第1話 謎の転校生とその正体
始業式の次の日、私は今日も少し早めに登校した。それにしても、昨日の夜は大変だった。お父さんに彼氏ができたのか!?とか、家に連れてこい!とか問い詰められて。それだけ私のことを心配してくれているのはありがたいけど。
「さてと、今日も遥は…いた。あれ?なんかもう1人…」
「ねえねえ、東雲慎先生ってどこにいるかな?職員室にいなかったから…」
「さっきから言ってるだろ。俺は知らないんだって」
「え~?昼休みならいるかな?」
「知らねえよ!」
どうやらお父さんのことを話してるみたいだ。
「あの、お父さんなら今来たばっかだと思うんで、もう職員室にいると思うけど…」
「お父さん?…じゃあ、あなたがしn…じゃなくて、東雲先生の娘さん?へ~」
「あの…、近い…」
「あ、ごめんごめん。あたしは王林美波。今年から転校してきたの。よろしくね、東雲さん」
「私は東雲愛奈。愛奈でいいよ」
「じゃあ、あたしも美波で。よろしくね、愛奈」
「うん!」
昨日はこの先どうなるか不安だったけど、新しい友達が2人もできたし、大丈夫そうだ。
「じゃあ、あたしは職員室に行くね。またあとで」
「うん。あとで」
「おう。困ったことがあったら俺じゃなくて先生達に聞けよ~!」
美波は私達に手を振ると廊下を走っていった。
「なんていうか、親しみやすい子だね」
「馴れ馴れしいとも言うけどな」
「そういう言い方しないの!でも仲良くなれそうでよかった」
「そういえば、東雲先生のこと知ってる風だったな。なんかウチの父さんのことも知ってるっぽかったし」
「そうなんだ。なんていうか、謎の転校生だね」
「ま、気にしてもしょうがないか。お、先生来たぞ」
「ホームルーム始めるぞ~。みんな座れ~。今日は転校生を紹介する。入ってこい」
教室に入ってきた美波は黒板に名前を書いて自己紹介をした。
「隣町の高校から来た、王林美波です。みなさんよろしくお願いします」
「あー、じゃあ王林の席は…、東雲の隣のあそこな」
「はい」
「じゃあ、ホームルームはこれで終わりだ授業に遅れるなよ~」
美波は私の隣の席に着くと、こちらを見て微笑んできた。
「改めてよろしく、愛奈」
「うん、よろしく。そういえば、挨拶とか慣れてるの?全然緊張してなさそうだったけど」
「えっ?そ、そんなことないよ。まぁ、でも…あたし、転校慣れしてるから」
「へぇ…。てことは、親は転勤族とか?」
「いや、えーと。あたし、一人暮らしだから」
「一人暮らしか…。まぁ、他人の事情に口を出すのも悪いし。あ、お弁当一緒に食べよう?」
「うん!あ、そろそろ授業始まるよ」
美波が授業についていけるか心配だったけど、問題なくついていけているようだ。その後も授業は滞りなく進み、昼休みとなった。
「くぁ~!やっと昼休みか~!よっしゃ、愛奈、美波、昼飯にしようぜ!」
「うん。屋上でいいよね?」
「あたしもお腹減っちゃった~。早く行こう?」
私達が3人で屋上に行くと、外は気持ちのいい風が吹いていた。
「いい風だね~。お弁当を食べるのにぴったり!」
「そうだね。…ホントに久しぶり」
「ん?久しぶりってどういうことだ?」
「あ、え!?えーと、ほら、前の学校でも屋上でお弁当食べたなって」
「あ、そういうことか。確かに春休み明けだし久しぶりだな」
「うん!そ、そういうこと!ほら、時間ないし早く食べよ!」
「う~ん…。うん、そうだね」
私は少し腑に落ちなかったが、美波の言うとおり時間もなかったのでお弁当を食べて教室に戻った。その後も問題なく順調に授業は進み、放課後となった。
「さてと、じゃあ帰ろっか」
「おう。長居する用もないしな」
「あ、2人とも!良かったらウチに寄っていかない?」
「美波の家?う~ん、ちょっと待ってて。お父さんに電話してみる」
「遥は?」
