは、東雲先生の奥さんと…あれ?東雲先生は?」


「お父さんなら、あとで来るって」


「そっか。それではみなさん、中へどうぞ」


 遥に案内され廊下を歩いてるとき、私は遥に話しかけた。


「遥って、学校以外ではちゃんとしてるんだね。…その、言葉遣いとかさ」


「あ?こんな大きい家に住んでて、その辺ダメだったらカッコ悪いだろ?」


「じゃあ、その辺しっかりしてるのがカッコいいの?」


「さあな。一般教養だし、出来ないよりはマシだろ」


「へー、遥でも一般教養なんて言葉使うんだ。金髪でひねくれ気味なのに」


「この髪は地毛だっての。あと性格は関係ないだろ」


「へえ、地毛だったんだー」


「始業式の日も言ったはずだぞ」


「そうだっけ?」


「お前は頭いいのに、なんでそういうことは忘れてるんだよ…」


 そんなことを話してるうちに、私たちは大きな扉の前に着いた。


「父さん、母さん、入るぞ」


 そう言って遥がドアを開けるとそこは私の家の軽く三倍はあろうかという広いリビングで、ソファーには2人の男女が座っていた。


「みんなよく来たな。知っているだろうが、校長の神崎雷道だ」


「いらっしゃい。遥の母の神崎佳奈です」


「佳奈ちゃん、久しぶり。雷道さんとは時々会うけど」


「うん。久しぶり、美愛姉。琳音のお葬式以来だね」


「佳奈ちゃん?美愛姉?」


 私は2人が親しそうに話しているのを見て、疑問を浮かべた。


「あ、佳奈ちゃんはシンの親戚でね。ボクやシンとは小さい時からの付き合いなの」


「そういうこと。美愛姉、ボクっ娘は治ってないみたいだね」


「まあ、これもボクのアイデンティティだし」


「へえー。お父さんとお母さんの幼なじみってことか…。ってあれ!?じゃあ、私と遥って親戚なの!?」


「まあ、そういうことになるな。俺も驚いているが」


「さてと、本題に入ろう?ねえ美波、私たちに美波のことを話してくれるんだよね?」


「うん。あたしのことはちゃんと話すよ。でも、その前に教えておきたいことがあるの」


「教えておきたいこと?」


「うん。愛奈、あなたが楓さんからもらった特殊能力…『モチーフ』について」


「叔母さんからもらったって…、もしかして『おまじない』のこと!?」


「『能力(モチーフ)』!?じゃあ、愛奈も能力者(モチーフホルダー)ってこと?」


「モチーフ…ホルダー?私『も』ってことはお母さんも何か能力とか持ってるの?」


「えっと、それはね…?」


「待て。俺が説明しよう」


 そう言って校長先生は『モチーフ』と呼ばれる特殊能力のことについて話し始めた。


「『モチーフ』というのは、神話の神々や英雄、天使や悪魔、さらにタロットのような事物の名を持った特殊能力だ。その能力を扱う者は能力者…『モチーフホルダー』と呼ばれる。『モチーフホルダー』には2通りある。自らの力のみで能力者となった『自己覚醒型』と他人の能力によって能力者となった『付与覚醒型』だ。東雲愛奈、お前は楓のもつ〈ヘラ〉の能力で能力を与えられ能力者となった、『付与覚醒型』のモチーフホルダーだ」