「行くよ。どうせ暇だしな」
「お父さん、いいって!私もお邪魔するね」
「うん。じゃあ着いてきて。案内するから」
「ちょっと待ったーーー!」
突然、私達に聞き飽きた声がかかる。
「私も連れてって。転校生に興味あるの!」
「なんだ、莉乃か。いきなり大きな声で話しかけられたからびっくりしちゃった」
「えーと、その…」
そういえば、美波は莉乃とは初対面だった。とりあえず私は莉乃のことを紹介する。
「えっと、この子は…」
「私は藍島莉乃!愛奈の友達でクラスは隣の2年B組!よろしくね!」
「う、うん。よろしくね、藍島さん?」
「莉乃でいいよ。よろしくね美波!」
「うん。よろしく莉乃。じゃあ4人であたしの家に行こっか」
莉乃を加えて、今度こそ私達は美波の家に向かうことにした。案内されるままについて行くと郵便局の横の二階建ての一軒家に着いた。
「ここだよ。あたしの家」
「へぇ~。引っ越して来たばっかりなのに立派な家だね」
「あ、あの…。それはね!昔、ここに住んでた人が親の知り合いで、今は私が住まわせてもらってるの」
「へえ、そうなんだ~」
「さあ、みんな上がって上がって!飲み物用意するから待っててね!」
私達を部屋に案内すると、美波は台所に向かっていった。その間に私は彼女のことを考える。すると、私は朝に自分で言った言葉を思い出した。
(謎の転校生…か。お父さんや校長先生のことも知ってるみたいだし、この家も美波が以前住んでいた割には建ってから結構経ってそうだし。ホント、何者なんだろ?)
「お待たせ!オレンジジュースでいいよね?」
「うん、ありがと」
「じゃあ、ゆっくりしていってね」
いただいたジュースを一口飲むと私は早速美波に話を切り出した。
「ねえ、美波。単刀直入に聞くけど、美波ってここ…この町に住んでいたことあるよね?」
「えっ?」
「だって、屋上で言ってた、久しぶりっていうのも、前の学校の出来事っていうよりも町の景色を見て言ったって考えた方が納得いくし。」
「ふふっ、考え過ぎだよ。本当に前の学校のことを思い出して言っただけだから」
「じゃあ、私や遥の家族のことを知ってるのは?」
「それは…、私の親戚のお姉さんが知り合いで、その人から話を聞いたことがあったんだよ。おもしろい人だって」
「へえ…。その親戚のお姉さんの名前は?」
「……」
美波はいきなり黙り込んでしまう。
「美波…?」
「…えっ?あ、ああ…、名前ね。その人の名前は、琳音。南雲…琳音だよ」
私はその後ジュースを飲んだりお菓子を食べたりして、しばらく3人で喋ってから帰宅した。
「ただいま~」
「おかえり、愛奈。夕ご飯の前にお風呂入るでしょ?」
「うん。お母さん、お父さんはまた遅いの?」
「そうみたい。食事は先に済ませといて、だって」
「お父さん、忙しそうだもんね。…じゃあ、お風呂入ってくるね!」
「はいはい。あまり長く入ってないでね~!」
私はシャワーを浴びながら、美波の様子について考えていた。
「う~ん。やっぱりなんか変だよね…。あの反応、やっぱり美波はこの町に住んでたことがある!…と思うんだけど、本人があんなに否定してるとなぁ…」
「愛奈ちゃん、義姉ちゃんが早く上がれって」
「はーい!すぐ行く!」
楓叔母さんに言われ、私は急いでシャワーを済ませた。
「いっただっきまーっす!」
今日の夕ご飯は私の大好物のハンバーグ。お母さんが作る料理はいつもとてもおいしい。
「今日、私のクラスに来た転校生の家に行ってきたんだけど」
「ふーん。その子の名前は?」
「王林美波っていうんだけど、話しやすくて私も遥もすぐに仲良くなったの」
「それは良かったね。遥っていうのは確か、雷道さんの子だったっけ?」
「そうそう。でさ、その美波の親戚の人がお父さんや校長先生と知り合いらしいの」
「じゃあ、ボクもその人のこと知ってるかもね。その親戚の人の名前とか聞いたりしなかった?」
「うん、聞いたよ。えーっと、確か…、南雲琳音さん…だったかな?」
「え…?り、琳音ちゃん!?」
「…?お母さん、どうしたの?」
「う、ううん!何でもない。南雲琳音さんね。確かにボクやシンの知り合いだよ」
「それに、私の知り合いでもあるよー。でも、琳音さんは…」
「どうかしたの…?」
「琳音ちゃんね、一昨年に事故で亡くなったんだよ」
「え?それ本当!?」
「うん。間違いないよ。いきなり大きな声出しちゃって、どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
「そう?ならいいけど…」
「それじゃあ私、部屋に行くね。ごちそうさま」
私は階段を階段を上って自分の部屋にはいる。宿題は特に出ていなかったので、机には向かわずにベッドに寝転がってさっきのお母さんの言葉を思い出していた。
(おかしい…。琳音さんが一昨年に亡くなっているなら、美波が引っ越して来た昨日まで空き家だったはず。それにしてはあの家、生活感がありすぎるような…。もしかして…)
「もしかして、事故で亡くなった琳音さんの亡霊が住んでいたとか!?」
怖い話は嫌いじゃないけど、実際に考えると少し怖い。少しだけだけど。…本当に少しだけなんだからねっ!
「あー、もう!頭がこんがらがってきた!」
すると、突然部屋の扉がノックされる。
「愛奈ちゃん、ちょっといい?」
「うん。どうしたの、楓さん」
楓叔母さんは部屋に入ると、ベッドに腰掛けた。
「ねえ、愛奈ちゃん。世の中にはね、不思議な力とか、科学で説明できない超常現象とか、そういうものがたくさんあるの。愛奈ちゃんが入学してから一年間『奇跡的に』何も無かったけど、春夏秋冬学園に入学したからには、そういう事態になるのは避けられないよ」
「そういう事態…って、どういうこと?」
不思議な力とか、超常現象とか、楓叔母さんはそう言ったけど、理解が追いつかない。もしかして、今の美波と琳音さんの問題もそういう類のモノだと言うんだろうか。
「だから、愛奈ちゃんが無事にトラブル起きまくりのあの学園から卒業できるように、私からおまじない。…さて、あなたはどんな力に選ばれるかな?」
「力って、…っ!?」
突然頭痛に襲われ、顔をしかめる。
「愛奈ちゃん?今、頭の中になにが見える?」
「頭の…中…?これって…天使?」
「…!まさかそれが愛奈ちゃんを選ぶなんて…。でも、この黒いのは…?」
「ねえ、叔母さん?これ、何…?」
「言ったでしょ。おまじないだよ、おまじない。じゃあね。おやすみ、愛奈ちゃん」
「え?ちょ、ちょっと!?楓叔母さ~ん!!?」
私はまだ少し痛む頭を撫でながらベッドに横になると、考え事をしている内に眠ってしまった。
愛奈の部屋を出た楓は呟いた。
「 奇跡の一年間は終わった。愛奈ちゃんはこれからきっといろんなことに巻き込まれる。それにしても…」
さっき愛奈にした『おまじない』のことを思い出す。
「護身用のつもりだったけど、とんでもないのを与えちゃったかな?あれほどの力があの子を選んだ。やっぱり愛奈ちゃんは才能の塊なのかな」
天使。楓が施せる『おまじない』のなかでその名が示すものは2つ。1つはかつて、兄・慎に与えたもの〈ルシファー〉。そしてもう1つは…
「…ミカエル。まあ、愛奈ちゃんなら使いこなせるだろうし、心配する必要はないか。それにしても、さっき愛奈ちゃんの中に見えた真っ黒いところ、もしかして…もうすでに能力を?そこはお兄ちゃんと美愛お姉ちゃんの子供だし、乗り切ってみせるか…」
楓は窓から月を見上げる。
「さて、美波ちゃんのことも含めて、これから愛奈ちゃんも大変になるね。さあ、愛奈ちゃん。あなたはその『能力』で何を成し遂げるのかな?」
続く