「私が特殊能力者…」


 あの時のおまじないはそういうことだったのか。


「ここにいる人間で、遥は能力者じゃないが…、王林、お前も能力者だと考えていいのか?」


「うーん。そこは、ご想像にお任せします」


 校長先生の問いに、美波は苦笑いで答える。


「まあいい。お前も能力者として考えると…遥。お前だけ能力者でないことになる」


「まあ、そうなるね。で?父さんは俺に能力をくれるのか?」


「そう急かすな。とりあえず能力を見てほしいんだが…。四条、お前の能力なら分かりやすいだろう?」


「えー?ボク、もう殺したくないんだけど。あと、もう四条じゃないし」


「以前の呼び名が染み着いてるんだ。あまり気にするな。文句はいいから、篠宮を相手にやってみろ」


「ええ?私~?」


「篠宮も文句言うな」


「でも、雷道さんの能力のほうが分かりやすいでしょ?」


「四条の能力の方が見ていておもしろい」


「おもしろいって、あのね…。ああ、もう!分かったよ!ボクがやればいいんでしょ!?」


「ええ!?ホントにやるの~!?」


「しょうがないでしょ。ほら夏希、じっとしてて!」


「はーい」


「行くよ。『黄泉送り』!」


 お母さんが夏希さんに触れると、夏希さんの身体がビクッと痙攣して、ぐったりして動かなくなった。


「ふむ。どうやらうまくいったみたいだな」


「ちょっ、これ、どうなってるんですか!?」


「ああ。夏希さん、死んでるように見えるけど」


「『見える』じゃない。本当に死んでるんだよ」


 私と遥の言葉に校長先生は落ち着いた口調で答える。


「大丈夫だよ2人とも。心配しなくていいから」


「な、なんで美波もそんなに落ち着いてるの!?」


「あのね、愛奈。ボクの能力は〈伊邪那美(イザナミ)〉。触れた相手の生死を操ることができるんだよ」


「ふぇ…?生死を…操る?」


「うん。だからこうすれば…『黄泉返り』!」


 再びお母さんが夏希さんに触れると、またビクッと痙攣して、夏希さんは目を覚ました。


「あれ?終わった?」


「うん。夏希お疲れ」


「ほ、本当に生き返った…」


「…とまあ、これが『モチーフ』の一例だ。あと、『モチーフホルダー』の中には2つ以上能力を持った者もいる。性別が変わることで能力を使い分けていたやつもいたな。…こんな感じで説明は終わりだ」


「ありがとうございました。あとは東雲先生が来たら私のことを話すんですけど…」


「おっと、ちょうど来たみたいだぞ」


 校長先生がそう言うと、ドアからお父さんが入ってきた。


「邪魔するぞ、雷道」


「俺は学園以外で貴様の顔など見たくはなかったがな」


「僕だってお前の家なんか来たくなかったんだけどな、そこの王林が来てほしいって言ったから来たんだ」


「家主の俺はお前を呼んではいないがな」


「黙れ、この成金野郎が」


「貴様こそ、黙らせてやろうか?」


 お父さんと校長先生の口喧嘩がヒートアップするのにつれて2人の周りには雷のようなモノがちらつき始めた。


「あ、あの、これは…?」


「シンのモチーフ、〈伊邪那岐(イザナギ)〉と雷道さんのモチーフ、〈ゼウス〉は雷を操る能力なんだよ」


「そうじゃなくて!なんでいきなり喧嘩してるの!?」


「2人は学生のときから仲悪いんだよ。殺し合った仲だしね…」


「殺し合った!?」


 そんなことを話しているうちに2人の纏う雷はどんどん激しさを増していく。


「いいだろう。今ここで貴様を消し飛ばしてやる」


「その台詞、そっくりそのままお返しするよ!」


「おい!ど、どうするんだよ!?ウチも消し飛ぶぞ!」


 遥が慌てて言うと、美波は正反対の落ち着いた口調で言った。


「しょうがないな~、2人は。ねえ、夏希。…いい?」


「そうだね、いいよ。あなたが止めればおとなしくなるだろうし」


「うん」


 美波はそう返すと、深呼吸をしてこう言った。


「ふぅー、〈ネメシス〉。2人の影を支配して、能力の発動を止めて」


「うぐっ?」


「くっ…動けない…!これは…」


 その瞬間、お父さんと校長先生は動きを止め、纏っていた雷も収まった。


「お、王林、その能力…お前…」


 美波は微笑みながらメガネを取り、サイドテールの髪を解いた。


「ふふっ。慎君、神崎先輩。落ち着いた?」


「貴様…まさか、南雲…琳音?」


「うん。久しぶり」


「でも、琳音、お前、一昨年死んだんじゃ…」


「うん。死んだよ。トラックにはねられてね」


「じゃあ…なんで?」


「えっとそれはね…」


「その前に、琳音?」


「え?何、夏希?」


「2人の影を元に戻してあげたら?」


「あ、そうだった。ごめんごめん!」


 身体が自由になり、お父さんは驚いたような口調で美波…いや、琳音さんに話しかける。


「琳音。お前、本当に琳音なんだよな…?」


「琳音ちゃん?琳音ちゃん…もう会えないと思った…」


 お父さんにつられてお母さんも泣きそうな顔になって震える声で話す。


「うん。本物だよ。本物の、南雲琳音だよ。みんな、ただいま…っ!」


続く

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